15話 天使と出会う少女
初めて出撃をした美月。
だが、彼女は当然練習も訓練もしていない。
その事を告げると新谷は前には出るなと言ってくれるのだった。
「良いか? 君は安全な所に居てくれ」
空を飛びながら、色々な事を教えてくれた彼の名は新谷彰人。
ですが、その殆どが美月には意味のない物でした。
何故なら彼の機体と美月の機体では作りが違います。
ですが、彼が気付く事は無かったようです。
何故なら外見は色以外ほとんど変わりがないのですから。
「それにしても灰色のイービルか……珍しいな」
彼女の機体の事は希望と呼ばれていた割には知られていないようでした。
しかし、美月は当然なのかな? と考えます。
理由は簡単です。
イービルは対天使用人型兵器。
ですが、今までイービルをもってしても天使と対等に戦えたわけではありません。
誰もがその事を知っており、美月も耳にタコが出来るほどニュースで予算がー被害がーと言うのを聞いています。
そんな中、ただでさえ強力な魔法。
それを使えるイービルがあり、それを操る悪魔使いが居たらどうでしょう?
期待します。
美月も当然期待するでしょう、魔法使いは身体こそ弱い、ですがそれを覆すほどの力を持っているのですから。
英雄です、ヒーローです。
きっと天使を倒してくれる。
そんな期待が人々に生まれるでしょう。
ですが、現実は美月が現れるまでこのイービルは動きもしなかった。
そんな中、マナ・イービルが完成している魔法を使うイービルだと言われたら?
当然それに乗る悪魔使いは誰だ? と言う話になります。
ですが、それが居ないとしたら? ぬか喜びも良い所です。
人々はこう思うでしょう、使えもしない道具を作って放置しただけだ、と……。
だからこそ、このイービルが一部の人間にしか知らされてないのでは? と美月は思いました。
そして、今機体とそれを操る悪魔使いが揃った。
それはつまり、その期待が美月に向けられる事になります。
ですが、そんな思いに潰される前に美月は――。
ど、どどどどどうすればいいの? 銃は……使ったら、駄目って……。
それに、剣だって……使った事……そもそも、前に出たら駄目……。
初めての訓練どころか実戦です。
彼の言ったように銃が使い物にならない事ぐらいは予想できます。
幾ら的がデカくても、初心者が簡単に扱えるほど銃はお手軽な武器じゃないでしょう。
なら、剣は? と考えましたがぶんぶんと振り回すのは出来るでしょう。
ですが、それだけです。
それに剣を使うという事は天使に接近するという事です。
「…………怖い」
止められているうえにいくらなんでも怖すぎる。
美月は思わず自分の心の中に閉じ込めておきたい言葉を口にしてしまいました。
すると――。
「だろうな、訓練も無しなんだ……大丈夫だ! 僕に任せ置けって、絶対に守ってやるから」
聞こえてきたのは新谷の声。
歯の浮くようなセリフをすらすらと言える彼は余程の自信があるのでしょう。
顔も知らない美月ですが思わずドキリとしてしまうぐらいです。
「見えてきたぞ!! 夜空ちゃんは後ろで待機良いな?」
彼の言葉に前を向くと遠くに白い羽根を持った大きな人が居ます。
天使です。
あれが人類の敵であり、殺戮者。
宇宙からの侵入者で宣戦布告も無しに攻撃をしてきた略奪者でもあります。
「は、はい……」
たったの2機で立ち向かえるのでしょうか?
ましてや、美月はたった今、新谷に前に出ることせず自分の身を守り待機しろと言われています。
実質1機で勝てるのでしょうか?
相手も1機なので何も知らない人なら対等と思うかもしれません。
ですが、地球に住む人間は知っているのです。
決して対等ではない、一方的にやられるだけ……そう美月も思っていました。
だからこそ……。
出来る事はしないと……魔法を使う機体なら……きっと……でも……。
美月は長い事化け物と呼ばれないために癒しの魔法以外使った事がありません。
無意識で防御の魔法は使ったみたいですが、それでも攻撃の為ではありません。
ちゃんと……ちゃんと使えるのかな?
そんな風に不安に思う彼女は――。
「そこで待機だ!」
新谷の声を聞き、慌ててその場に留まります。
すると、それを合図にしたかのように天使は大きな羽を広げこちらへと向いてきました。
新谷は銃を構え、天使へと発砲します。
大きな音が響き渡りましたが美月は空薬莢が地上に降り注ぐのを見て慌てて下へと目を向けます。
幸い、人が居るという事は無いみたいですが、落ちて行った薬莢でビルなどに穴が開いていました。
悪魔と天使との戦いで被害が拡大するっと言っていたニュースを思い出し、言われて当然だなと思える現場がそこにはありました。
ですが、天使相手に背を向けて安全な場所に誘導するなんて事は出来ません。
自殺行為です。
それは今日イービルに乗ったばかりの美月も理解しました。
対天使用大型アサルトライフル何て名前が付いた銃は天使に見事に当たるのですが、効果などまるでないかのように天使は動き……。
「クソ! やっぱり関節部分を狙えないと駄目か!!」
新谷のそんな愚痴が聞こえました。




