69話 託されたものを知る悪魔乗り
「最後の希望?」
美月はその言葉を繰り返します。
一体どういう意味があるのでしょうか?
「貴方達の技術力の成長は早かった……そのお陰で私達も成長できた」
彼女はそう言うと美月へと目を向けます。
「そして、私達は敵を捕らえられた……情報も引き出せた」
「情報? それに捕らえただって?」
司が驚きの声を上げると彼女は頷き……。
「天使の一体、それの沈黙かに成功した。犠牲は多かった……でも、その情報をミュータントから得た」
「そう言えば、ミュータントを回収してたんだっけ?」
綾乃が少年に向かってそう言うと彼はぶんぶんと頷き始めます。
当然それを見た綾乃は訝し気な視線を彼女へと送り……。
「それで? なんでそんなことしたの?」
「ミュータントには二つの役割がある。一つは寄生させ魔法と言う力を与えると共にじわりじわりとその惑星の人を蝕んでいく……成長したミュータントはその土地に特化してどんなものにも寄生できるようになる」
それを聞いて、一同はゾクリとするものを感じました。
つまり彼女はこう言っているのです。
ミュータントは元々天使の物だと……そして、それは生物兵器だという事を……。
「もう一つは?」
「情報収集、死んでもミュータントは記憶してる」
「つまり、天使は私達と違って寄生されても平気と言う事ですね?」
リーゼが確認をすると彼女は頷きます。
「ヘモグロビン値が高いってこと?」
「それだとミュータントの方が死滅する、他の理由があるんだろう……だが、なぜだ? 何故そんな回りくどい事をする?」
そう、彼らの目的が人類の滅亡なら有り余る力で滅ぼしてしまえば良いのです。
それこそ戦争なんて意味のない事でした。
いや、最初はそうだったか……そんな事を司は口にします。
ですが、彼女は首を振り、それは違うと示したのです。
「ミュータントの成長の為」
「どういう事?」
美月が恐る恐ると尋ねると彼女は――美月の頭へと指を向けました。
「それは奴らの子供……ミュータントは天使そのもの、人の身体をしているのはただの寄生主に過ぎない」
「…………え?」
それは、意外過ぎる言葉でした。
「ミュータントの成長には特定の栄養素が必要、だけど知能が無い生物には本来は寄生できない。人間は丁度良い……」
そして、そう語り始めた彼女の言葉に美月達魔法使いは金槌で頭を打たれたような感覚に陥りました。
それもそうでしょう。
人のために戦って来た自分達が本当の化け物同然だという事を告げられたのですから……。
例えそれが嘘だとしてもショックではない理由にはなりません。
「それじゃ何……人類がミュータントを手に入れたのも奴らの所為だって言うの?」
「……そう、だけど焦ってる」
そう言うと彼女は美月達へと目を向けます。
当然美月達は身構えるのですが……。
「ミュータントに耐性を持った人間、そしてジェルンを元にし造られた兵器……それを操る人」
「ジェルン?」
その疑問に少女は答えることはありませんでした。
ですが、悪魔乗り達の方へと目を向けたのです……恐らくそれが天使の本来の名なのでしょう。
「パパの置き土産は役に立った?」
どこか寂し気に美月達悪魔乗りを見回す少女。
彼女は今にも泣きそうな顔だった。
「つまり、君が……いや、君の父親があの天使を倒したというのか?」
「……正確にはミュータントを殺した。だけど、ジェルンは強力……もうパパはいない」
彼女の言葉はやはり信じられないものだったのです。
だが、彼女は更に言葉を続けました。
「私は伝えに来た……貴方達のお蔭で私達の文明も進化した、だから……」
彼女は持っていた鞄の中から一つのノートパソコンを取り出します。
「だから……」
そして、それを起動するとあるデータを呼び出しました。
そこには数字の羅列や画像。
美月達には到底理解できない物を見せてきたのです。
「これは?」
「魔法を制御する装置、これなら魔力を使えない人間でも魔法を使える……でも、劣化するし……貯めておくのはどうやっても出来なかった」
彼女の言葉は段々と小さくなっていく……。
「でも、これなら魔法使いの負担が減る……それに、役に立つはず……」
だからと言葉を続けた彼女は美月達を見つめ――。
「奴らをあいつらを殺してほしい、パパを殺した奴らを……」
その瞳からは光が消え、そこにあったのはどす黒いとまで思える怨念でした。
その場は「少し考えさせてほしい」と言う司の言葉で終わりを告げました。
ですが、エルフの少女をそのままにしておくわけにはいきません。
ですから今は取りあえず部屋をあてがいそこで寝泊まりをしてもらう事にしました。
と言っても本当の意味は軟禁です。
彼女の正体はまだ分かりません……。
ですから、それは仕方のない事だと思いつつも美月は彼女と綾乃を交互に見つめました。
何処か似ている所があったからです。
それは綾乃も感じているのでしょう……彼女もまた少女を見ては複雑そうな表情を浮かべるのでした。
一体彼女は何者なのか……本当にこの世界に元から住んでいたのか……。
それは分からずとも思いそれだけは確かなのでしょう……。




