67話 覚えてない悪魔乗り
「…………」
美月がジャンヌから降りると其処に居たのは2人でした。
1人は平凡な高校生。
何処かで見たような気がしますが制服を着ていないので彼が何処の学校なのかもわかりません。
もう一人は釣り目の少女。
それだけなら美月は立ち止まらなかったでしょう。
そう、その少女は他の人と違ったのです。
耳が長い……?
まるで話に出てくるようなエルフ。
そう言っても良いでしょう。
そこに居たのは美しい少女でした。
「あ、あの……怪我はないですか?」
美月はしばらく見つめていましたがやがてハッとすると彼女にそう告げます。
すると彼女は美月の元へと歩み寄り……。
「――――」
何か良く分からない言葉を使いながら美月を見つめてきました。
「え、えっと……?」
その行動に思わず困惑してしまう美月。
ですが、エルフ? の少女は美月の周りをぐるぐると回り始めます。
その表情は何処か警戒をしているようにも見えました。
困った彼女は連れの男性へと目を向けますが……。
彼はその視線に気が付くと顔を赤くしながら首をぶんぶんと左右に振るのです。
それが意味するのは恐らく彼女が何をしているかは分からない。
そう言う事でしょう。
暫くそうしていたのでしょうか?
美月は此方に向かってくる3つの陰に気が付きました。
どうやら時間がかかってしまった事で心配をさせてしまったようです。
「美月!」
綾乃達が無事だった事にほとっした美月は思わず駆け寄ろうとしますが、目の前の少女の所為で向かう事は出来ません。
すると綾乃達の方から駆け寄って来てくれました。
「ど、どうしたの?」
「わ、分からない」
綾乃の質問へとそう答えると綾乃はもう一人。
つまり少年の方へと目を向け――。
「あれ?」
彼の顔を見るなり意外そうな表情を浮かべます。
「なんでここ居るの? いや、その子もだけどさ、ここ確か封鎖されてるんじゃ?」
そう、イービルの戦闘地域になった場所はすぐにシェルターの扉が開き、住民の避難後に地域の封鎖命令が届きます。
ですから、彼がここに居るのはおかしいのです。
「いや、イービルが見れるかなって……」
「はぁ!? 死ぬかもしれないのに何言ってるの!?」
彼の発言に思いっきり呆れてしまった綾乃はそう言い、その様子を見て美月は首を傾げました。
「知り合い?」
親し気な様子を見てまさか彼氏ではないだろうか?
そう思った美月は途端に不安な気持ちが溢れ出ます。
ですが、それに対し綾乃は驚いたような顔を浮かべ……。
「クラスメイトだよ? 憶えてない?」
今度は美月が驚く番でした。
彼の顔をまじまじと見ますが、見たことある様な、無いような……。
ただでさえ学校ではあまり人と関わり合いを持たないようにしていた美月ですから分からないのです。
「お、覚えてないのか?」
彼の方も驚いたらしくがっくりと項垂れています。
美月は申し訳ないと思いつつも正直に答えました。
「う、うん……」
「はは……そうか……」
引きつった笑い声をあげる彼に対し、ますます悪いと思う美月。
辺りには微妙な空気が流れ始め、どうしようか? そう思っていると……。
「と、とにかくいったんここから離れましょう?」
「そうだね、此処危ない!」
リーゼとリンチュンがそう言い、美月達は頷きその場から離れる事にしました。
ですが、彼らを放っておくわけにはいかないのです。
「取りあえず、すぐそばに支部があるから」
綾乃は彼らをいったん支部に届け、安全を確保するつもりらしく美月もその案に乗ったのでしょう。
「イービルで護衛はするから、ね?」
彼らを安心させるためにそう口にすると……。
「いー……びる」
先程からずっと黙っていた少女はそう口を開きます。
年の割には妙に舌っ足らずな言葉に美月は首を傾げました。
ですが、その場で問いただしても意味はない。
そう思ったのでしょう、ジャンヌへと乗り込むと彼らが安全に支部へと向かえるように護衛を始めるのでした。
その間も美月は女の子の事が気になり目を向けます。
その子にはまるで意志と言うものが無いとでも言うかのように、彼の後を歩いて行きます。
いや、実際には彼に引っ張られているといった方がいいのかもしれません。
時折立ち止まっては美月達を見つめる事はしても、それ以外に自主的に動く事はあまりないのです。
不思議、と言うには少し変な少女。
彼女は一体何者なのだろう……そう思いつつ美月は彼らの行く場所に危険が無いかを確認し、支部へと辿り着くのでした。




