63話 心配する悪魔乗り
「リンちゃん、起きてて大丈夫?」
美月はベッドへと近づきリンへと声をかけます。
すると彼女は頷き――。
「うん、身体に変な所は無いみたい?」
首を傾げながらそう口にしたリン。
彼女を心配そうに見つめるのは美月だけではありません。
綾乃もまた彼女へと近づき……。
「本当? 何も無い?」
身を乗り出しそう告げるとリンチュンは困った様な顔を浮かべます。
「ふらふら……する。変な所、本当にないけど……」
それを聞きふぅと息をつく二人。
そう、それは美月にも起きていた異変だったからです。
美月も薬を飲んだ時には同じ症状が出てしまっていました。
だから心配する必要はない。
そう思っていたのですが……。
「リンチュンさん、あれから変化はありませんか?」
先程診察していた人が終わったのでしょうか?
吉沢は真面目な顔で部屋へと入って来ました。
胸が大きい女性が嫌いらしい彼女ですが、仕事は仕事と割り切っているのでしょう。
だからこそ、安心できるのですが……。
「あの、何か問題が?」
美月は吉沢に尋ねると彼女はその表情を歪め……。
「いえ、症状は同じですよ? ですが、油断はいけません」
そう言うとバイタルを計測し始める吉沢。
「でも、美月と一緒でしょ?」
それに対し綾乃はそう言うと付け加えます。
「リンちゃん不安にさせる理由ある?」
「不安にさせるかは分かりませんが、似た症状だからまったく同じと言う訳ではありません」
彼女はそう言うと――。
「現在のリンチュンさんの症状は確かに似ていますし、特変もありませんが……それを同じと見るには早計です」
その後に「まぁ、現状から見てそれは杞憂だとも思えますが……」と付け足した彼女は小さな機器を取り出しました。
それは美月も知っています。
血中酸素量を測るという道具です。
「薬を一つ作るというのは本来もっと時間のかかる事です……ここ迄の速さで作る事は本来ありえません」
真剣な顔で話を進める彼女はまるでまともな医師か看護師に見えました。
「それで、警戒してるって事?」
「ええ、美月さんもここにはちゃんと来るように継続的に摂取する事で起きる副作用があるかもしれませんから」
「は、はい……」
本当は出来るだけ吉沢とは接触したくない美月でしたが、現在はそんな事を言ってはいられません。
ため息をつきつつ頷くとその答えには満足したのか吉沢は優し気に微笑みました。
「はい、終わりです。落ち着いている様ですね……帰っても大丈夫ですよ、ただし異変を感じたらすぐに来てください」
リンチュンへとそう言うと彼女は頭をさげ、丁寧に礼を告げます。
すると当然その胸についている大きな胸は揺れ……。
「ああ、ついでに手術でその邪魔なものを取って良いですか?」
「へ?」
「信乃お姉ちゃん……」
最後の最後で耐え切れなかったらしい吉沢は笑みを浮かべながらそんな事を口にしました。
取りあえずは大丈夫だろう。
そう判断をされたリンチュンを連れて美月達は廊下を歩きます。
すると目の前から最早見慣れた少女が歩いてきました。
彼女は美月達を見つけると妖精の様な笑みを浮かべて走ってきます。
「あ、こら!! 走らない!!」
思わずそう声をかけた綾乃。
そう、彼女もまた魔法使いです。
ですが、彼女は例の薬をまだ飲んでいません。
走れば当然……。
「はぁ……はっ、はぁ……」
短い距離であっても息を切らしてしまいます。
「だ、大丈夫!?」
美月は彼女へと駆け寄り訊ねます。
すると彼女は――。
「やー」
いつもより苦しそうにそう口にしました。
どう見ても大丈夫ではないでしょう。
それでも彼女は顔を上げると笑みを浮かべ――。
「皆さん、おそろいでどうしたんですか?」
ところころと可愛らしい表情で語りかけてきました。
「えっと、今信乃お姉ちゃんの所からの帰り」
綾乃がそう言うとリーゼは少し考えるそぶりを見せ……。
「ああ……」
少し表情を曇らせます。
まさか、何かされたのでは? 美月と綾乃はそう疑いますが……。
「あの怖い人ですよね? なんか私嫌われる事したんでしょうか?」
「あ、分かるかも……私もなんか、凄い目でみられる時、ある……」
困った様な顔を浮かべるリーゼに対しリンチュンも同意します。
すると美月と綾乃は自身の身体へと目を落とし……。
今度は目の前に居る二人へと目を移します。
「格差社会って奴だね」
「……うん」
その差は歴然としたものであり、美月達も吉沢程ではないとしても複雑な思いを抱えるのでした。




