61話 駆り出される悪魔乗り
翌日からも検証は続きます。
天使との戦いも勿論続いていました。
ですが、出せる機体は少なく……。
美月達も駆り出されるのは当然です。
「綾乃ちゃん、右!! 2時から来てるよ!!」
逃げるわけにはいかない。
美月達はそう思いながら戦っていました。
ですが、実際には逃げ道などありません。
「このぉぉぉぉぉおおおお!!」
超大型ブレイバーを振り回す綾乃は叫び天使の背骨を砕きます。
動かなくなった天使を見て、地面へと剣を突き立てた彼女はコクピットの中でぜぇぜぇと息を切らしました。
力任せで乱暴な戦い方。
それは普通の悪魔乗りでは死んでいてもおかしくないと美月は思っていました。
事実コクピットにかかる衝撃はいくら吸収しても防ぎきれないでしょう。
常人ではない、その理由を彼女が生きている事で証明しているかのようです。
「これで、終わり?」
息を整えおわった綾乃は美月へと問い、美月は慌ててレーダーを確認します。
「うん、今ので最後みたい」
今回襲ってきたのは3機。
ですが……。
「何か、毎回微妙に強くなってない?」
「そう、かな? そうかも……」
モニター越しに彼女の苦笑いが見えた気がした美月は戸惑います。
確かにおかしいのです。
今まで戦ってきた天使は決して弱くありませんでした。
ですが、段々と美月達の動きに合わせてくるようになったのです。
今だって、気が付くのがもう数秒遅かったら……。
美月は先程の状況を思い出しゾッとします。
「これ、報告しておいた方がいいね」
綾乃はそう言うと天使を見下ろし、超大型ブレイバーを収めると美月の乗るジャンヌへと目を向けます。
「帰ろっか」
「……うん」
美月は頷き、二人は支部へと戻るのですが……彼女の胸の中には引っ掛かりが生まれました。
何故この頃襲ってくるのが日本だけなのか? それも気がかりだったのですが……。
本当にこの数回で動きが変わってる。
まるで私達を観測してるかのように……もしかして、相手は戦いを通して邪魔な私達の情報を手に入れてるのかな?
それだとすると……私達は勝てるのかな?
今までは優位に立っていた天使。
ですが、この所は敗退が続いています。
反撃に出てもおかしくはない……そう思い、美月は不安をその胸に抱えます。
彼女達が去った後。
天使とはかけ離れた小さな戦闘機らしきものがその場に飛来します。
ですが、それは誰も分からない事でした。
恐らくそれには強力なジャミングシステムが搭載されているのでしょう。
『…………』
中から現れたのは人のような者。
それは辺りを見回すと壊れた天使へと近づきます。
そして、何かを操作し、頭部のコクピットから同じような人を引きずり出すと――。
それの頭に手をかざしました。
するとうねうねと動き回る何かが頭を突き破り出てきます。
人はそれを何のためらい無く手に取ると……。
うねうねは人の腕を伝い頭へと昇って来ました。
そして、耳から体の中へと入り込みます。
それは流石に何かを感じたのでしょう。
『ぁ……ぅ!?』
まるで人間。
それも女性が悶えるような声を出したソレは辺りを見回します。
『…………』
羞恥でも感じているのでしょうか?
よくよく見ると顔が赤くなっているようにも感じられました。
そう、それを見ていた人物がそこには居たのです。
彼は、イービルの活躍を見るためにそこに来ました。
ですが、それは幸いと言って良いのでしょう。
敵う事はなかったのですが、それに遭遇してしまったのです。
「なんなんだよ、なんなんだよ!! あれ……」
人の様で人ではない何か……。
少なくとも女性であることは分かります。
ですが、未知の存在に彼は戸惑い……。
『あー……あー……』
それが何かをしている事に気が付くとゆっくりと顔を物陰から出します。
『あんぜる……あんぜる……』
日本語で話すそれは「あんぜる」という言葉を使うと空を睨みます。
『イービル……アンゼル……魔法……』
何か思いついた単語を繰り返している様子の彼女を見つめていると彼は違和感に気が付きました。
彼女は天使の残骸を睨み。
手を向けると……。
『憎い……』
と言い魔法を放ったのです。
そんな時彼の目にはもう一つ何かが目に映りました。
「――っ!?」
それは見たことも無い機体でしたが、異様な雰囲気を持ちそこに迫ります。
「やべ――!!」
彼はそう言うと思わずその場から飛び出し、彼女の手を取り――。
『――っ!?』
「馬鹿!! 逃げるんだよ!!」
と走り出すのでした。




