60話 意味を知る悪魔乗り
慌てる綾乃をしり目にリンチュンは渋々と言った感じで服を着ます。
どうやら気にしてはいないようですが……。
「何か吉沢さんの気持ちが分かった気がする」
美月は自身の胸へと手を当てぼそりと呟きました。
その理由はリンチュンのは揺れるのです。
そう僅かに動いただけで揺れていました。
「そ、それで……リンちゃん?」
そんな中、綾乃はリンチュンに先程の事を問います。
するとリンチュンは迷うことなく首を縦に振りました。
そんな彼女の選択に罪悪感を覚える美月達。
「それじゃ、吉沢さんの所に行こう」
薬を持ってくればよかった。
そう思いながらも美月達はリンチュンを連れ外へと出ます。
これでリンチュンの協力は得られました。
取りあえずほっとした二人は吉沢の元へと向かうのです。
そこでリンチュンに薬を処方してもらいました。
彼女へと飲ませると以前の美月同様モニターする為、彼女の仮眠室へと入りました。
「もし変だったら言ってね?」
頷くリンチュンと心配する美月。
そんな二人の間でやはり心配しているだろう綾乃。
その部屋は今度はそんな三人だけになりました。
数時間後。
結果から言うとリンチュンに体調不良の訴えはありませんでした。
だが、今までと違う身体になれないのでしょう。
ちょっと気抜くとめまいが出てくるのとの事です。
「ぅぅ……」
美月は唸り声のような物を上げリンチュンの傍へと寄りました。。
しかし、彼女は何も言って来ません
「…………」
ただ、薬があっている美月をじっと見つめてくるだけだでした。
美月は今回の薬で体調がかなり改善しました。
それは吉沢にとっても予想外の物、勿論美月自身驚いていました。
「あの、リンちゃん?」
ですが、そうやってじっと見つめられるとどうもむず痒く感じ……美月は視線をあちこちに動かします。
「……助かるの?」
そんな時、彼女からようやく告げられた言葉はそれでした。
美月達は急に真面目な顔になり、黙り込みます。
助かるというのは死なないという事でしょう。
ですが、それを約束してあげれるほど薬は完成されていません。
「分らない……」
だからこそ、綾乃は正直に答えました。
それに対し美月も……。
「でも、今よりはマシのはずだよ」
と付け加えます。
「うん……」
それを聞きリンチュンは首を縦に振りますが、その表情は何処か不安げです。
それはそうでしょう。
彼女は生きるために魔法使いになった。
ですが、その魔法使いである美月は魔法を使い死にかけた。
結局何も変わっていない事にリンチュンが恐怖しない訳がありません。
ですが、そんな彼女は薬を飲んで回復したと言います。
それもまだ実験段階の薬です。
何が起きるかも分からないその薬を口にし、不安にならない訳が無いのです。
「横になるね……」
だからこそ、リンチュンはあまり動かないようにしよう。
そう考えました。
そして彼女はベッドへと横たわり其のまま寝息を立て始めました。
美月達はそんな彼女を見つめ……。
「リンちゃん、大丈夫かな?」
「信じるしかないでしょ? 美月は大丈夫だったからって……」
そう会話を交わしました。
美月にとっては特効薬となった薬。
ですが、それが彼女にどう作用するのか? それは分かりません。
副作用の出方も違うでしょう。
だからこそ、此処でモニターをしているのですが……。
「吉沢さんは副作用が出るような薬じゃないって言ってたよね?」
「いや、美月? 不安で混乱してるの解るけどふらついたりするような副作用が無いって話じゃなかったっけ?」
おろおろとする美月に対し落ち着く様に促す綾乃はそう口にします。
そう、薬にどんな作用があるのかは分かっていません。
「とにかく、アタシ達も何かあったら信乃お姉ちゃんにすぐに報告に行けるようにして置く、それで大丈夫だよ」
「う、うん……」
美月は彼女の言葉に頷きようやく椅子に腰かけます。
そして、寝息を立てるリンチュンへと目を向け……。
「良くなってほしいね……」
「そりゃね……でも、それは美月も同じ事だよ」
と綾乃に言われるとその頬を赤く染めるのでした。
リンチュンが薬を飲んでから数時間。
今の所変な兆候はないみたいです。
リンチュンも落ち着き寝息を立ててているだけで苦しむ様子はありません。
部屋の中で布団にもぐっていた彼女ではありましたが、ちゃんと寝てはいなかったのでしょう。
そう思った美月達は彼女を寝かせておくことにしました。
「さてと……あと少ししたら信乃お姉ちゃんに任せよう……?」
綾乃は時計へと目を向けそう口にします。
美月も時計を見るとデジタルの時計はもう19時と出ていました。
随分と長い時間その場にいたみたいです。
「うん、分かった……」
本当は泊りがけで彼女の様子を見たかった美月ですが、そうすれば母が心配するでしょう。
そうする訳にはいかないと美月は綾乃の提案に賛同するのでした。




