57話 薬の影響を知る悪魔乗り
薬を飲んでから、しばらく時間が経ちました。
「美月、どう?」
綾乃は美月を心配し、声をかけました。
「うん、今のところは何も無いみたいだよ?」
美月はそう言うと飲み物を取ろうと立ち上がります。
すると――。
「あ、れ?」
「ど、どうしたの!?」
ふらつく美月を綾乃は慌てて支えます。
当然リーゼも美月の様子に驚きました。
ですが、美月は首を傾げるだけです。
「あれ? あれ?」
自分の体に起きた異変に美月は戸惑いました。
ですが、彼女が戸惑うのは体調が悪いからではありません。
寧ろ体調は良いのです。
なのに……。
「何で身体が思うように動かないの?」
気分が悪い訳ではありません。
なのに彼女は上手く身体を動かせなかったのです。
「美月やっぱり副作用があったんだよ!! すぐに来てくれると思うから……」
吉沢もこの部屋をモニターしているはずです。
だからすぐに来てくれると考え、事実……。
「美月さん!? 大丈夫ですか!?」
吉沢は慌てて部屋に入って来た。
その様子から自分に大変なことが起きているのではないか? と怖くなった美月でしたが……。
駆けつけてくれた吉沢に診てもらうと……。
「バイタルは安定……、どこか辛い所は?」
「ない、です……」
そう、おかしな事ではありましたが、美月には体調不良は無かったのです。
寧ろ……。
「いつもより、良い気がします」
そう、いつもよりも気分が良く、だからこそふらついた理由が分からず困惑していました。
「まさか成分に麻薬的な効果が?」
吉沢はそう呟き考えます。
ですが、すぐに首を振り……。
「いや、そう言った効果は避けてきたはず……マウスの実験でも問題は無かった……」
彼女はその可能性を否定した。
成分や調合に使った物、それらから考える副作用と今彼女に起きていることがかけ離れているのだ。
「……とにかく、薬をもう一度見直す必要がありますね」
彼女は顎に手を当て考え込むとすぐに美月の方へと目を向けました。
「薬の方は残念ですが、暫く待ってください」
吉沢はそういうと、美月をベッドへと誘導し……。
「もう暫く様子を見ます、ここで休んでくださいね」
と残し、部屋を去ります。
それから暫く、美月はずっとベッドに横になりながらも綾乃達との会話をしていました。
いえ、寧ろ話していないと不安なのです。
私の身体どうしたんだろう?
何も悪くないはずなのに……なんで動きづらいんだろう?
不調が無いのが逆に恐怖を煽り、吉沢の様子からもただ事ではないのでは? と思うようになってしまったのです。
新薬のテストをしているのだから当然といえば当然なのではあります。
それでも美月は怖いと思ってしまいました。
「美月喋り過ぎだよ?」
「ヤー……ちゃんと休んだ方が」
二人に何度目になるか分からない注意をされた彼女は引きつった笑みを浮かべます。
「だ、大丈夫だよ」
それよりもっと会話を続ける美月。
やはりどう考えても不調があるとは自分では考えられませんでした。
しかし事実身体は動かないのです。
だからこそ美月は……。
やっぱりテストを受けるなんて言わない方が良かったのかな?
ちゃんと待ってた方が良かったのかな?
ううん、そんな事無い! これはリンちゃんの……魔法使い為なんだ。
と葛藤しつつも確かな意志を思い浮かべるのでした。
しかし、その薬の影響は確かに美月に出ていました。
誰も分からなかった事ではありましたが……それは会話に憑かれた美月が眠ってしまった後に分かった事なのです。
美月が起きると部屋は真っ暗でした。
誰も居なくなってしまったのでしょうか?
美月は不安になり――。
「綾乃ちゃん?」
信頼できる彼女の名前を呼びます。
すると明かりがつき、心配そうに美月を見つめる彼女の姿がありました。
「美月、起きたの? 大丈夫?」
「うん、やっぱり変な所はないよ?」
美月はそう言ってベッドから抜け出します。
今度はふらつく事はありませんでした。
寧ろ……。
「あれ?」
「ど、どうしたの?」
「身体が、軽い?」
今度は思い通りに身体が動くのです。
一体、彼女に何が起きているのでしょうか?
先程は確かに思い通りに動かなかったはず。
ですが、今度は違うのです……。
「なんでだろ?」
そう疑問を思い浮かべる少女はベッドへと腰を掛け考え込みました。




