56話 医務室に向かう悪魔乗り
医務室に向かうと吉沢信乃は不機嫌そうにしていました。
「何故綾乃がここにいるのです?」
「変な事をしてるって聞いたから……」
以前のような険悪な空気が漂う部屋の中、美月達は検査を受けます。
「はぁ……美月さんとのイチャイチャライフが……」
「何か信乃お姉ちゃん古臭い言葉使ってない?」
綾乃がそう言うと彼女に睨まれてしまい、思わず身を縮こませます。
ですが、検査は問題なく進んでいき……。
「一応輸血をするレベルまでは低下はしてません」
そう告げるとカルテへと目を通し、ため息をつきます。
どうしたのだろう? 美月達は気になるのですが、その理由はすぐに答えてもらえました。
「血液ですが、あの時に見つかったのは本当に奇跡ですが……現在は量も足りていません」
「つまり、あまり魔法が使えないって事ですか?」
美月が訪ねると吉沢は頷きます。
美月達魔法使いが魔法を使うには血中にあるヘモグロビンと言うものが必要です。
ですが、それが減る事で体力の低下、死につながるとこの前分かったばかりでした。
「とはいえ、まだ新薬の方も……」
そう言って彼女は真横に会った机の上にぽつんと置いてある薬へと目を向けます。
「それは何ですか?」
リーゼは気になり指をさすのですが、彼女はワザとらしく薬から目を離しました。
「もしかして、それが例の薬?」
「いえ……そうですが、まだ完成とは」
言えません。
その言葉が続くのは分かりました。
だからこそ、美月は信乃へと近づき……。
「私が飲みます」
「何を言っているの? まだ何が起きるか分からない薬なんですよ? 危険です」
信乃はそれを拒否しますが……。
美月の頭にはそれは当然ありました。
ですが、それよりも気がかりなのはリンチュンの事。
もし、此処で薬が完成すれば……彼女の憂いも無くなります。
そうなればきっと以前の明るい彼女へと戻ってくれるはず。
美月はそう思い、もう一度信乃へと告げました。
「私がテストします」
「……でも」
「誰かがやらないと行けませんよね? なら、私がすべきです……」
その言葉に誰もが沈黙しました。
そんな中その沈黙を破ったのはやはり美月です。
「お願いします」
頭を下げて投薬テストをすることを願い出た美月。
それに対し吉沢は大きなため息をつき……。
「分りました」
と渋々薬を手渡してくれたのでした。
「飲んでから1~2時間は様子を見させてください」
「へ?」
美月は受け取った薬をまじまじと見つめ、思わず顔を跳ね上げます。
「様子を見る、んですか?」
「当然です! 新薬ですよ? それでも少なすぎるぐらいだと……」
彼女の顔は真剣そのものです。
ですが、二人っきりになるとどうなるか分かりません。
また変な事をされるのでは?
美月はそう考え、助けを求めるように綾乃の方へと目を向けました。
「あーねぇ、信乃お姉ちゃん、私もそのテストに立ち会っていい?」
その言葉にあからさまに嫌な表情を浮かべた信乃でしたが、すぐに首を縦に振ってくれました。
「そうですね、リーゼさんもお願いします。どうせこの後は休憩でしょう?」
「私もですか?」
彼女は残る事になるとは思っていなかったのでしょう。
首を傾げて「良いんでしょうか?」と呟きます。
すると吉沢は頷き……。
「その大きな風船は気に入りませんが、美月さんの精神状態の安定につながりますので」
「や、やー……」
明らかな敵意を向けられたリーゼは引きつりながら後ろへと一歩下がり、そう答えました。
「あの、信乃お姉ちゃん……リーゼ怖がってる……」
「何故私にはその脂肪の塊がないんですか!? 今すぐ下さい!」
「いや、アタシに言われても知らないよ!?」
謎の訴えをする彼女を美月は心配そうに見つめつつ、綾乃達が残ってくれることにはほっとします。
確かに彼女の言う通り、綾乃達が居るだけで精神的に楽なのです。
「それでは投薬をしましょう……」
そして、薬のテストは始まります。
美月は渡された水と共に薬を飲むと……。
「こちらの部屋で普段通り過ごしてください」
吉沢に通された部屋に3人で入るのでした。
「普段通りで良いんですか?」
「ええ、ですがカメラもついてますので容体が変化したらすぐに分かりますよ」
どうやら、様子を見ると言っても直接見る訳ではなかったようです。
今や吉沢は支部の医師……忙しい人であり、美月だけを診る事は出来ません。
それもそうかと考えた美月は安堵の溜息をつき、普段通り綾乃達と会話を楽しむのでした。




