54話 束の間の日常を過ごす悪魔乗り
支部へと戻るといつも通り整備班の人達が迎えてくれます。
イービルを降り辺りを見回した美月は――。
「伊逹さんは?」
と首を傾げました。
すると若い男性が彼女の質問へと答えてくれます。
「親方は今……斉天大聖の整備でさあ!」
「リンちゃんの機体はアタシ達のよりデリケートだからね……」
綾乃がそう言うとうんうんと頷く整備班の男性。
彼の名は結城智樹整備班の中では若者をまとめている人です。
「さ! こっちも見ますんで! 修理箇所があったらすぐに治しておきまさあ!」
特徴的な語尾で笑う彼に対し、美月は目を細め笑みを浮かべます。
「お願いしますね」
そして、そう言うと彼は顔を真っ赤な物へと変えて行きました。
「わ、わかってますさ、あ……」
ぎこちない動きへと変わった彼を見て美月は首を傾げます。
「だ、大丈夫ですか?」
「だ、だだだだいじょーぶでさあ!」
今度は語尾が裏返り、何処か身体がおかしいのでは?
そう思った美月は魔法で治そうと考えたのですが……。
「美月、その人本当に大丈夫だから」
綾乃は呆れた様に美月の腕を引っ張ります。
「で、でも……でも、治せるなら!」
治せるうちに治さないと! 美月はそう言いかけました。
ですが、綾乃は首を横にふり……。
「美月が近くに居たら治らない」
「え?」
綾乃にそう言われてはショックを受けるしかない美月は呆然としてしまいます。
すると綾乃は慌てて首を振り……。
「いや、そうじゃなくて、そうだけど……とにかく美月の魔法じゃ治せないし、美月が傍にいるとああなるというか……とにかく! 美月が悪いわけじゃないけど! あ~~~~!! もう!!」
彼女はわたわたとし、頭を抱えると――。
「とにかく美月は悪くないし! あの人は死ぬような病気とかじゃないから!」
そう言うと綾乃は美月の手を引っ張って歩き始め……。
「やっほー美月、綾乃って……あれ?」
以前世話になった整備班の女性、志田里奈は首を傾げていました。
なぜなら、挨拶もせずに綾乃達は去って行くからです。
「え!? え!? あ、綾乃ちゃん!?」
中でも美月は困惑しながらも連れ去られるように引っ張られて行きました。
それについて行くリーゼロッテは首を傾げながら……。
「どこかで見た事、あります?」
とその光景が何だったのかを思い出そうとしている様でした。
「……ん?」
何が起きたのか分からない志田里奈は彼女達を見送る事となり、ぽつんと取り残されます。
「綾乃ちゃん、ちょっと待って……」
転びそうになった美月は綾乃に訴えますが、綾乃は振り返ると顔を真っ赤にして答えました。
「とにかく報告しないと! いけないから、ね!」
「そ、それはそうだけど!?」
美月はそのまま連行されるかのように指令室へと連れていかれ……。
その後を追うリーゼロッテは何故かころころと笑い始めました。
指令室へと向かう途中、美月の頭に過ぎるのは先程の男性の事です。
本当に大丈夫だろうか? もし魔法で治せないというのが本当なら、医務室に向かってくれているだろうか?
そんな事が頭に過ぎります。
ですが、綾乃はお構いなしに美月を引っ張って指令室へと向かい。
辿り着きました。
「綾乃ちゃん?」
ようやく止まった彼女へと声をかける美月。
すると彼女は……。
「美月、良い? ああいう人には今後近づいたら駄目だからねっ!!」
「え? なんで?」
何故駄目なのか? 本当に分からなかった美月は彼女に問いますが……。
「美月は可愛いし、隙だらけだから行けるかもって思われちゃうから! 駄目だよ?」
そう言われて思い出したのは突然襲って来た男性の姿。
その時の事を思い出すと思わず身体が震えてしまいます。
ですが、あの人が同じように襲ってくるとは到底思えません。
だからこそ、美月は……。
「流石に言い過ぎだよ、それに私はそこまで可愛くないと思う……」
というのですが……。
「いや、警戒はしておくに越したことないから! 可愛いから! 絶対!」
そう言い切られてしまい、美月は困惑しつつも黙り込みました。
すると――。
「んー? やっぱりどこかで見た気がします」
その光景に見覚えがあるのかリーゼロッテは首を傾げて考え込みました。
ですが、それが何なのか思い出せないようで……。
「んー? んー!」
と唸るばかり、それを見て綾乃は溜息をつくと……。
「リーゼちゃんも気を付けてね?」
と彼女にも注意を促すのでした。




