52話 量産型の秘密を知る悪魔乗り
「クラリッサ……量産型マナ・イービルだが、よく魔法使いを集めたな」
彼の言葉にクラリッサは呆れたような表情を浮かべました。
それを気が付いているのでしょうか? それとも気が付いていないのでしょうか?
司は話を続けます。
「マナを使える魔法使いが増えれば……」
「そうか、お前達は知らないのか……」
司の言葉を遮りクラリッサは話を切り出しました。
「イービルだが、あれは元々魔法使いの方が適している兵器だ」
「……へ? ちょっと何言ってるの師匠!?」
その言葉に驚いたのは綾乃だ。
それはそうだろう……。
魔法使いは身体が弱い。
だからこそ、イービルには向かない。
そう考えていた美月達だが……。
「人間には防衛本能と言うものがある。魔法使いと言えど例外はない。イービルに乗った際魔法使いは知らず知らずの内に魔法を使い衝撃を和らげている」
彼女はそう説明をすると綾乃の方へと向き直り……。
「馬鹿犬のような人間は特別だ。そうそう居る訳じゃない」
「そ、そうだったの?」
美月は綾乃へと問いますが、当然綾乃は知りません。
「知らなかった……」
彼女は驚いたように口を開け、そう口にしました。
そんな彼女達を見てもう一人今の話に疑問を浮かべた様です。
「例えそうだとしても、マナを動かすのは……」
技術が必要だ。
そう言いたいのでしょう。
「ああ、だからこそ量産型には特別な物を積んでいる」
「それは何だい?」
それさえ分かれば今後量産型を作るにしても役に立つそう思ったのでしょう。
司はクラリッサへ目を向けます。
するとクラリッサは――。
「マナタンクだ」
「「「マナタンク?」」」
声をそろえて疑問を浮かべます。
「そうだ、魔力を貯めておくためのタンクだ、それのお蔭で魔力が少ない者でもイービルに乗ることが出来る」
彼女はそう言うと胸を張る。
それほど自分達の技術に自信があるのでしょう。
「じゃぁ、アタシでも?」
「それは理論上では可能だが、今は無理だ。溜めた魔力を使う回路がまだ出来ていない。現在は魔法使いによる魔法操作が必要だ」
それは結局魔力を消費してしまうだけで意味はないのでは?
そう思っていたのですが……。
「魔力を引き出すだけなら特に問題はないからな」
「所でそのマナタンクは今のイービル……ジャンヌなどに……」
「さっきも言ったが今は無理だ。対応していない、改造をした所で使えないだろうな」
彼女の言葉に司は考えるそぶりを見せたましたが、すぐに……。
「では、先程の話通り使うには作り直さなければならないという事か……」
彼の言葉にクラリッサは首を縦に振るのでした。
「タンク自体を積むだけならまだ良いだが、それを繋げる回路が無いのでは意味が無い、そもそもまたタンクのマナに関してもまだ不明なところが多い、専用に作られた機体以外では何が起きるか分からん」
「そうだな、それでは意味が無い……今は諦めるしかないか……」
司の言葉に美月は不安を覚えます。
何故なら……ジャンヌと言う言葉が出てきたからです。
「それってジャンヌから降りるって事ですか? 新しい機体に乗らないといけないんですか?」
「ん? ああ……もしもの時の為の対策を考えていただけだよ」
彼はそう言いましたが、美月の不安は消えません。
「私はジャンヌが良いです……」
そう正直に伝えると司は柔らかい笑みを浮かべます。
「分っている、だから君は今後もジャンヌに乗って欲しい」
彼はそう言って、彼女達に目を向けると……。
「日本での量産型はまだ無理だ……暫くは君達だけが頼りだ、頼むよ」
と口にしました。
すると美月と綾乃は元気よく返事をし、リーゼロッテは微笑み、クラリッサは……司を睨む。
ただ睨むだけで返事はしなかったのです。
何故返事をしないのだろう? そう思った美月でしたが、もう一人返事をしなかった人を思い出し彼の方へと向きます。
すると彼は難しい顔をしており……。
「どうしたんだい?」
司に尋ねられると彼はようやく口を開きました。
「量産型はともかく現在稼働してるイービルの修理予算が足りなくてな……何時頃入るんだ?」
「それなら、近々入れてくれるらしいが……まずは修理費を優先させるように言った一週間以内には入るだろう」
「そうか、ならいい」
彼は納得した様で頷くと満足そうに口元を歪めました。
美月達はその後、部屋を出ていつも通り食事を取ります。
そして、いつも通り思い思いに過ごすのです。
ですが、いつもと違う事はありました。
それは周りの目です。
美月達は日本を救った英雄になっているのです。
だからこそ、好機の目で見る者が多くなり……。
「えと、あの……」
美月はその視線に戸惑うのでした。
ですが、助けを求めても綾乃は嬉しそうに笑うだけで助けてくれません。
恐らく美月が認められたことが嬉しいのでしょうが、美月本人にとっては……。
「ぅぅ……」
邪険に扱う訳にもいかず困っていました。




