51話 協力者を得る悪魔乗り
世界最大級の危機。
その戦いを終えた美月達は数日後、司令官の部屋へと呼ばれていました。
招集命令は久しくなかったのですが、何があったのだろう? そう思い美月達が部屋へと集まると……。
「君達に良い報告がある」
「……え?」
司はそう切り出しました。
「ちょっと待って、話をする前にリンちゃんが居ないんだけど? 新谷さんは仕方ないとして」
そう、そこにはリンチュンと新谷の姿がありませんでした。
その理由は簡単でリンチュンは引きこもり、新谷は治療中です。
動けない新谷はともかく、リンチュンはすぐに来れるはず。
そう考えた綾乃は話を止めたのです。
「……いや、話は聞いてもらっている」
ですが彼は話を中断する気は無いようです。
パソコンを指差すような動作を取りました。
恐らくは通信で聞いているという事でしょう。
「そう……」
それならもういう事は無い。
綾乃は一歩下がり美月の横に並んでくれました。
美月は綾乃が傍にいると心臓が早くなり、顔も熱くなりますが何より嬉しいので口元をわずかに緩めます。
「それで話と言うのは何だ悪魔」
「ああ、政府は魔物を廃止、今まで魔物に投資していた分を打ち切り、これからはイービル部隊への投資に切り替えるそうだ」
「本当!?」
その言葉に真っ先に食いついたのはやはり綾乃でした。
彼女の言葉に父である司は頷き。
「それだけじゃない、他国と連携し魔力補給剤を作るとの事だ」
魔力とは血中ヘモグロビン値の事です。
それさえ取ることが出来れば美月達魔法使いでも普通の人と変わりのない生活が出来る。
その事は美月本人が知っている事で……。
「本当ですか!?」
美月は声を弾ませます。
司は頬えんだまま頷き……。
「ああ、つい先ほど通達があった。すべてを鵜呑みにし信じる事は出来ないが、警戒しつつでも協力した方が利益がある」
「とんだ心変わりだな……だが、まぁ悪くはない」
クラリッサも口元だけをわずかに歪め、どうやら喜んでいる様です。
「それで具体的にどうなるんだ? 司」
そんな中、整備班で唯一その場に来ていた伊逹は司に問います。
「今まで不足していた物資を買い足す。これでイービルの整備もしやすいだろう?」
「そいつは助かるな、こいつらは無茶をするからな」
皮肉を言いつつ伊逹は笑みを見せてくれます。
そういう時は本当に喜んでいるのだと美月と綾乃は理解していました。
「でもなんで急に?」
美月の質問に司は微笑みます。
「前回の戦いを高く評価をしてくれたみたいだ。君達全員が手繰り寄せた物だ」
彼の言葉に美月と綾乃は目を合わせます。
「つまり、アタシ達が自分で?」
「そう言う事になるな」
自覚が無いのか綾乃は暫くぽかんとしていました。
ですが、事実は事実……。
それは美月達本人が手繰り寄せた希望です。
「これでリンちゃんも怖がらなくて済むよね!」
「そうだね! きっと薬もすぐに出来るよ!」
二人は声を弾ませ。
それを微笑ましいと感じたのかクラリッサの口元はわずかに緩みました。
「でも、魔物……どうするんですか? それに掴まった魔法使い……」
「魔物の研究は完全に凍結、魔法使いに関してはもう順番に家に戻っているらしい」
魔法使いの事は曖昧でしたが、それでも家に戻れたという言葉に美月達はほっとします。
そして、最後に残った問題へと目を向けるのです。
「つまり、これからはアタシ達が天使を正式に倒すんだよね?」
「ああ、以前と変わらないが……だが、それでも以前とは違う」
「…………」
天使との戦い。
それは人間が強いられた物です。
それは一方的に蹂躙されて来た物でした。
ですが、今は違います。
対抗する術を手に入れた人はようやく天使に反撃が出来るのです。
「そこで、リーゼロッテ君……天使レーダーは?」
「あ、はい! 完成しました。最初から地理に詳しい学者さんを集めて魔法使いになっていただきました」
「それで早かったんだ……」
綾乃は感心した声を出し、美月も目を丸めます。
「ですが、天使が何処から来るのかまでは……」
「そうだね、そこは徐々に技術を高めていくしかない。だが出現と移動する方向から事前に何処へと向かっているのか予測は出来るようになったのだろう? だからこそ、君は此処に来れた」」
司は彼女の言葉に優しく返すリーゼロッテは微笑みます。
「はい! だから、私は此処に来れました」
彼女は嬉しそうにそう言うと美月達へと目を向けました。
「二人のお蔭です!」
「いや、私達は大した事してないって……寧ろリーゼロッテさんの方が」
「うん、リーゼロッテさん、助けてくれてありがとう!」
美月と綾乃はリーゼロッテへとお礼を告げる。
するとリーゼロッテは少し寂しそうな表情を浮かべます。
どうしたのだろう? と二人が首を傾げると……。
「えと、二人ともっと仲良く、したいです」
と告げられ、美月と綾乃は互いの目を合わせます。
そして、笑みを浮かべると頷き合い。
「「分かったよ、リーゼちゃん」」
と彼女の事を呼ぶのでした。
そんなやり取りを見ていた司は頷き……今一度集まった人たちへと目を向けます。
そして、そのうちの一人クラリッサへと目を向けると……。
「さて、本題に入ろう」
「…………本題だと?」
そう言って話を切り出すのでした。




