13話 覚悟を決める少女
イービルに乗る事を決意した美月。
彼女は身体の回復を待ち、ついにイービルの起動テストを受ける事に……。
少し怖い男性に教わりつつ無事起動は終了したのだが、そこにイービル襲撃が知らせられ……?
「ですが、彼が死んだら! 日本の悪魔乗りが……っ!!」
悪魔乗り。
そう呼ばれる人達はパイロットです。
彼の言う新谷という人は所謂エースパイロットというのでしょう。
ですが、天使を撃墜したという話はあまり聞きません。
どこどこが被害に遭った。
死傷者が何人……イービルの有用性。
確かにイービルが出来てからは避難の時間が稼げる事で死傷者は減りました。
ですが……。
「どっちにしろ、今の日本は現状じゃ倒すことはできない、天使一体にイービル5機……それでやっと落とせなくとも撃退するぐらいだ」
すでに量産が進んでいるイービルですが、当然コストがかかります。
外国は優れた武装があったとは言え、それでも天使による被害の方が多いのです。
イービルを含めた武装を仕入れている日本では壊れたイービルを回収し直す。
これが精一杯でした。
「新谷を出せ……」
もうすでに何人ものパイロットが亡くなっています。
戦闘に出る前から葬式のようなこの状況は……美月にも分かりました。
顔も知らない彼しか今は頼れる人は居ない。
そして、その彼は此処の人達の希望である事が……。
「――っ」
気が弱く、化け物と呼ばれるのが嫌な美月ですが、先日しっかりと決意していました。
誰かを助けたい……そんな幼い頃の気持ちを取り戻していた彼女は――押すなと言われていたハッチのボタンへと目を向けました。
イービルは既に起動しています。
燃料も十分あるようです……バクバクと心臓が鳴るのを感じながら彼女は――。
「っ! 君何をしている!?」
報告に来た青年の声が響くと共にボタンを押しました。
慌てて振り向いたおじさんは目を見開き、怖い顔がますます怖くなります。
そんな彼は美月の元へと近づいてきましたが、ハッチが閉じる方が早く……。
美月はほっとしつつディスプレイを見ます。
そこには先ほど見ていた景色と何ら変わらない景色が映ってました。
同時に赤いランプが付き、どうやらそれはシートベルトをしていないと忠告している様です。
ですが、どうやってつければ良いのか分からない美月は取りあえず体が固定されるようにベルトを取り付けると……。
外からハッチを叩かれる音にびくりと震えました。
「何をしている!! 降りろ!!」
「で、でも……」
自分ならどうにかなる! なんて事は美月には言えません。
当然です……戦闘何てした経験は無いのですから。
「良いか? お前が勝手に出撃しようと思っても、こっちの操作が無ければ外には出られん!! まして出れたとしてお前に何が出来る!? その機体は希望だ! それを壊すつもりか!!」
彼の怒鳴り声は辺りに響き、イービルの中にいる美月は震えました。
ですが――。
「でも――このままじゃ」
消え入りそうな声で訴えますが外に聞こえているのでしょうか?
「良いか! お前はもう軍属だ! これは違反行為になる!! 処罰だって受けなきゃならない!! 今なら弾みで押したことにしておいてやる。出てこい!!」
それは十分理解していました。
美月は馬鹿ではありません、サインをした書類に書かれていた事ぐらいは分かっています。
軍属であれば当然規則に従わないと処罰があります。
ですが、そんな事よりも美月が思い優先するのは――。
「人が、人が死んじゃうんです……」
誰かを助けたい。
思い出したその気持ちで美月はもう二度とそれを手放したくない! っと……そう考えていたのです。
「人が死ぬのは当たり前だ! だからこそ被害を減らす! お前が行ってもその希望を壊されて終わりだ! そうなったらより多くの人が死ぬんだぞ!!」
小さな小さな声だったはずです。
ですが、どうやらおじさんには聞こえていたようです。
どうしてだろう? 美月は怯えながらも周りを見て見ました。
するとマイクどうやら自動でマイクが入っていたようです。
恐らくこれのお蔭で聞こえたのでしょう。
「お前の考えはある意味正しい! だが、それが出来るのは力のある者だけだ!! 今回は新谷に任せると言ったらそうするしかない!!」
しかし、その人だけでは危ない。
先程の話からも分かる事です。
美月は戸惑い……迷いました。
どうにかして助けに行きたいという思いと、自分が行っても……と言う思い。
どうするべきか迷った彼女でしたが……。
『新谷彰人……そして、夜空美月……』
何処からか声が聞こえました。
美月は周りを見てみますが、誰かが来たという訳ではありません放送でしょう。
ですが、声には聞き覚えがありました……。
「姫川さんの……お父さん?」
疑問を浮かべる美月。
そして、先程怒鳴っていたおじさんも困惑している様です。
『二人に出撃準備を……完了次第、現場へと急行させ事態の収束を!』
「――なっ!? し、司令官は何を考えているんだ!! 戦闘経験は愚か練習さえ無い兵士を出すだなんて! おい!! すぐに取り消すように伝えろ!!」
「で、でですが、相手は司令官ですよ!? 僕らじゃ――」
二人は慌てている様ですが、美月は呆然としていました。
当然です……自分でも戦場に向かって行っても意味が無い……その事には気が付いていたのですから。
「馬鹿言うな! あの人は気が狂ったんだ! マナ・イービルは勿論だが、それよりもまだ子供の命を――! 急げ!!」
そして、同時におじさんは怖い訳じゃなく、ただ、美月の身を案じているという事が分かりました。
ですが、もう一つ……姫川の父は美月の事をどう思っているのでしょうか?
使い捨ての駒? 美月は少し不安を覚えていると……。
『急な戦闘になりすまない、だが……君は前に出なくていい……』
再び声が響きます。
目の前にいる人たちが慌てない事から二人には聞こえてないのでしょう。
『身を守る事、そして新谷のサポートをしてほしい……良いか? 決して前には出るな、そのイービルは君に……君の誰かを守りたいと言う思いにきっと答えてくれる』
「………………」
希望の機体と呼ばれている美月の乗るイービル。
しかし、美月はそんな事不可能だと思いました。
所詮、機械は機械、人の想いに応えてくれるわけがありません。
『いや、寧ろそうしなければならないんだ、それは人々の希望……君一人の願いを叶えられない様じゃ、より多くの人を救うのは不可能だ』
そして、それがただの懇願である事を知った美月。
彼女は……これから向かう先が死地であるかもしれない事を知りつつ……。
「…………わ、私はなんでもするって……決めました……から」
そう呟くのでした。




