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49話 事実を知った悪魔乗り

 勝利を収めた美月たち。

 だが、それは決して喜ばしいものではなかった。

 出撃した悪魔乗りの一人、新谷の体はボロボロだったのだった。

 暖かい光を当てられた新谷は優しげな顔をしていました。 

 そんな彼は首をゆっくりと横にふり――。


「もう良いよ」


 そう言うと治療をしていた美月の手を取ります。

 予想外の行動に美月は一瞬ぽかんとしてしまいましたがすぐに眉を吊り上げ――。


「良い訳ありません!」


 怒鳴り声をあげました。

 美月が怒る事は珍しい事です。

 周りの人達は驚き……目を丸めていました。

 ですが美月はそんな事はどうでも良いのです。


「まだ、まだ傷が治ってるはずないんです!!」


 そう確信していたのです。

 目に見える傷ならすぐに分かるはず。

 ですが、目に見えない傷を負っている彼に対し何故そう思ったのか?

 そんな事は単純でした。

 

 すでに彼は体に深刻なダメージを負っているのです。

 なら、多少の魔法程度では治るはずもない、それは魔法を使う美月だからこそ分かる事でした。

 ですが、自分の身体の事は自分が一番知っているのでしょう。


「無駄なんだ……」


 彼の言葉の意味が分かり、美月は魔法を維持できませんでした。

 すると彼は何処か寂しげな表情を浮かべます。


「どこかで知ったんだね?」


 彼の言葉は美月の行動に対する確信でもあり、美月は視線をあちこちに彷徨わせます。


 無駄? 無駄って何?


 その言葉が信じられなかったのです。


 だって、私……は……だって……。


 今まで彼女は魔法で何人も救ってきました。

 その力で傷を何度も癒してきました。

 だというのにそれが無駄と言われたのです。


 そんなはずはない! だって魔法で傷は治せる。

 治せるんだから――!


「今、治します」


 美月は引きつった笑みを浮かべそう言うと彼は再び首を横に振ります。

 そして――。


「無駄なんだ……僕の身体はもう魔法じゃ癒せない……勿論手術とかで治す事も出来ない」

「そんな事……だって私の魔法は――」


 人を癒す魔法。

 そう言おうとした時です。


「魔法で死にゆくものを救えはしない」


 そんな言葉が聞こえ、美月は眉を吊り上げ後ろへと振り向きます。

 そこには同じ魔法使いであるクラリッサが居り……。


「そいつはもう駄目だ……お前の命を懸けた所で共倒れだな……それほど、身体は壊れている。なのに戦うなんて本当に悪魔に魅入られた者だ」


 彼女は言葉こそは皮肉がこもっていました。

 ですが、その瞳には色々な感情が含まれても居ました……。

 一体彼女の身に何があったのか、それは気になる所ですが、今はそれどころではありません。


「そんなのやってみないと――!」

「分っているんだ……そもそも運動さえ出来ない身体のはずだ……苦しい顔一つしない方が異常なんだよ、その悪魔はね」


 彼女の言葉は理解できませんでした。


「クラリッサ、余計な事は……」

「いいや言うね、今回そのお嬢ちゃんはお前の心配をしていた、今後その所為で墜とされないとは限らない」


 彼女はそう言うと威圧的な態度で新谷を睨み……。


「お前はあの戦いで片方の肺を失った……それだけじゃない、他の臓器にもダメージを受けている。本来なら安静にして何とか生活できるレベルだ。だというのに、お前は薬で痛みを穏和し、戦う……悪魔に魅入られた一人に過ぎん」


 それは美月だけではなく、綾乃達も驚き、固まってしまいました。


「肺を失った?」

「そうだ、こいつは片方の肺だけで呼吸をしている。本来なら機械での吸引が必要のはずだ」


 いくら美月でも失っている物を治す事は出来ません。

 勿論、作り出すことも不可能です。


「ちょ、ちょっとまって、つまり、どういう事?」

「こいつはパルスオキシメータで測定すると少し動いただけで90を切る、常人じゃ考えられんほど苦しいはずだ」

「は?」


 意味が分からないのでしょう、綾乃は首を傾げます。

 ですが美月はそれがどれだけ深刻なのかが分かったのです。

 そう、彼女は一度看護兵へなっています。

 だからこそ……。


「で、でも私も走ったり頑張って息止めたって……そこまで……」


 そう、美月は90を切る前に息苦しさを感じていたのです。

 勿論美月も人より低いと言われていました……。

 ですが、どんなに運動しても90を切る事は中々難しいものだと理解しました。

 だからこそ、新谷は戦いに向かないという事をこの場で初めて知ったのです。


「つ、つまりどういうこと? 酸素を吸うのが必要って事!? なんで今までつけて!」

「つけた所で邪魔になるだけだ……」


 彼はそう言うとよろよろとしながらイービルを降りました……。


「少し疲れた自室で休息をする」

「お、おい! ちゃんと医務室に……」


 必要ない……そう言うかのように手を振った彼はそのまま歩き始め、少し進んだ所で大きくふらつきます。

 美月は慌てて彼の元へと走りますが、彼女が辿り着く前に伊逹が支えました。


「いわんこっちゃねぇ……」


 彼は眉を吊り上げ怖い顔を更に怖くし……。


「おい! こいつを医務室に連れてけ! 気を失ってるから文句は言わせん!!」


 どうやら新谷は気を失ったようです。

 抱えられハンガーを出ると其処には静寂が流れました。

 その静寂を破ったのは小さな小さな声です。


「死ぬ?」


 美月はハッとし振り返ると少女は怯えた目で出口を見つめているのでした。

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