48話 勝利を得た悪魔乗り
無事天使たちを撃退することに成功した美月たち。
彼女たちは支部へと戻ろうとした。
しかし、そんな中新谷には異変が起きており……?
帰投すると美月達は大歓声に向かえられました。
それもそのはず。
人類始まって以来の最大の危機……天使の襲来。
それも20機です。
今までの事から考えるに日本滅亡。
その言葉が思い浮かんでもおかしくはありません。
日本が滅亡した後は次は別のどこかの国が亡びる事でしょう。
そして、いずれはこの地球から人類は居なくなる。
誰もがそう思っていたに違いありません。
ですが、美月を含めた悪魔乗り達は勝利し、帰還してきたのです。
誰一人かける事無く、美月達は文字通り勝ったのです。
そう、試合に負ける事も無く……。
「よくやってくれたな! 夜空!!」
そんな中、怖い顔の男性はジャンヌから降りた美月へとねぎらいの声をかけました。
「えと……は、はい」
少し遠慮がちに美月が微笑むと、彼女の周りに集まっていた男性の達はその顔を赤らめます。
「強くて可愛い……か」
「ああ、支部の癒しだ」
どうやら美月の笑みに骨抜きにされてしまったようです。
ですが、美月はそんな彼らに対し小首をかしげるとすぐに後ろへと振り返ります。
そこには灰色の悪魔……ジャンヌダルク。
「…………」
美月はその機体にそっと手を乗せます。
冷たい金属の感触が手の平に伝わりました。
「暖かいのか?」
そんな伊逹の質問に美月は頷きます。
「うん、とても暖かい」
なんでだろう?
そんな疑問はありました。
ですが、きっと物にも心は宿る……そう思う事にし、美月は誰にも聞こえないように呟きます。
「ありがとう……」
そして、今度は出撃した中で唯一量産型のイービルであるコピスへと目を向けました。
ずっと通信を切られており、気になっていたのです。
ですが、彼は一向に降りて来ません。
不安になった美月は――。
「伊逹さん、あの……」
「分ってる、後でハッチを開けてやるが……」
伊逹は美月の言葉に頷きつつ周りを見渡します。
そこには支部の殆どの職員と暮らす人々が集まっていました。
それだけ、美月達が偉業を成し遂げた。
その証明でもあったのですが……。
「おい! お前ら! 祝いなら別でやってくれ!! 今からイービルの修理に入る、危険だぞ! 散った散った!!」
伊逹はそう言うと部下へと目配せをし、美月達悪魔乗り以外をハンガーから追い出します。
当然、不満の声をもらす者も居ましたが、イービルの修理と言われたら反論らしき反論は出来なかったのでしょう。
彼らはしぶしぶとハンガーを去って行きました。
「さて……」
そして、悪魔乗り以外が居なくなったハンガーで伊逹はコピスへと向かいます。
「新谷出てこい」
「………………」
彼の言葉に新谷は何も答えません。
「お前さん、今どうなってる? 無茶したのは分かっている、早く降りてこい」
「ちょっと疲れただけだ、このまま少し寝かせてくれないか?」
疲れているのは美月達も同じです。
ですが、恐怖におびえていたリンチュンもイービルから降りたというのに彼だけそこに居るのです。
誰もが、彼の事を待っていました。
「おい、悪魔いい加減にしないか……」
苛立ったような声を上げるクラリッサ。
「ね、ねぇ……何か問題でもあるの?」
様子がおかしい事に気が付き、困惑する綾乃。
「…………」
黙り込むリンチュン。
「イービル、整備しないといけないんですよね? 乗ってたら出来ませんよ?」
彼のわがままだと勘違いするリーゼロッテ……。
そして……。
「新谷さん、その……早く、降りてきてください」
彼の身体を心配する美月。
これ以上は無理だと分かったのでしょう、暫くしコックピットのハッチは開きます。
するとそこには……。
「心配しなくても、大丈夫だよ」
そう笑顔で言う彼が居ました。
綾乃はほっとしたようで彼に近づくのですが……。
「来るな!!」
彼は綾乃に対し怒鳴り声をあげました。
「な、なに!? いきなり怒鳴る事無いじゃん!!」
初めて彼に怒鳴られたのでしょう、綾乃もさすがに震えた声になっていました。
何故怒るのか分からない綾乃でしたが、美月にはその理由が分かりました。
彼がうつむいていた事と発した言葉が短かったため、ほんの一瞬でしたが、ハンガーが作業の為に明るかったのが幸いでした。
「新谷さん、その血はなんですか?」
だからこそ、美月は敢えて口にしました。
もう絶対にこの人にイービルに乗せてはだめだ……。
そう思いながら紡がれた言葉に新谷はゆっくりと顔を上げ答えます。
「なんのことだい?」
彼は口元を隠すようにしていましたが、もう遅いのです。
「今――!」
問い詰めよう、そう思った美月が一歩前へと出ると新谷は急に咳込み……。
その口から血を吐き出しました。
「……へ?」
予想外の事に固まる綾乃達。
そして、予想していたことが起き顔を歪める伊逹にクラリッサ……。
美月はすぐに新谷の元へと駆けつけ、回復魔法を施すのでした。




