45話 悪魔乗り
美月が一機を落とした直後、天使達の動きは鈍くなりました。
たったの三機、そして後から来た一機の合計四機。
ただそれだけでここまで抵抗されるとは思わなかったのでしょう。
明らかに天使側に焦りが見えたのです。
「押しているぞ!! だが、手を抜くな!」
クラリッサはそう叫び……。
「分ってるてば!」
綾乃はそれに対しそう返します。
勿論美月も理解しており、天使達から目を離す事はありませんでした。
ですがが……。
いくら美月達の士気が上昇しても天使に対抗する悪魔が増える訳ではないのです。
だからこそ、相手の増援だけは何としても阻止しなくてはならないのです。
「くそ……このままでは……」
新谷は荒い呼吸をしながらそう言い、美月は彼が心配になりました。
それは美月だけではありません。
「ねぇ、ちょっと新谷さん、大丈夫?」
彼の身体の事を知らないはずの綾乃もまた彼を心配しました。
ですが、その言葉に対し新谷は……。
「大丈夫だ、問題ないよ」
と返します。
当然美月はそれが嘘だという事が分かりました。
ですが、だからと言って彼を止める術がありません。
イービルを壊してしまえば……。
そう思う一方そんな事をしたら彼にどんなダメージがあるか分からないのです。
出来るはずもなく、ましてやこの状況でそんな事をしたら。
天使達は仲間割れだと思い一斉に襲ってくるでしょう。
そうなったら最早対処することが出来ないのです。
どうにかして休んでもらえないのかな?
美月はリンチュンの事も含みそう思いました。
ですが、彼女の想いは虚しく……。
『天使が動き始めました! 各員注意を!!』
明智望の声がイービルの中に響きます。
美月達はその声に従います。
ですが、どんなに注意をしても相手の数は多いのです。
美月達が不利な状況には変わりはありません。
そう、誰もが思っていたのです。
『え? ま、待ってください……い、今連絡が入りました! 今、向かってる、だそうです入国許可も出ているとの事で、え? 嘘……』
それは明らかに困惑の声でした。
どういう事なのか分からない美月達。
「どうしたんですか?」
美月が問うと……。
『すでにリーゼロッテさんが日本に向かっていたそうです……』
「「リーゼロッテさん!?」」
その名を聞き美月と綾乃は驚きます。
当然です、彼女が真っ直ぐに日本に来れるはずがない! そう思ってしまったのです。
「どうやって……」
「いや、待ってまさか……」
疑問を思い浮かべる美月と何かに気が付いた様子の綾乃。
「まさかレーダーを動かす魔法使いが育ったっての? この短期間で? ありえない……」
そう、それは美月達が提案した内容です。
ですが、綾乃の言う通り短期間でレーダーを動かすほどの地理を覚えなければならないというのは不可能でしょう。
「じゃぁ、まさか最初から詳しい人を……?」
美月はそう憶測を立てますが……。
「小娘! 馬鹿犬! おしゃべりしている暇があったら敵を叩くことに集中しろ!」
とクラリッサに注意をされてしまいます。
二人は慌てて武器を構え直しますが――。
『ド、ドイツ機パラケラススの反応有り! これは……後続の天使に接敵してます! それだけじゃありません何ですか、この数……見た事も無い信号が……』
「敵の新型か!!」
新谷は敵の増援である事を警戒します。
当然です、この状況でただのイービルが態々日本を守る為に来てくれるはずがない。
そう思っていたのです。
彼だけではありません、美月も綾乃もそして……リンチュンもその顔を青ざめさせたのです。
ですが、たった一人だけ違いました。
「オペレーター! 識別番号最初の文字は?」
『U、Uです!』
彼女はそれを聞くと笑いだし……明智望へと告げました。
「そいつらを友軍指定しろ! やっと到着したようだ……冷や汗をかいたが、その分は後で奴らに遅れた事を咎めればいい」
「ど、どういうことですか?」
美月が彼女に質問をすると――。
「ふん、このマナ・イービルは小娘達のマナよりも弱い」
彼女はそんな事を言い始めました。
美月は当然首を傾げるのですが……。
「優れた魔法使いでなくとも使用できるように調整してある、その分足りない戦力を数で補うように作ってある。パイロット達がまだ育ち切っていなかったため、置いて来たが……恐らくは……」
『アンノウン……天使を取り囲んでいます! し、至急友軍指定をします!』
という明智望の声が聞こえます。
「さぁ、後は分かるな小娘ども」
クラリッサは武器を構え、美月達は頷きます。
経験の少ない美月にさえ分かりました……流れが変わったのです。
そう、これまでのように一方的に奪われるのではなく……。
出来る事が微かな抵抗でもなく……。
いま、まさに――。
「反撃できるんだ……だから、絶対に倒れられないよ」
美月はそう口にしました。




