43話 抗う悪魔乗り
戦いに向かった美月たちを待ち受けていたのは敵の増援だった。
絶望の中、その場にいない少女の元に連絡が入る。
彼の言葉は少女のとっての希望となりえたのか? それは彼女にしか分からない。
美月達は天使と戦いを続けていました。
ですが、多勢に無勢。
「ああー! もう!!」
綾乃は思わず声を上げます。
当然彼女だけがそう声をあげたい訳ではありません。
「まずいな……クラリッサ! 何機か堕とせないか!?」
「無茶を言うな悪魔、当てる事は出来ても落とすのは難しい」
新谷の言葉にそう答えたクラリッサは苦虫を噛み潰したかのような表情を浮かべます。
美月も美月でサポートをしていましたが、それももう……。
「弾が、無くなって……」
当然銃弾は無限ではありません。
いずれ底を切る。
それは分かってはいましたが、その時が来てしまうと不安しかありません。
ましてや相手は天使です。
ブレイバーだけでどうにかなるとは思えなかったのです。
それに、この数……。
美月はレーダーに移された数を確認します。
それほど変わった様子の無い赤い点は天使の数を表しています。
そして――。
「こいつら! 合流するつもりだよ……さっきから攻撃よりも回避に専念してる!!」
綾乃の言葉通り、彼らは合流が目的でしょう事は分かりました。
回避に専念すれば当然合流まで持ちこたえることは可能でしょう。
ましてやただでさえ天使と悪魔では性能の差もあるのです。
相手は確実に美月達を排除したいのでしょう。
その事に気が付いた美月はぶるりと身体を震わせます。
いつでも、出来たんだ。
いつでも、殺せたんだ……。
それは……最初から分かっていた事です。
ですが、誰もがその事実から目を逸らし続けてきました。
何故なら、怖いからです。
突然現れた天使達は世界を地球を攻撃し、人類に大打撃を与えました。
それから人類は必死に足掻き続け生き延びてきました。
ですが、それさえも彼らにはちっぽけな事だったのです。
まるでおもちゃで遊ぶかのように破壊をし……人の命を奪う。
そして今、そのおもちゃの片づけをしに来た。
誰もがそう思う光景でした。
「小娘! 敵合流は!?」
「も、もうすぐです!!」
美月が悲痛な叫びをあげると共に肉眼で見える範囲に天使達の影がありました。
舌打ちがスピーカーから聞こえ、美月はとうとう……。
魔法を、魔法を使うしかない。
大きな魔法で……私がどうなっても!
そう覚悟を決めるしかない。
彼女は考え、コントロールオーブを握る手に力を籠めます。
皆には逃げてもらって、それで――。
その時です。
「美月!!」
彼女が動こうとしたその時、天使達は彼女へと向かって動き始めました。
美月は急に起きた事態に対処が出来ず……。
「……え?」
呆然としてしまうのです。
当然でしょう、天使達は皆一様に武器をしまい、まるで美月を拘束しようと考えているかのように手を伸ばしてきたのですから。
ようやく美月が状況を理解し、動こうとした時にはもうすでに遅く……。
「駄目!」
綾乃の悲鳴が聞こえました。
もう駄目だ……美月もそう思い目を瞑った、その時です。
まるで鈍器で殴ったかのような音が鳴り響き、美月は思わず目を見開きました。
そこには真っ赤な機体。
「斉天大聖……」
その機体の名を呼ぶと彼女は――。
「はぁはぁ……あああああああああ!!」
咆哮をあげながら天使へと拳を蹴りを叩きこみます。
以前見たような余裕は彼女にはありませんでした。
悲鳴とも取れる絶叫の中、一機の天使は沈黙し、赤い悪魔はその傍に立ちました。
「リンちゃん……」
綾乃も彼女の名をを呼ぶと機体の主は――。
「怖い、怖い、怖い怖い怖い怖い」
どうやらずっと同じ言葉を繰り返している様です。
美月は彼女の恐怖が分かりました。
誰だって死ぬのは怖いのです。
戦いから逃げるなと言った彼女も死を目の前にされ、恐怖にのまれていたのです。
「大丈夫だよ、私達が居るから……」
だから、美月は彼女へとそう告げると……前へ立ち。
「ありがとう、リンちゃん」
そ口にすると両手に力を籠めます。
『魔力増幅確認……インフェルノ展開準備、展開まで後10秒』
機体の中に無機質な声が響きます。
そして、ジャンヌの手を前へと伸ばし――。
『4、3、2、1――展開』
業火はまるで意志を持っているかのように天使へと向かい彼らを焼き尽くします。
流石に魔力を籠めた魔法では天使にも成す術はなかったのでしょう。
2機の天使はそれで動かなくなりました。
それを見ていた仲間達は……。
「反撃開始、だね!」
「ああ、やって見せよう」
「小娘、魔法はあまり使うな、良いな?」
臆することなく、それぞれが天使へと向かっていきます。
そして――恐らくは地球始まって以来の大きな戦いが再び始まるのでした。




