12話 見習い悪魔乗りの少女
嘗ての事を思い出した美月。
彼女はイービルに乗る事を決意する。
しかし、姫川綾乃の父は乗ってくれと言っておきながらも乗り気ではない様だ。
そんな時、綾乃の言葉でようやく美月は知ることになる。
彼がその事件で助けた男性で……綾乃は泣いていた子だという事に……。
イービルに乗る。
少女が決意をしたその日から、数日。
体調が完全に戻るまで療養した美月は初めてイービルの格納庫まで案内されました。
彼女と一緒に居るのは整備班のおじさんで……彼は怖い顔をしています。
ですが、思いのほか丁寧な案内で……たどりついたそこで見たのは悪魔の様な機械兵器。
全長は見上げる程でニュースで聞いた話ではおおよそ15メートル以上あるとのことです。
悪魔の様な外見ではあるが翼は無く、飛行のためのエンジンが積んであり。武装は鋼鉄製ブレイバーと言う巨大な剣。
そして、対天使用大型アサルトライフルの二つ。
ですが、美月がこれから乗るのはそんな普通のイービルではないのです。
「これがお前さんが乗るマナ・イービル……マナ・ジェネレーターを積みその名の通りマナ、魔法をイービルを介し使えるようにしている」
見た目も普通のイービルとは違うものでした。
装甲が少し薄い様にも見られ色は黒ではなく灰色。
天使と呼ばれる兵器たちの色が白かったことから黒にされたはずですが、美月は何故灰色? と首を傾げました。
「これが俺達、人間の希望だ」
そう言ってコクピットである頭部の扉を開けてくれました。
そこには操縦桿は無く、本来それがある場所に二つの丸い水晶のような物があります。
「あれは…………?」
美月は小さな声で問うと……。
「あれが操縦桿の代わりだ、魔法を中で発動させないようにするための装置でもある」
美月には当然原理は分かりませんでしたが、その理由は分かりました。
そのまま魔法が出てしまえばパイロットは大怪我です。
大事故です……そんな事にさせる訳にはいかないでしょう。
何らかの方法で機体の外で魔法を出さなくてはなりません。
それをしてくれるのが二つの水晶であると理解した美月は内心ほっとしました。
魔法使いが乗るイービルと聞いて薄々魔法で戦う事は気が付いていたのです。
ですが、どうやって戦うのか? それが気がかりでした。
「あの……それで……」
「今日は起動テストだ……難しく考えず、コクピットの中に入り指示に従ってくれ」
美月にそう言った彼はコクピットの中へと誘う様に手を伸ばしました。
「……はい」
美月はまだ消えない不安を感じつつコクピットに乗り込みます。
「そこのボタンは押さないでくれ、扉が閉まるレバーを左から一つ目、二つ目……三つ、上に上げてくれ」
そして、丁寧に起動の方法を教えてくれました。
「今入れたのがエンジン、ディスプレイ、冷却装置のスイッチだ……どれか一つでも切れていたら起動しないようセーフティが掛かっている、焦らず左から三つだ良いな?」
「は、はい」
イービルの起動。
実際に機体を動かす訳ではありません、ですが起動時にも衝撃は勿論来ます。
美月は警戒しながらも整備班のおじさんの言葉に耳を傾けます。
「その次がショックアブソーバー……まぁ早い話揺れを吸収拡散する装置だな。こいつはこのボタンだ押し込んで鍵を回すように……命にもかかわる大事な装置だ簡単には外れないようになっていて、こいつも起動する前と停止した後にしか動かせんようにロックが掛かってる」
おじさんの指示通りにボタンを押し鍵を回すように動かす美月、すると透明な板に『NOLINK』と言う赤い文字が浮かび上がりました。
それを確認したおじさんはうんうんと頷きます。
「良いぞちゃんと話を聞く奴で助かる、それじゃいよいよ起動だ……操縦桿……じゃなかったなオーブに手を乗せ、魔法を使う時の容量で魔力を流し込め、一応そうやって起動するって聞いている」
聞いているという事は実際にこのイービルが動かされた事は無いのでしょう。
いや、動かすことが出来なかったのは知っていました。
美月は慎重になりつつも指示通りに魔法を使う時のように集中していきました。
魔法と言えば魔力と言われがちですが、実際に魔力と言う物が美月たちにあるかどうかは分かりません。
確かに魔法を使えば疲れます、ですが特別な何かが抜け出ていく感覚はないのです。
全速力で走った様な気がする時やそれ以上に疲れる時は勿論あるのですが……それが魔力の影響なのかは分かりません。
ですから魔力を流し込むというのは理解できませんでしたが、魔法を使う時と何も変わりありません。
それを証拠に『NOLINK』という赤い文字は点滅し始め、緑色の『LINK』へと切り替わります。
それが点滅すると機体が振動し始めます。
「きゃぁ!?」
初めて乗るイービルにびっくりした美月は可愛らしい悲鳴をあげます。
それを一部始終見ていたおじさんは笑いました。
当然美月は恥ずかしくなるのですが……。
「取りあえず起動で倒れるなんて事はないようだな……さて――」
満足そうに頷いた彼は今度は停止の作業を教えてくれるはずです。
ですが、彼が口を動かそうとしていると格納庫に赤い光がちらつき始めました。
「ん?」
美月は首を傾げますが、おじさんは険しい顔になり……。
「どうした!? 何かトラブルか!?」
と声をあげます。
ですが返ってきた言葉は全く違う物。
「襲撃です! また関東首都部02です!」
「何を言っている天使はこの前来ただろう!!」
天使の襲撃は不定期ではありますが、数日以内と言うのは一回もありませんでした。
おじさんが驚くのも無理はないのです。
「最低でも3週間、恐らくそれが奴らの準備が終える時間のはずだ!」
「ですが、本当に襲撃です! 出撃準備に取り掛かれと上からの指示です!」
襲撃に来る天使は一機だけと言うのが多いですが、同時に襲われた場所もあり本当に一機だけという訳ではないのは誰もが知っていました。
だからこそ、何故日にちを開けるのか、疑問ではありましたが何故か日にちを開け襲ってくるのです。
それも――。
「なんで、同じ…………場所?」
美月の疑問の理由。
それは天使は同じ場所を続けて狙う事はありませんでした。
なのに今回は同じ場所です。
「なら動かせる機体を早く! ナルカミもあるだろう、あれも使え!!」
「駄目です一機を除き現在修理中! ナルカミはパイロットが居ません!」
おじさんは舌打ちをし……。
「新谷……は、新谷のやつは居ないのか!!」
「ですが、ナルカミは……癖が大きすぎます」
報告する男の人は焦っているのでしょう。
声が上ずっていました。
「馬鹿野郎! あいつなら、従来の機体で十分だ! ナルカミが使えないなら一人で行くしかない!」
「ですが!?」
その言葉に驚いたのでしょう、男の人は叫び声をあげます。
「他に誰が居る!? 上から命令が来てるんだろう? アイツなら……英雄なら勝てずとも住民が逃げるぐらいの時間は稼げるはずだ!」
彼はそう言いながら苦虫をかみつぶしたような表情を浮かべました。
「最悪、奴なら死んでも……だろうさ」
最後にそう呟きながら……。




