表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
119/241

39話 魔法を使わない日常を過ごす悪魔乗り

 魔法……ミュータントとは何だろうか?

 そして、天使の目的とは……。

 一人呟く美月から隠れ、クラリッサはかつて初めて天使が口にした言葉を再生する。

 警戒している様子はないその声に疑問を抱くのだった。

 美月がリンチュンの元へ行ってから数日。

 魔法を使わない生活と言うのは中々難しいものでした。

 知らず知らずの内に魔法に頼る事が結構あったのです。

 例えば……。


「えっと、荷物をう、え……に……」


 元々力が強い方ではない美月は良く重い物を運ぶ時、魔法を使っていました。

 ですが、今は自分の力でやらないといけません。

 他の人にとっては大したことではありません。

 ですが、彼女にとっては重労働でした。


「ふぅ……」


 十分ぐらい格闘し、ようやく荷物を置けると彼女は安堵のため息をつきます。

 そんな時でした。

 当たりに警報が鳴り響き、天使達の襲撃を告げます。

 美月は一瞬驚きましたが、すぐにハンガーへと向かいました。

 当然、彼女の名前は呼ばれていません。

 それでも彼女はハンガーへと向かいます。


 すると、それを予測していたのでしょう。

 同じくハンガーへと向かう白衣の女性を見つけました。

 美月は思わず隠れようとしますが……。


「夜空さん!」


 彼女に名前を呼ばれ、バツが悪そうにします。


「どこに行くつもりですか?」

「その……」


 ここまで来て何処に? とは愚問です。

 ですが、本人の口から言わせようとしているのでしょう。

 吉沢信乃は敢えて質問をしているようにも思えました。


「どこにですか?」

「ハンガーです……」


 美月はあっという間に観念しそう告げると彼女は大きなため息をつきます。


「今は魔法を使えるような状況じゃありません、輸血だって提供者が必要です。現在ではストックも無いんですよ?」

「それは……」


 何となく予想をしていました。

 もし十分な血液を確保できているのであれば、美月に魔法の制限はかけられないでしょう。

 そうではないからこそ魔法を使うなと言われている。

 その位の事は美月も理解していました。


 だからと言ってここで出撃をしない訳にも彼女にはいかなかったのです。

 何故なら――。


「綾乃ちゃんも行きますよね? なら――」


 そう、綾乃が心配なのです。

 だから、出撃したい。

 彼女の願いはただそれだけでした。


「今回はクラリッサさん、そして新谷さんも一緒です」

「ぅぅ……でも」


 心配な物は心配です。

 食いつく美月に対し吉沢の瞳は揺れました。

 そんな時です。


『出撃を取り下げます! シェルター内へ避難を! 天使の数…………10!!』


 二人はその放送を聞き呆然とします。

 少なくとも今までは現れなかった数です……悲痛な声からして本当の事でしょう。


「10……」


 その数字を聞き、よろよろとしたのは吉沢です。

 足はがくがくと震え、なんとか立っている。

 そう言った方が良いでしょう。

 彼女は慌てたように美月の腕を取り……。


「は、早く行きましょう」


 叫びます。

 ですが、美月は動きませんでした。


「夜空さん!」


 なぜなら……。


「綾乃ちゃんは逃げないよ?」


 そう、綾乃はこの状況でも出撃をする。

 何故かはわかりません。

 ですが、そう断言できると感じてしまったのです。

 そして、彼女は美月自身も出撃するだろうと考えている。

 それも分かりました。


「何を言っているんですか10ですよ!? 10……!!」


 その声は明らかに震えていました。

 ですが、美月は――。


「分ってるよ……だけど、それでも私は綾乃ちゃんを皆を守るって決めたの……決めたんだよ」


 その声には諦めと言うものはありません。

 そこにあるのは意志だけでした。

 だから、彼女は微笑み……。


「いってきます」


 と一言を残し走ります。

 吉沢は彼女へと手を伸ばすのですが、足は思うように動かず……。


「ぁ!?」


 転んでしまいました。

 そして、小さくなっていく背中へと手を伸ばし……。


「駄目、駄目! (みつる)……っ!」


 と誰かの名前を口にしました。

 ですがその声は小さく、美月には届きません。

 そして、吉沢は……。


「あ? わ、私なん、で……」


 呆然としてしまいます。

 何故その名前を呼んだのかが分からなかったのです。

 忘れる事は出来ない名前でした。

 ですが、これまで十年近くはもう口にしていない名前だったのです。

 なのに……彼女は思わず口にしてしまい。


「…………」


 黙り込んでしまうのでした。





 一方美月はハンガーへと向かって走ります。

 心臓は鼓動を早くし、鳴り響きます……ですが、不思議と苦しくはありません。


「魔法を使わなければ普通に生活が……」


 出来る。

 そう確信もしました。

 ですが、美月はそう口にしつつ首を横に振ります。

 答えはもう決まっていたのです。


「でも、私は――皆を助けたい! 助ける為なら苦しくてもちゃんと生きないとっ!」


 死を覚悟した訳ではありません。

 彼女はあくまで生にすがり、そして守りたいのです。

 だからこそ、彼女は今、その為に……ハンガーへと辿り着きました。

 すると退避命令が出されていたにも関わらず待っていた人達は美月を笑顔で迎え入れてくれるのでした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ