38話 疑問を思い浮かべる悪魔乗り
リンチュンのことを心配し彼女の部屋へと訪れた美月。
そこで彼女から死ぬのが怖いという話を聞いた。
そして、彼女から美月は怖くないのか? 戦えるのか? という問いを受けた彼女は……。
戦うことを友達を守ることを彼女へと告げるのだった。
美月の笑みを見てもリンチュンの恐怖はぬぐえなかったようです。
ですが、そのまま居座る訳にもいかず美月はリンチュンの部屋を後にします。
「……薬があれば」
美月は扉の前でそう呟きました。
ですが、どんなに望んでもすぐに手に入る物ではありません。
すべては吉沢が薬を作ってからの事です。
美月がどうこうできる話ではありません。
「今は私と綾乃ちゃんでどうにかするしかないよね」
リンチュンはこのままでは戦えないだろう。
そう考えた美月は小声で呟くと自身の部屋へと向かいました。
今はまだ訓練さえ許されていません。
ですが、血液の提供者さえ集まれば美月は戦えます。
「もう、逃げない……」
美月は呟きながら前を向き歩きました。
以前の弱い彼女はそこには居ません。
ただ、そこに居たのは……一人の悪魔乗りでした。
「綾乃ちゃんを、守らないと……」
美月は綾乃が心配だったのです。
何故ならこの頃突然現れたあの女性クラリッサと共に訓練ばかり。
美月と会う時間は減っています。
だからこそ、彼女が無茶をしているのではないか? と不安になってしまいます。
その理由も勿論……。
「前の出撃で、死にかけたって聞いたし……」
どうやら彼女もまた、大怪我を負ってしまったとの事です。
自分さえいればすぐに治すことが出来たのに……。
そう思いながら美月は頭を横に振りました。
もし、そうだとしても自分は倒れていることが分かったからです。
魔法使いには魔力が必要だと分かった現在ではそう簡単に使える物でもなくなりました。
恐らくは長い年月をかけて徐々に減ってきたのでしょう。
不思議な事に輸血により増えた分は魔法を使えばすぐに無くなってしまう事から一時凌ぎにしかなりません。
美月はその事実を知り、自身の手を見つめます。
「魔法……ミュータントってなんだろう?」
寄生虫ミュータント……それは魔法の力を授けてくれる不思議な生物です。
ですが……。
最初の魔法使いと呼ばれる人は何も覚えていませんでした。
目を覚ましたら息苦しさを感じた。
そう言っており、地球への着陸の際起きたトラブルを無意識の内に使った魔法で対処をしました。
そこから、その魔法使いと持ち帰った物を調べ、ミュータントが発見されたのです。
それから間もなく研究が始まり、脳細胞に寄生することが分かったのです。
そして、そのミュータントが人の脳に影響を与え、超常現象を起こすことも判明されました。
不思議なことに地球の空気に弱く、さらされてしまえば1時間も持たず死滅してしまいます。
そのため保管は苦労したとのことですが、すぐに人工的に寄生をさせた現在の魔法使いが生まれ……。
その後、まるで寄生虫を追う様に現れたのは天使達。
彼らは破壊の限りを尽くし……地球はあっという間に文明、生活レベルが下がってしまいました。
「もしかして、天使と何か関係があるとか? それか、弱くして……襲うつもりだったとか……」
寄生虫ミュータントは宿主の身体能力を下げるという特性もあります。
それはどうやら血中の酸素が足りなくなってしまう事からだったようですが……。
「まさか、ね……」
美月は自身の判断を口にしておきながら、それは無いと下しました。
何故ならあそこ迄力を持つ天使が寄生虫を使う理由も無いからです。
ですが気になるのは……。
「なんですぐに滅ぼさなかったんだろう?」
と言う事でした。
侵略が目的であれば圧倒的な力の差を見せて屈服させてしまえば終わりです。
そうじゃなくとも彼らには人間を滅ぼす力はありました。
星を傷つけずというのも出来るでしょう。
「それに、最初のイービル……の元になった天使」
それについても謎でした。
一体どうやって手に入れたのか? 撃墜したのか、それとも落ちていたのか?
そんな事は些細な違いかもしれません。
問題は何故回収しなかったのか? と言う事です。
いくら人間が自分達よりも格下だと思っていてもあそこ迄文明レベルが高い者達が知識ある地球人に無警戒すぎではないか? と彼女は思ったのです。
「イービルを作らせるのが目的?」
何故そんな事をするのか? そこまで考えて乾いた笑い声をあげました。
「私疲れてるのかな?」
変な事を考えた。
美月はそう思い「あはは……」と一人で笑うと自室へと戻って行きました。
この時、彼女は気が付かなかったのです。
「…………」
彼女の憶測の呟きを聞いている人物が居た事に……。
彼は彼女の発言を聞き、考えるそぶりを見せます。
そして、何を思ったのか端末を操作し……。
『――――ダーニナ、ノモ』
それは美月が初めて天使と対峙した時に録音された音声でした。
「この声……警戒をしている様子はない」
何度も何度も繰り返し聞いて行くとその言葉に感情の様な物がある様に聞こえました。
歓喜、それは激しい物ではありません。
ただただ、淡々とした言葉ではありましたが、それでも喜んでいるように聞こえたのです。
「……報告をしておくか」
彼はそういうと司令官のいる部屋へと足を向けます。
誰もがこの時、知る由も無かったのです。
初めて天使の言葉を聞いた二人が……この先を動かして行く事を……。
当然、美月と彼の二人も知る由もありません。
「……彼女の考えが正しいとしたら……何が目的なんだ?」
彼はただただそれが知りたかったのです。
なぜ、天使は地球を選んだのか? 何故、すぐに滅ぼさなかったのか?
それは地球に住む人々にとって共通の疑問でもあったのですから……。




