33話 運命の歯車を動かす悪魔乗り
逃げろという放送が流れた支部の中。
美月は一人助けに向かった……。
魔法を使うことを控えなければならない状況で彼女は魔法を使い……。
見事に逃げろと忠告をしてくれた明智望を助けるのだった。
『助けに来ました』
その声は放送に流れていました。
美月はその事に気が付きましたが、黙ってマイクの電源を切ります。
誰も泣き声なんて聞きたくないでしょう。
そう思ったからです。
ですが、それを聞いていた人達は――。
「何だ今の?」
「襲われてた……よな?」
「確かあの子って今魔法禁止されてるんじゃ?」
「ああ、体調不良とかで駄目だって言われてるはずだ。だから俺達もケガするなって念を押された」
そう次々と話をしていく元から支部に居た者達。
そしてその横で苦虫を噛み潰したかのような表情の物が居ました。
彼らはスピーカーを睨み、舌打ちをします。
政府から来た者達です。
だからこそ、魔法使いである美月が邪魔だったのでしょう。
「あの女の所為で余計な手間が増えた」
「化け物を退治するために派遣されたのに使えない」
誰にも聞かれないような小さな呟きは周りの声にかき消されます。
そして、彼らはゆっくりと歩き始めたのでした。
彼らの目的地は決まっています。
美月達のいる管理室です。
「銃は?」
「ある、これで殺せればいいが……」
物騒な事を呟く者達はその表情に怒りを浮かべていました。
だからこそ、彼らは気が付かれてしまったのです。
「何を考えてるんだお前らは……」
「な!?」
突然肩を掴まれ、振り向いた男はその顔面に衝撃と痛みをうけました。
「貴様!!」
声を上げる男もまた別の人に殴られます。
怪しいという問題ではありません。
銃を構えてきたのです。
「危ない危ない、そんなもの取り出すなよ。俺たちゃただのメカニックだぜ? 戦闘員じゃない」
そう、彼らを殴ったのは伊逹を始めとした整備班の者達です。
「あの子に何をしようと考えてるんだ? ああ?」
伊逹はそう言うと彼らから銃を奪い、部下に渡します。
そして――。
「お前さん達は悪いが拘束させてもらう」
そう言って、顎で部下に指示をすると彼らを拘束し――通信を入れます。
「なんだかきな臭い事になったぞ、司……どうするんだ?」
そう司令官に告げるのでした。
場所は変わり、司令官の部屋。
『なんだかきな臭い事になったぞ、司……どうするんだ?』
そう通信が入った直後、彼は近くに居る男性へと視線を向けました。
「……どうやら、問題が起きている様ですが?」
「しらん、化け物が暴れただけだろう?」
男はそういうとわざとらしく咳込みました。
「それにしても、此処は汚い場所だ。私は喘息持ちでね……もうちょっと空気の良い場所が良いのだが、まぁ仕方ない。化け物が居るのだからな」
「おかしいですね、此処には化け物はいませんよ? それに我々人類の敵は化け物ではなく天使では?」
彼がそう言うと男は苛立ったような表情を浮かべます。
「その天使を倒すために化け物が邪魔なんだ……魔法使いと言う名の化け物がな」
「……魔法使いが化け物? そんなの一部の連中だけでしょう? それに貴方の言うその化け物退治の為にうちの人間は傷つけられた。これは許される事ではない」
明らかに苛立った様子の彼はそう言うと机から立ち上がり……。
「ここには化け物はいない、居るとするならば平気で人を傷つけられる者……先ほど兵士夜空美月が倒した連中ぐらいですよ」
「我々が化け物だと?」
眉を動かし、苛立ったような声を出す男。
彼に対し姫川司は引く態度を一切見せなかったのです。
「他に何か? 彼女達の乗るイービルで日本の住民は救われ始めた。それに初めて出撃した時に彼女は人を助けた違いますか?」
睨みつけるでもなく……また、見下すでもなく……真剣な瞳を向け彼はそう言いました。
「彼女が居た事で救われた命もあれば、失われた命もあるでしょう。ですが……魔物を使うより確実に被害は減っていた……過去の化け物を飼いならそうとし今の兵士達を狩る貴方達が化け物以外の何と言えましょう」
彼の言葉は男にも思う所があったのでしょう。
そして――。
「私の部下は傷つけられた。あの子は魔法を使うなと言われているはずですが、そんなのは無視する事実そうした……助ける為には手段を択ばない」
「………………」
黙り込んだ男に対し司は更に言葉をぶつけます。
「彼女が死ねば人類にとって大打撃ですね、抵抗する術は失われる。彼女の駆るイービル・ジャンヌダルクは我々にとって希望、そして彼女自身もまた希望です。決して化け物ではない! それでも化け物と言うのなら証明して見せましょう……この地球を救う事で……」
彼はそう言い、男は溜息をつく。
「……不愉快だな。我々は戻る。この件は……報告させてもらう」
ただそれだけを告げて彼は部屋を後にします。
司はそれを見つめ、ゆっくりと頭を下げました。
そして、通信を入れると……。
「イービルの撤去、処分は言い渡されなかった。彼女の活躍のお蔭かもしれないな……伊逹」
そう口にするのでした。




