32話 美月という悪魔乗り
血液提供者がそう都合よくあらわれ続けるわけがない。
そう判断した吉沢は美月たちを助けるため方法を考えるという。
そして、話が終わり綾乃はクラリッサに連れられ訓練を向かう。
その間、美月は……。
綾乃達が訓練している中、美月は大人しく日常を過ごしていました。
そんな日常の中……それは突然起きたのです。
『夜空美月さん…………夜空、美月さん……い、医務室に……。し、至急……至急ここから、逃げてください!!』
その放送が流れたのは美月が昼食を部屋で取っていた時の事です。
放送から流れる怯える様な声は聞き覚えがありました。
「明智さん?」
そう、その声は明智望という女性オペレーターの声です。
どうしたのだろう?
そう思っていると――。
『早く――!! ……ひっ!?』
『余計な事は言うな』
最後に聞こえたのは小さな悲鳴と怖い声。
彼女に何かあったのでは? と美月は椅子から立ち上がります。
「み、美月? 今の……」
「い、行ってきます!!」
母親が心配しましたが、それでも美月は何も聞かず出て行きます。
医務室に行け、そう言われましたが美月が向かうのは勿論。
「――管理室!!」
駄目だと言われているのに彼女は走り、医務室に向かいます。
途中、リンチュンの部屋があり、彼女の事も気になりました。
ですが、今は――。
「行かないと――!!」
そう言って無理矢理振り切るように走りました。
彼女は気が付いていませんでしたが、周りの人間達は驚いています。
当然です。
美月は魔法使い。
走れば当然息が切れ苦しくなり……呼吸困難に陥るどころか死ぬ可能性だってあるのです。
「はっ…………はっ……」
確かに苦しくはなって来ました。
ですが、美月がそれに気が付いたのは管理室の扉へと手をかけた時です。
ここまで夢中で走って来たからでしょう。
あまり気が付かなかったのですが……。
あれ? 私……走ったのに……なんで?
「苦しく……ない?」
何時もより苦しくないのです。
なぜかは分かりません。
それでも、身体は正直です……美月の部屋から管理室。
決して近いわけではありませんが特別遠い訳でもありませんでした。
ですが、以前なら走り出してすぐに息が切れていたはずです。
今は少し間を置くと呼吸が戻ってきました。
まるで普通の人の様に……。
なんで? どうして……私……。
困惑する彼女でしたが、すぐに首を横に振り扉を開けます。
今は考えている場合ではない。
そう思った彼女は中へと入り込むと……。
「……え?」
そこには拘束された明智望。
そして、銃を持った人が居ました。
彼女の周りには血を流し倒れている人までいます。
一体なにが起きたのか? この施設の中で強盗なんかは起きないでしょう……。
「はぁ……お前の所為だぞ? 化け物がここに来ちまった」
「あ、ああ?」
彼女の瞳は美月の方へとは向いていません。
迫る銃口を見つめ……。
「これでお前の家族も同罪だ」
「ひっ!?」
美月の目の前でそれは起きていました。
こめかみへと当てられた銃へ視線を向ける明智望。
何故それが見えるのか? わざと男がそれを見せつけるようにしてきたのです。
――助けなきゃ!!
その時美月が思った事はただそれだけでした。
そして、次に思い浮かんだのは此処で食事を取った時の事です。
自然と身体が動き、前へと出ると――。
明智望は錯乱していたのでしょう、ですが何かをしなければと考えたのでしょう。
唯一動く頭でマイクの電源を入れると――。
「ま、魔法使いの皆さんここから逃げ――!!」
叫び――。
男は苛立ったように表情を変えます。
「余計な事を――!!」
そして引き金に欠ける指に力を入れたのを美月は感じ――。
「駄目!!」
手を伸ばしますが、周りにいる他の人達が邪魔でした。
魔法を使うな……そう言われてはいました。
ですが――。
使わなきゃ……助けられない!!
その事に気が付くと彼女は――。
「テンペスト……っ!!」
呟くと同時に暴風を発生させます。
風は吹き荒れ周りの男達は吹き飛んでいきます。
ですが明智望が危機から救われた訳ではありません。
「エレクトロ!!」
人を傷つけるための魔法。
それを嫌っていた少女は躊躇いなくそう口にします。
本来は口にする必要なんてありません……それでも、決意を示すかのように呟かれた言葉。
そして、それに応えるように雷は走り……男に直撃しました。
同時に引き金が引かれ、轟音が鳴り響きましたが、銃を持つ腕は香奈の一撃で上へと向き……。
「ひっ!? い、嫌!? 嫌ぁぁぁあああ!?」
明智望には当たる事無く、天井へと銃弾は当たったようです。
「はぁ……はぁ……」
美月は荒くなった呼吸を整えるとすぐに明智望の元へと駆け寄ります。
「だ、大丈夫、ですか?」
美月が声をかけると彼女は目を見開き美月を目にしました。
「逃げて! 逃げてっ!!」
そして、現状が目に入っていないのでしょう。
執拗に美月を逃がそうとしてくれたのです。
「もう、大丈夫です……逃げる必要はありませんから……」
美月がそう言うと彼女は周りを始めて確認しました。
そこには倒れる人たちが居り、彼女は目を丸め……。
「これ、は……?」
「た、助けに来ました」
美月がそう言うと彼女はその瞳から大粒の涙を流し、美月にすがり付くのでした。




