31話 対策案を考えられる悪魔乗り
目を覚ました美月に異変は見られなかった。
しかし、いつ何が起きるかはわからない。
吉沢はそうならないよう、他の魔法使いに頼み、その体を調べていく……。
「それじゃあ!!」
綾乃は目を輝かせ、吉沢の服を掴みます。
何が原因か分かれば、それの対処を考えればいいだけだからです。
「可能性は十分です。輸血によるヘモグロビン値の上昇がみられています……ですが、血液提供者がそう都合よくあらわれ続けるわけがありません、どうにかして輸血以外の方法を探す必要はありますが……」
「なるほどね、使うなら補えば良いって事かい?」
「はい、恐らく夜空さんが倒れたのは他の魔法使いより魔法を使っていたからだと思います。人を助ける為に……」
吉沢はそう言うと、言葉を更に続けます。
「恐らくこれは減ったら外部からの摂取以外で上昇しません、そして、一定値を下回ると……貧血症状に似たものがおきます。その結果……」
「倒れた?」
綾乃の答えに三度頷く吉沢。
彼女はすぐに微笑み。
「マナを使う以上魔法は切っても離せません。ですから、夜空さんの為に――」
「リンちゃんもいるでしょ!」
綾乃がそう訴えると吉沢は明らかに嫌そうな表情を浮かべます。
どうしたのか? とクラリッサが疑うような表情を浮かべた時――。
「あの乳袋ですか?」
「こんな時にまで変な事にこだわらないでよ!?」
その答えにクラリッサは笑います。
当然笑い事ではないと綾乃は不満そうにしますが……。
「いや、すまない」
「すまないじゃないって!!」
「だが、それを言えるという事は余裕があるという事だ……余裕が無ければ成功するものも成功しない」
彼女がそう言うと綾乃は一歩引きます。
確かに彼女の言う通りです。
考え直した綾乃は吉沢に……。
「納得いかないけど、納得した……なんとかしてくれるんだよね? 信乃お姉ちゃん」
「……最善はつくしますよ」
彼女の答えに綾乃は頷き……。
結果に目を向けました。
本当にこれが上昇するなら……。
きっと走っても苦しくならない魔法使いが生まれる。
そうしたら、美月達だって嬉しいよね。
戦う為じゃなくてこの戦いが終わっても……。
きっと魔法使わないといけないんだから……これさえあればきっと……。
きっと……。
「美月達は喜ぶと思うんだ」
そう綾乃は優しい声で呟きました。
「そうですね、きっと喜んでくれると思います」
吉沢はそう言うと微笑む。
そして――すぐに表情を崩すと……。
「そうなった時、きっとあの子は信乃さん、ありがとう……何でもしますって言ってくれるに……」
「いや、それは無い」
以前と同じ変質者顔負けの表情に変わった吉沢に対し、明らかに引いた様子の綾乃はそう突込みを入れました。
すると当然不機嫌そうにする吉沢でしたが……。
「ですが、まだ薬が出来た訳じゃありません……これからです、ちょっと作業をしたいので部屋の外にお願いします」
そう言われては綾乃達は頷くしかありません。
二人共部屋の外へと向かい。
綾乃は振り返りながら彼女へと告げます。
「信乃お姉ちゃん、お願いね」
「ええ、任せておいてください」
彼女のお願いに対し、そう答えてくれました。
「さて、もう良いだろう?」
話はこれで終わりと言いたいのでしょう。
クラリッサは綾乃へと目を向けるとその眉を吊り上げた。
「私はこの駄犬を育てないといけないからな」
「だ、誰が駄犬って!!」
綾乃は思わず叫びますが、それに対し、クラリッサは大きなため息をつきます。
そして、彼女の腕を引っ張り、扉の方へと向かいました。
「では失礼する」
「は、はぁ……」
その様子を見て吉沢は呆然と見送り……。
「ちょっと引っ張らないでよ!? あぶないでしょ!? ていうか自分で歩けるって!!」
綾乃は解決策が見つかったからか、少し元気になった様子で連れ去られていくのでした。
クラリッサに連れられた綾乃はある部屋へと通されます。
シミュレータールームではありません。
その事に首を傾げた彼女は――。
「さて、戦場において大切なものは何だ?」
「座学ってこと? 簡単じゃん……敵を倒す武器!」
綾乃は突然降られた質問に自信満々で答えました。
ですが、クラリッサは首を横に振ります。
「えと……違う、の?」
「ああ、全く、全然ちがう、必要なのは仲間だ」
彼女はそういうとどこか遠くを見るような視線を送り……。
「仲間が居なければ出来ない事が沢山ある。仲間を支えろ、そして支えてもらえそれを忘れるな……」
彼女はそう言うのでした。
ですが、綾乃はそれを聞き――。
「そんなの解り切ってる事でしょ?」
「だが、貴様は出来ていないだろう?」
綾乃の答えにすぐに返したクラリッサ。
当然、綾乃は変な声を上げ黙り込んでしまうのですが……すぐにがっくりと項垂れると。
「それは、そうだけど……」
納得をせざるを得なかったのでした。




