30話 調べられる悪魔乗り
血液の提供により元気になった美月。
だが、それは果たしてもう大丈夫と言えるものなのだろうか?
そして、閉じこもっているリンチュンは……?
美月が自室へと戻っている際の事です。
姫川綾乃はシミュレータールームで一人頭を悩ませていました。
訓練の方ではクラリッサにしごかれ、たった今吉沢信乃に無茶な話をされたのです。
「調べたい事があるからリンちゃんの協力をって……」
それは無理だと考えました。
何故なら、美月が目を覚ましてからリンチュンは部屋から出てきません。
当然でしょう……魔法を使って死にかけた美月を見て同じ魔法使いのリンチュンが怖がらないはずがないのです。
彼女がどうして魔法使いになったのかは分かりません。
それでも死と言う恐怖に打ち勝てる者は少ない……いえ、居ないでしょう。
「……要は魔法使いの力が必要って事なのかな?」
そう口にした彼女はクラリッサの方へと目を向けます。
先ほどお説教をされたばかりで今話しに行くのも気が引けました。
ですが、リンチュンに頼む訳にはいかない。
今のリンちゃんじゃ魔法は使えない。
ううん、使いたくないはず……なら、仕方ないよ……。
意を決してクラリッサの所へと近づく綾乃。
その細い喉をごくりと鳴らし、彼女へと声をかけます。
「あ、あのぉ……」
「何だ、駄犬……くだらない話をする暇があったら今の戦闘訓練の問題点をあげろ!」
威圧的な態度をとられるといくら綾乃でも萎縮をしてしまいました。
ですが、それでも綾乃は彼女へと話しかけます。
「く、くだらない話では無くて、その……信乃お姉ちゃんからの依頼で……魔法使いの力が必要らしくて……」
「……長い! はっきりと喋れ!!」
ぴしゃりと怒鳴られた綾乃は身を縮こませると少し頬を膨らませる。
そんな彼女の態度を見てクラリッサはその鋭い眼光を綾乃へと向けた。
「……え、あ……」
「なんだ? 早く言えと言っている」
「その、魔法を使った実験がしたいんだって、リンちゃんが魔法使えないから……アンタが……どうにかできないかって」
言葉を促され綾乃は早口の様にようやく目的を口にし溜息をつく。
すると彼女は――。
「そんな事か……」
それだけを残し部屋を去ろうとした。
それを見て慌てて綾乃は追いかけ声をかけた。
「そんな事じゃないって! 美月の命にも」
「分っている。だからこうして向かっているのだろう」
彼女は表情を変えないままそう言うと部屋を後にする。
「嘘……全然分からないっての……」
残された綾乃はそう呟くがすぐにはっとし彼女の後を追いかけた。
吉沢専用の部屋へと辿り着いた綾乃達は早速検証を開始していた。
「それで?」
「先ほど採取した血中のヘモグロビン値がこちらです」
そう言って提示させられたのは綾乃にはそれが多いのか少ないのか分からない数字だった。
「ああ、だから?」
クラリッサはそれを見てただ淡々と会話を促す。
「魔法を使った際、これがどう変化するのかを調べたいんですが……」
「はははは! なるほどな、流石はドクターだ。カロリーの低いスイーツに使う砂糖の量を調べるくらい、くだらない研究だが勉強熱心だな」
彼女はそう言うと大げさなジェスチャーをする。
それに対し吉沢はうんざりしたような表情を浮かべました。
「何ですかそのノリは……馬鹿にしているんですか? これはあの子達を救うかもしれない検証なんですよ」
「……分かっているさ、だから勉強熱心と言った」
日本に彼女のノリは合わないのか、それともただ単に吉沢が気に入らないだけか……。
それは分かりませんでしたが、それでもどうやら二人共検証を始めるようです。
「さて、魔法……だったな」
彼女はそう言うと手の平を天井へと向けます。
そして――。
「これで、良いか?」
そこには弱々しい火が現れました。
それを見て綾乃は首を傾げます。
自分を助けてくれたクラリッサの魔法。
ですが、それはあまりにもお粗末な魔法でした。
「それってわざと?」
「いや、本気だ……私は魔法にムラがある……マナも動かせる程度には使えても、魔法を使った攻撃方法は特に持たない」
「……へ!?」
それを初めて聞いた綾乃は当然驚きますが、本人は気にした様子もなく魔法の火を灯し続けます。
「それで暫く魔法を使い続けてください」
そして、吉沢も同じなのでしょう、淡々とそう言うと……。
「では魔法を解除してください」
そう口にするまでただ魔法の火を見つめていました。
それから再び血液を採取した彼女は再び数値化されたヘモグロビンを二人に見せます。
「変化がありました。魔法を使った後の方は減っています……」
「つまり、マジックポイントがヘモグロビンってこと?」
綾乃がそれを見てふとそんな事を口にすると……。
「分かりやすく言えばそうなりますね」
吉沢は頷き答えるのでした。




