29話 元気になった悪魔乗り
血液の提供により目を覚ました美月。
彼女はクラリッサにイービルから降りるなら今だと言われる。
しかし、彼女は戦うことを選んだのだった。
大切な友人のために……。
美月が目覚めてから三日が経ちました。
「バイタルに異常はないですね」
そう言って美月の体調を確認してくれたのは吉沢です。
いつもと違い真面目な様子の彼女に美月は首を傾げます。
今までは怪しい目つきで美月を舐めまわすように見ていた彼女ですが、今は違うのです。
「それで、体調に変化とかはありませんか?」
「え、あ……はい」
美月は彼女の態度に驚きつつも答えます。
すると彼女はタブレットに移された情報へと目を通し……。
「今の所数値ににも変化はありませんね……」
「えと、あの……良いんですか?」
美月は真面目な彼女に対し、今まで疑問に思ってきた事を聞いてみようと考えました。
すると彼女は首を傾げ、微笑みます。
いつものいやらしい笑みではなく、優しい笑みでした。
「どうしたんですか?」
「あの、吉沢さんって……看護師さんですよね?」
「はい」
美月の質問に笑みのまま答えた彼女。
それを見て美月はますます疑問を浮かべます。
「これって医療行為になるんじゃ? それに前も……」
「私は医師免許もありますよ。また、あの子が私を貴女の専属医師にするよう司令官に申し立てをしてくれたようですので問題ありません」
あの子と聞き美月は一瞬誰だろうと考えましたが、すぐに綾乃の事だと理解しました。
確かに綾乃であれば父である司令官……姫川司にお願いすることが出来るでしょう。
そして、司令官にそれを拒否するなんて事をあまりないでしょう。
何故なら、美月を危機から救ったのは彼女の目の前にいる女性なのですから。
「そ、そうだったんですか……」
ですが美月は不安でした。
いつもなら変な顔をし、今にも襲ってきそうな女性が今は真面目な顔で美月を心配してくれているのです。
だからこそ、怖いとも感じましたし同時に変な物でも食べたのかな? 大丈夫かな? とも思っていました。
失礼だとは思ってはいましたが、そう思う事は仕方がないのです。
「それでは、今日の検診は終わりです。一応先日からの一週間、後4日は安静にしてください。出撃や魔法の使用は許可できません」
「は、はい」
以前の医師とは違い、何故か嫌だと言えなかった美月は思わず首を縦に振ります。
すると彼女は――。
「それと、食事はちゃんととってますか?」
「はい……ちゃんと食べてます」
起きた時に食欲が無かったわけではありません。
ですから美月は素直に答えたのですが……。
「もし、食欲の低下などがありましたら、すぐに知らせてください。再検査をします」
「ぅぅ……」
食欲の低下何て言う事は誰でもあるはずなのに……そう思いつつも美月は頷きます。
「では、以上で終わりですよ」
「し、失礼します」
美月が頭を下げ部屋を出て行く、扉へと手をかけもう一度挨拶をしようと美月が振り返ると吉沢は再びタブレットと見て顎に指を這わせています。
「数値上は問題ない、ですね……ヘモグロビンも減った様子は……ない。投与前の数値が分からない以上、分からないですが、彼女にそれをさせるのは危険ですよね……」
そう呟いた彼女はスマホを取り出し……。
美月は自分のことだと理解し、じっと待っていました。
「綾乃さん、お願いがあるのですが……」
と姫川綾乃に連絡をするのでした。
綾乃ちゃんにお願いって何の事だろう?
美月は当然首を傾げます。
その後は吉沢が美月を見ても何も言おうとしないので美月は――。
「あの、今の連絡って……」
「結果が出次第知らせますよ、さっ今日はもう休んでください」
「……え?」
すぐに教えてくれるはず。
そう思っていた美月でしたが、吉沢は教えて呉れる事無く、美月を追い出すように帰らせます。
当然、困惑する美月ですが……。
考えても、なんの電話だかわからない……よね?
だって、綾乃ちゃんは……。
魔法使いではない。
そんな彼女にお願いする事とは何でしょう?
先程の状況から察するに美月の事であるのは間違いないでしょう。
ですが、その内容が分からないのです。
「うーん?」
美月は首を傾げながら歩き始め、ある部屋の前で止まります。
「…………」
そこはリンチュンの部屋でした。
美月が目覚めてから、死にたくないと呟いた少女はあれから顔を見せません。
食事だけはとっている様ですが、部屋の中にずっと閉じこもったままなのです。
美月は扉の横にあるチャイムを鳴らします。
ですが、返事はなく……。
「リンちゃん?」
彼女の名前を呼ぶも何の返事も無い……。
不安になった彼女は扉へと手をかけるのですが……。
鍵がかかってる。
当然、鍵がかかっており、中へと入る事は出来ませんでした。
「……あの、またね?」
それだけ、言い残した美月は自身の部屋へと戻ります。
暗闇の中少女は自身の身体を抱きしめます。
怖いのです。
恐ろしいのです……。
「魔法を使えば、死ぬ? 死ぬ?」
ぶつぶつと呟かれるのは日本語ではありません。
中国語で呟かれていました。
「嫌、死ぬのは……死ぬのはもう……」
ぶんぶんと頭を振ると長い髪は揺れました。
そんな時、チャイムが鳴り少女はびくりと身体を震わせます。
「リンちゃん?」
「……メイユエ」
扉の前の声に小さな誰にも聞き取られないような声で少女は答えます。
当然、聞こえなかったのでしょう……。
「……あの、またね?」
その少女は去って行き、リンチュンは再び自分の身体を抱き、がたがたと震えるのでした。




