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28話 揺るがない悪魔乗り

 目を覚ました美月。

 彼女は自分の力不足を感じていた。

 しかし、戦えるのか? という問いに彼女は決して降りるという言葉を使わなかったのだ。

 もう、降りるなんて言わない。


 美月はそう心の中で呟きました。

 前回そんな事を言ってしまって何が起きたかを覚えていたからです。


 もう綾乃をひどい目には合わせたくない。

 彼女はそう思っていました。

 だからこそ、美月の瞳を真っ直ぐに見るクラリッサも最早何を言っても無駄だと思ったのでしょう。


「そうか、分かった……」


 それだけを言うと吉沢へと声をかけました。

 二人はそのまま部屋の外へと向かっていき美月は首を傾げるとすぐに東坂恵へと目を向けます。


「あの、東坂さん……新谷さんを」

「い、今は駄目……駄目だから」


 今魔法を使えば新谷は助かるかもしれない。

 ですが、同時に美月が死ぬかもしれない。

 そう理解していた東坂恵は辛そうな声でそう口にします。

 一見元気に見えて美月がどんな状況なのか彼女には分からない訳ではないのです。


「で、でも……」

「貴女は倒れたの、今ももしかしたら危ない状況なんです……なのに、命を懸けて戦っているのに……今、頼めませんよ」


 泣きそうな声でそう言われてしまい美月は戸惑います。

 新谷を助けたい。

 それは同じ気持ちのはずでした。


 ですが、彼女は何かを迷っている様で美月にはその何かが分からないのです。

 首を傾げると今度は綾乃に抱きつかれて彼女は慌てます。


「あ、ああああ綾乃ちゃん!?」

「とにかく今は安静にして……本当、怖かったんだから……」


 彼女の言葉に美月は困り果てながらも「うん」と答えます。

 そんな中、一人違う反応を見せる少女が居ました。

 彼女は青い顔をし、自分の身体を抱いています。

 それだけじゃなくがくがくと震え、何かに怯えている様でした。


「リンちゃん?」


 美月が彼女の名前を呼ぶと彼女は美月に対し怯えた瞳を向けました。


 どうして、そんな目で見るの?


 美月は理由が分からず首を傾げますが、彼女はぎこちない笑みを浮かべると……。


「な、なんでもない」


 震える声でそう言うのです。

 その声がなんでもないと言ったのが嘘だと物語っていました。

 ですが、美月には理由は分かりません。


「ど、どうしたの?」

「だ、だいじょうぶ……大丈夫?」


 震えながら彼女はその部屋を後にします。

 決して走る事は無く、扉を閉めると……。


「いやぁ……いや、ぁ……死にたく、ない、死にたく……」


 その後の言葉は良く聞き取れませんでした。

 恐らくは中国語で呟いているのでしょう……。


「リン、ちゃん……」


 それを聞いていた美月は思わず彼女の元へと向かおうとしました。

 ですが、自分の体なのに上手く言う事を聞いてくれません。


「あ、あれ?」

「ちゃんと休みなよ……お願いだから」


 綾乃にそう言われてしまい彼女は頷くほか出来ず。

 扉の向こう側に居るだろうリンチュンへと目を向けます。


 死、それは悪魔乗りである限り、逃げる事は出来ない宿命でもあるでしょう。

 何故それを突然怖がったのかは疑問ではありません。

 美月だって怖いのです。

 ですから無理もないでしょう。

 ですが、なぜ今になってそれを口にしたのかが分かりませんでした。


 もしかして、私が倒れた事と関係が? それに――。


 美月は横たわる東坂恵へと目を向けます。

 彼女の顔色は決していい物とはいえませんでした。


 東坂さんも、一体……。


 私が倒れている時に何かがあったの? じゃなきゃこんな風には……。


 美月は不安に押しつぶされそうになりつつも、綾乃へと目を向けます。

 彼女はただただ黙って美月の視線を受け止めると微笑み。


「大丈夫、もう、大丈夫だから……」


 と口にするのでした。


「綾乃ちゃん」


 美月が彼女の名前を呼ぶと彼女は美月に抱きつき、服をぎゅっとつかみ嗚咽を漏らします。

 それを聞き、美月は自分の所為で彼女が泣いている事実を再確認させられました。

 ですが、それでもイービルから降りる気はありません。

 彼女はただただそれを受け止めると……。


「私も、もう、大丈夫だよ……」

 

 と口にするのでした。

 何が大丈夫なのか分かりません。

 いえ、彼女達の様子からもしかしたら何の解決になっていないのかもしれません。

 それでも美月は大丈夫と口にし……。

 そして……。


「もう私は大丈夫、元気だし……イービルにも乗れるから」


 と口にします。

 戦う事から逃げない。

 そう決めた少女の心は以前よりも強く、硬いものになっていました。

 誰かの為に戦う……それもありましたが、今は何より……。


 私が頑張れば、綾乃ちゃんにも無理させないで済む、よね?


 そんな思いもあったのです。

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