26話 生死を彷徨う悪魔乗り
綾乃達は美月を助ける為に血液検査を行う事にした。
しかし、政府公認の医師はそれを邪魔するだろう……。
余り公にはできない状況で無事美月を助ける事は出来るのだろうか?
血液を採取した吉沢は調べると言い、その部屋から去って行きました。
綾乃達は祈るような気持ちで彼女を待ちます。
時計の音がやけにうるさく聞こえ、時間も長く感じました。
「まだかな……」
「待つ事すら出来んのか」
クラリッサに注意をされた綾乃は顔を床へと向けます。
するとリンチュンが眉を吊り上げ……。
「そう言うあなたもさっきからそわそわしてる! メイユエが心配な癖に!!」
と怒ります。
綾乃はその言葉に反応し顔をあげました。
すると確かにそわそわとしています。
この人……あまり美月のこと知らないはずなのになんで?
疑問を感じた綾乃でしたが、少しほっとしました。
綾乃でさえ少し怖いと思った彼女はどうやら根はやさしいようです。
しかし、綾乃はそんな事はすぐにどうでもよくなり、扉をじっと見つめます。
やはり吉沢が帰ってこない事が不安なのです。
出て行ったのはかなり前、まだかな……と言ったのは遅いからです。
「早くしてよ……」
そう呟いた彼女は今度は美月の方へと目を向けます。
そこには顔を歪め苦し気な少女の姿。
このままでは美月は死んでしまうでしょう。
綾乃はそんな不安に襲われ、枯れたはずの涙があふれてきました。
そんな時がっくりと項垂れる彼女達の部屋の扉が開けられます。
綾乃達は思わず身構えますが、そこには私服姿の吉沢の姿がありました。
「ど、どうだったんですか?」
東坂恵は彼女へ問うと彼女は溜息をつきます。
それが安堵の物なのか、はたまた別の物か当然綾乃達には判断がつきません。
すると彼女は微笑み……。
「まず、姫川さん、あなたはヘモグロビン値が多いです。恐らく血液は合うかと……」
「本当! なら!!」
早く血を採って!! 綾乃はすぐにそう言おうと思いましたが、吉沢に手の平を見せられ留まります。
「な、何?」
「貴女は天使と戦うという仕事があります。血液を採取し貧血になられたら困りますよ」
「そんな事!!」
そんな事を言っている場合!?
綾乃の言葉は今度はクラリッサが止めます。
「今貴女は……と言ったな? つまり、お前かそこの女が?」
彼女の質問に吉沢は首を縦に振りました。
「ええ、遠坂恵さんのヘモグロビン値が異常に高いです……それも、姫川さんより遥かに……」
「え? ええ?」
信じられないという様子の彼女でしたが、すぐに美月の方へと目を向け……何かを決意したかのように表情を変えると。
「なら、私のを……それなら問題ないですよね?」
「ええ、だけど、その後がつらい――」
「辛いのなんて!! 夜空さんにはあの人を助けてもらわないといけないんだから!」
彼女はそう言うと吉沢に詰め寄り。
「私の血液でこの子を助けてください……!!」
願うのでした。
それからすぐに吉沢は東坂恵の血液を採取します。
とは言え、人一人から取れる量には限度があります。
それでもギリギリまで血の提供をしてくれた東坂恵は今は安静にしていました。
その横で行われるのは美月への輸血その作業を進めていきます。
「……大丈夫だよね?」
リンチュンは心配そうに見つめます。
ですが、綾乃は強く頷き……。
「きっと、きっと大丈夫だよ! だって……」
不安になったのでしょうクラリッサの方へと目を向けます。
彼女は険しい顔をしていましたが、綾乃の視線に気が付くとすぐに彼女の方へと目を向けました。
「大丈夫、だよね?」
「………………………………ああ」
それは誰もが不安になる間でした。
「今の間はなんですか?」
それに対し、そう声を上げるのは治療をする吉沢です。
当然でしょう、自分がおこなおうとしている事に対しての事です。
ましてや、もし失敗すれば何が起きるかは分かりません。
何故なら今まで魔法使いに対する輸血はされてこなかったのです。
「研究結果でヘモグロビン値の事は分かった。助かった一例もある……だが、たったの一例それだけだ。偶然と言う線もある」
「そんな!? じゃぁ意味が無いかもしれないじゃないですか!?」
「私は確かに言ったぞ? 必ず助かるという見込みはないと……」
それを聞き一同は固まってしまいます。
吉沢はともかく他の三人は確かに聞いていました。
そして、それを思い出し……。
「じゃぁ……」
綾乃は床へと座り込みます。
「だが、他に助けられる見込みがある方法も無い……どの道それしか方法はな……」
「……そうですか」
吉沢は淡々と一言を告げ、美月へと目を向けます。
そして、輸血をし始めました。
「ちょっと信乃お姉ちゃん!?」
「仕方がないですよ、方法を探している時間はありません……適合率が高く、吐血も見られたんですよね? この後何が起きるかなんてわかりません、脳へのダメージも考えられます」
彼女はそこまで言うと綾乃へと目を向け。
「輸血によりヘモグロビン値が一時的に上がればミュータントの活動を低下させられるかもしれません、血液は一致してますし、恐らくは大丈夫、でしょう」
そう願う様に口にするのでした。




