23話 意識を失う悪魔乗り
男に襲われた美月。
しかし、そんな彼女を助けてくれた東坂恵。
だが、その彼女も襲われ……美月は彼女が殺されると思ってしまう。
思わず魔法を使ってしまった彼女は意識を失うのだった。
美月が次に目を覚ましたのは医務室ではありませんでした。
「…………」
「それで?」
「魔法使ったら急に苦しくなったようです……その、分かるんですか?」
聞いた事も無い女性の声が聞こえました。
片方は東坂恵で間違いないでしょう。
「美月? 美月!!」
もう一人声が聞こえました。
それは誰でしょうか? 美月呆然とする意識の中、彼女が誰かを必死に考えました。
そして、思い当たった少女の名を呟きます。
「…………」
「美月! 大丈夫? ねぇ!!」
声が出たのかもわかりません。
ですが、彼女は慌てた様に美月の名前を呼び、手を握りました。
美月は何とか手を動かし彼女の手を握ります。
「――ッ!! ねぇあんたも回復魔法が使えるんでしょ!! 美月を治してよ!!」
微かな力でした。
ですが、それでも綾乃には美月が無事だという事が伝わったのでしょう。
すぐに女性へ声をかけるのが美月にも分かります。
魔法……使い……?
「駄目だ……それでは解決にならん、もっと別の方法を試すんだな」
「ならどうすればいいの!!」
美月には叫ぶ綾乃の声がやけに遠く感じました。
そして、また意識が薄れていくのです……。
「美月!? 嫌だ、死んじゃ駄目!!」
「アヤノちゃん!! 息はしてるから揺すったりしちゃ駄目だよ!」
リンチュンに注意をされ綾乃は美月の様子を観察します。
取りあえず彼女が言っている通り呼吸はしている様です。
綾乃は焦る少し気持ちを押さえました。
「それで、えとクラリッサ……さん、どうすればいいの?」
リンチュンは綾乃の代わりに彼女に質問をします。
するとクラリッサと呼ばれた彼女は大きなため息をつき心底呆れたそぶりを見せました。
「ふん……貴様らは魔法使いがどうしてミュータントに適合するか知っているか?」
突拍子もない事を言われ、綾乃達は首を傾げます。
「そんなこと……」
「良いから答えろ、そいつを助ける為だ」
納得いかない、そう思った綾乃に代わりリンチュンは前へと出ます。
「手術をして適合した人……」
「それは結果だ……どうして適合するかを聞いている」
「そんなの運でしょ? いまだに解明されてないって――!!」
そう言うとクラリッサ鼻を鳴らします。
「これは最近解明された事だが、血中のヘモグロビン値の違いだ」
「「へも……?」」
綾乃とリンチュンは首を傾げてしまいましたが、それについては東坂が口を開きました。
「んと肺の中で酸素と結合して血流に乗せて酸素をの運ぶっていうのが役目ですね」
「酸素を……え? 酸素?」
そう言われて綾乃は美月とリンチュンを見ます。
たった少し走っただけで息が上がってしまう二人。
苦し気に息をするのは何度も見ました。
「そうだ、それが少ないと貧血の原因の一つとされるが、貧血症状のない者が適合者の確率が高い、逆にヘモグロビンの量が人より少し多いだけでミュータントには適合しないのは分かっている」
「じゃぁ……今まで死んで来た人は……」
綾乃は彼女の言葉に震えた声で問う。
「非適合者だったのを知らずに適合手術をした結果だな、手術のタイミングでヘモグロビン値が常人よりはるかに多い場合ミュータントは脳組織を攻撃し始める」
「そんな……」
リンチュンは呆然としてしまいます。
当然でしょう、今まではそんな情報が無かったのですから……。
「そ、それで美月を助ける手段って?」
「ヘモグロビンを調べる。これが多い人間を探し彼女に輸血する。だが当然感染症などの危険を少しでも避ける為に健康体である必要だ、それに必ず助かるという見込みはない」
「……じゃぁアタシから調べて」
綾乃は迷いなく、そういうと前へと出た。
「他には?」
クラリッサはその場にいる魔法使いではない人間。
つまり東坂恵を見つめた。
すると彼女は――。
「私は……私の所為で夜空さんはこんな事に……調べてください」
「ふむ、だが私は医者ではない。調べる事は無理だ……医者に調べてもらう必要がある」
とは言ったもののとクラリッサは困ってしまった。
今いる医者が頼りにならないと悟ったからだ。
それは数十分前の出来事だった。
「美月!!」
美月が倒れたと言う放送が施設の中に流れたのだ。
それを聞き綾乃とクラリッサは訓練を中止しすぐに彼女の元へと尋ねた。
そこにはあの医師がおり、綾乃は唇をかみしめる。
「もう駄目だなコレは……処分した方が良いだろう」
そして、彼女達が来ている事など知らない医師はそう口にした。
いや、いたと知っていても同じ事だっただろう。
「ちょっと――!!」
綾乃は堪らず一歩前へと踏み出るがそれを止めたのはクラリッサだ。
「なら、それは私が預かろう」
「なに? 何故だ? これはそう簡単に渡せる物では――」
振り返った医師は意外そうな顔をしていた。
それに対しクラリッサは見下すような表情を浮かべ――。
「まさか良い歳をした男が人形で着せ替えごっこなどが趣味と言う訳ではないだろう?」
今度はあざ笑うかのようにそう言ったのだ。
すると――。
「ふん、気に喰わない女だ……どうせすぐに死ぬ、好きにすればいい」
そう言って彼は美月を乱暴に扱う。
それに対し声をあげたのは――。
「だ、駄目ですよ! 患者さんなんですよ!?」
東坂恵だった。
彼女の言葉を聞き苛立った様子の医師は声を荒げる。
「患者だと!? 私が見るのは人間だ! こんな化け物ではない!!」
それは……魔法使いを否定する言葉だった。
彼から美月を離した綾乃達はこの部屋へと彼女を運び今に至る。
「誰か、頼りになる医師が居ればいいのだが……」
「お医者さん……」
その言葉を聞き東坂恵は考え込む様に頬に手を当てるのだった。




