22話 不運な悪魔乗り
綾乃を探しに行くためにハンガーへと向かった美月。
彼女はそこで新谷の身体がボロボロである事を知る。
彼女はショックを受ける中、東坂恵と出会い。
新谷を治す事を決意するのだった。
「はぁ……はぁ……」
おかしい……そう美月が思ったのはつい先ほどだ。
走った後から変なのだ。
身体は一向に良くならず……美月は部屋に辿り着くと服や髪が汚れるなど気を使う前に倒れ込んだ。
「けほ、けほっ……」
埃の所為でむせ込み、その咳の所為で更に苦しい。
苦しいから咳込む、咳込むから苦しいと終わらないループに陥っていました。
私、死ぬ……のかな?
美月がそんな不安を思い浮かべた所でなにかが変わる訳ではありません。
ですが、東坂恵が戻って来る前にはどうにかしなくてはと思い、必死で呼吸を繰り返しました。
ようやく落ち着いて来た頃。
灯を付け椅子へと座った所、ガチャリという音が響きます。
「東坂さ――」
彼女が来たんだ。
そう思った美月は振り返ると其処には見慣れない男性が居ました。
施設では何度か、いえ数えるほどぐらいしか会った事がありません。
ですが、彼は違ったのでしょう。
「美月ちゃん」
突然名前を呼び、美月の方へと近づいてきます。
「駄目だよここは人があまり来ないんだよ?」
そう言って近づいてくる彼に対し美月は恐怖を感じました。
何かが警告をしているのです。
「ああ、そうか……俺か? 俺を待っていてくれたんだね……」
はぁはぁと息を荒げる男から距離を取ろうとする美月。
ですが、今の美月は立ち上がるだけでくらりとし――。
「美月ちゃん――!!」
男は美月へと襲い掛かって来ました。
「き、きゃぁぁああああああああ!?」
美月は悲鳴を上げ、男に押し倒されてしまいます。
「ああ、この時を待ってたよ、恋人同士なんだからもういいよね……」
一体なにを言っているのか分かりません。
そもそも、美月としては面識もない男性です。
「だ、だれ……だれか……けほ、げほっ!?」
助けを呼ぼうと叫びますが、身体が言う事を聞いてくれません。
男はそんな苦し気な美月なんて気遣ってくれる様子もなく……。
「ああ、待っててくれたんだよね……」
身体を押さえつけられ、服に手を伸ばされた彼女は流石に何をされるのか気が付きました。
「ひっ!? い、嫌――――!!」
心臓がばくばくとなり肺は悲鳴を上げ、苦しくて動けない。
それでも彼女は抵抗をし――。
「痛っ!?」
振るった腕が……爪が彼の皮膚を傷つけました。
「あ? あ、ご、ごめんなさ――っ!? かっ…………っ!?」
思わず謝ってしまった彼女の喉元には彼の大きな手が当てられ、首が絞められていきます。
ですが、一瞬自分が何をされているのか彼女には分かりませんでした。
「かっ!? っ……っ!?」
「なんだよ、俺の物なのに俺の女のに抵抗するのか……!!」
気が狂ったような目で見つめられ、ようやく美月は理解しました。
自分は首を絞められているのだと……。
徐々に抵抗できなくなっていくどころか……呼吸もままならず、彼女は意識が薄れていきます。
「……っ…………っ」
「この! 俺の物なんだ俺の……大人しくしてろよ!!」
叫ぶ男に対し、美月は堪らず首を縦に振ろうとしました。
このまま死にたくない。
そう思ってしまったのです。
ですが……。
「その子を――放して!!」
悲鳴なような声が聞こえ、何か鈍い音が聞こえました。
「ガ――!?」
すると男は横に倒れ、美月の首からも手が離れます。
「けほっ!? ひゅ、ひゅーひゅー……」
ようやく息が出来た彼女は慌てたように呼吸を始めます。
そして、何が起きたのか理解しました。
声の正体は東坂恵です。
彼女は怯えた顔で消火器を持っていました。
ですが、すぐに美月の方へと向くと……。
「夜空さん!? 大丈夫? ああ……首に跡が……」
彼女を気遣ってくれました。
ですが、美月はすぐに彼女を押します。
声が出なかったからです……。
「ど、どうしたの?」
困惑する彼女の後ろには男が立っていました。
幸い、いえ、この場合最悪な事に打ち所が良かったのでしょう。
気絶しなかった男は東坂恵に目を向け――。
「俺をふったクソ女の癖に――――」
「―――――え?」
声をかけられた彼女は怯え、後ろへと振り返ります。
ですが、それは遅すぎ、男は手に持っていた棒で彼女を殴ろうとしていました。
美月にはその後の事は簡単に想像できます。
いえ、誰が想像できないというのでしょうか?
無残に転がる東坂恵の姿。
運が良くても辱められ、自分も同じ目に会う事でしょう。
「二人共――俺をなんだと――!!」
男が声をあげた瞬間、美月は――。
「――っ!!」
頭に焼けるような痛みを感じながら魔法を使います。
殺さないように傷つけないように――そう願いながら放った魔法は――。
「――なっ!?」
男を軽々と吹き飛ばし、壁へと叩きつけます。
今度は美月達にとっては打ち所が良かったのでしょう男が立ちあがる気配はありません。
「ひゅ、っ!? っ…………けほっ……げほっ!?」
ですが――。
「夜空……さん?」
「ひゅっひゅー、げほっ……げほ……」
後は部屋から逃げるだけだというのに美月は息苦しさから解放される事は無く、動けませんでした……。
「ごぽっ……」
更には粘っこい音を立てながら血を吐き出します。
「夜空さん!! ――どうしたの? しっかり――!!」
そして、東坂恵の声が聞こえたかな? と考える暇もなく意識を落とすのでした。




