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21話 友を探す悪魔乗り

 美月は吉沢と別れ、自分の部屋へと向かう。

 出迎えてくれたのは当然母だ。

 彼女が止める前に美月は戦う意志を見せ……そして、共に食事をする事にした。

 そして、ふと友人の事を思い浮かべるのだが……その連絡先を知らない事を後悔するのだった。

 母と二人の食事は久しぶりでした。

 ですが、二人の間に会話は無く、美月は食べ終わると「ごちそうさま」とだけ残しその部屋を去ります。

 目的地はハンガーです。

 もしかしたら、伊逹か誰かが綾乃の居場所を知っているかもと思ったのです。

 ですが、ハンガーに行くには医務室の前を通らなければなりません。

 憂鬱な気持ちでその前を通り過ぎると先程、美月にイービルを降りるように告げた声が聞こえました。


「お前は死んでも良いのか?」


 その声は自分に向けられたものだと感じた彼女はびくりと身体を震わせ思わず立ち止まりました。


「その身体もうボロボロだ、分かっているんだろ?」


 ですが、どうやら自分に向けられたものではなさそうです。

 その証拠に本当に心配しているような感じがしました。


「あんなものに乗って運命に逆らうからそうなる」


 続く言葉に美月は疑問に思いました。

 日本に居る悪魔乗りは美月と綾乃、そして新谷です。

 今はリンチュンも居てくれてますが、他の人に会った事がありません。


 実際にはもっといるはずなのに、機体が無いからです。

 一体誰と話しているのだろう?

 そんな疑問が浮かぶのは当然です。


 何故なら――。


「綾乃ちゃんなら言い返してるよね?」


 そして、リンチュンであれば彼女は中国人。

 日本で悪魔から降りろなんて言われる必要はないでしょう。

 残るは新谷ですが……。


「新谷さんも」


 きっと何か言うはずだ。

 そう思っていたのです。

 だから、興味本位で扉を開けました。

 気が疲れないように少しだけ……。


「…………」

「英雄? 何が英雄だ。どうせ死ぬんだ関係ない」

「だから、痛み止めを出してくれ」


 彼はそう言うとじっと床を見つめていました。

 顔が見えません。

 ですが、その声には聞き覚えがありました。


「薬を出してどうする? またあれに乗るのか? 次は耐えられないかもな」

「だとしても、僕はやらなきゃいけないんだ」


 嘘……。


 美月は再び聞こえたその声にショックを受けました。


 新谷……さん?


 彼の名前を心の中で呟くと、すぐに扉を閉め――。


「誰だ!?」

「――っ!?」


 美月は自分の息が切れるのも気にすることなくその場から走り去ります。







 暫く、と言ってもほんの少しの距離ですが、美月は膝に手を置き息を切らします。


「けほっ…………けほ、ひゅ、ひゅー……ひゅ……」


 呼吸がおかしいのは分かっていました。

 それどころか以前よりもずっと走れる距離が短くなっています。

 適合率が高くなったからでしょうか?

 このまま動けなくなってしまうのでは? そんな不安もありましたが、まず思い浮かんだのは……。


 痛み止め、死ぬ? 新谷さんが?


 先程の会話です。

 何らかの薬を貰っていることは間違いないでしょう。

 そして、話の中で出てきたボロボロの身体と死と言う言葉……。

 それから考え付くのは簡単でした。


 でも、何処も悪い所なんて……。


 以前彼のバイタルを測ったことがあります。 

 ですが、異常はなかったはず……思い出しながら美月は考えるのですが……。


「あれ? なんでバイタル?」


 確かに日頃の体調管理は大切です。

 毎日バイタルを測りに来る人は居るには居ました。

 ですが、彼らにも仕事があります……。

 義務ではないのです。

 なら、何故彼は? 悪魔乗りは天使が出て来るまで待機が仕事と言う訳ではありません。

 訓練等をし、何時でも万全な体制で天使と戦えるようにします。

 ですが、美月も毎日測っている訳では無く、ちゃんと検診日があるのです。


 他の手伝いをしてる人も居るし、綾乃ちゃんと私みたいにしてる人もいる。

 だけど……新谷さん何をやって……?


 新谷が別の所で仕事をしているとは聞いていません。

 同時に彼が毎日バイタルを測っているのは知っていました。


 そして、美月はその場に座り込み……。


「嘘……じゃぁ、新谷さん……もう」


 イービルに乗ったらいけないんじゃ?

 そう心の中で呟いた彼女は――。


「……どうしたの?」

「……え?」


 不意に声をかけられ振り向きます。

 そこには以前、新谷と一緒に居た女性が立っていました。


「あ、あの……」

「新谷さんがどうしたの?」


 彼女の顔はやけに険しく、美月は先程の話と自分の考えが正しい事を理解したのでした。


「ねぇ! 彼がどうしたの!?」


 そう詰め寄ってくる女性の名は当然知っていました。

 東坂恵……以前新谷の看護をしていた女性です。


「その……」


 美月の態度に苛立ちを覚えた様子の彼女は――。


「何があったの!?」

「も、もう体がボロボロだって言われてるのを……」


 美月は彼女の勢いに負けてしまい、先程の事を口にしてしまいました。

 すると彼女は一瞬ショックを受けた顔をしましたが、すぐに美月へと目を向けます。


「どういうこと?」

「これ以上の戦いは危険だって言う意味だと思います……」


 美月の声は以前のようにか細く聞き取り辛かったでしょう。

 ですが、それでも彼女にはしっかりと伝わっており……。


「そ、そう……でも夜空さんなら、治せるのよね?」

「……え?」


 そう言われ美月は思わず惚けた声を出しました。

 しかし、すぐに考えてみると……。


 確かに、出来るかも……ウィルスとか病気は無理だけどボロボロって言うのは怪我とかの後遺症だと思うし……。

 もう時間が経っている傷を治せるかなんて試した事は無いけど……これまでだってずっと、ずっと魔法で皆の怪我を治して来たんだから……。


 新谷を助けられるのではないか? 美月はそう考えるとすぐに彼女へと目を向け直します。


「その、絶対かは分からないですけど……でも、あの新しいお医者さんが怖くて……」


 実際には怖いというより嫌いと言った方が良いでしょう。

 それでも美月は怖いと口にすると東坂恵は頷き――。


「分かったわ、新谷さんは私が連れてくるから、夜空さんは準備を……この先に空き部屋があるのは知ってるよね? そこに連れて行くから !」


 そう言って走り去っていきます。

 残った美月は自分の手を見つめ考えます……。


 これ以上魔法を使えばどうなるか、分からない……。

 そう言われたら怖いよ、だけど……それでも私は――誰かを助けたい。


 そう思い、美月は空き部屋へと向かいます。

 すると――。


「――あ?」


 がくんっ……と身体が大きく揺れます。

 何とか壁に手を当て転ぶのだけは防げました。

 ですが、明らかに体がおかしいです。


「あ、あれ? まだ疲れて?」


 足はがくがくと震え、言う事を聞いてくれません。

 息も一旦整ったはずなのに荒くなっています。


 ど、どうしちゃったの? 私……。


 美月は一人恐怖と戦いながらも、空き部屋へと足を進めるのでした。

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