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最高の瞬間なんて一つだけ選べない

作者: 佐伯みあ

その魔人は

「好きな瞬間で貴方の人生を止めておけます」

と言った。


好きな瞬間

最高の瞬間で人生を止めておけたら

ずっと幸せな時間が続くことになる。


でも俺にとっての「最高の瞬間」っていつだ?


手近なところなら、食いもんか。

好物を腹一杯食った瞬間は幸せだ。

だかいささか地味だな。


それじゃあ女か。

一目惚れした女を抱いた時の興奮は今でも忘れられない。


ああ…。でもあの後、同棲した女は金を持って消えてしまったんだった。

やっぱり金はなくちゃ話にならない。


それで言うなら、小金持ちだった頃は毎日旨い酒が飲めて、適度に女にもモテて、余裕があり楽しかった。

金のある時期なら女も酒もついてくるから万能じゃないか。


これで決まりか?

決まりなのか…?


頭じゃ「金だろ」と分かっているのにまだ迷ってしまうのは、他の記憶が頭から離れないからだった。


みそっかすな俺を「可愛い可愛い」と撫でくり回していた母さんの手。

クラスで最初に逆上がりが出来て得意満面だった頃の俺。

どん底から這い上がって再就職が決まった晩のささやかな祝杯。


そんな時だって俺の中では貴重な瞬間だ。



「よし」

1週間はかれこれ悩んだろうか。


迷いに迷って決めた答えを魔人に告げて言った。

「さぁやってくれ」

それなのに魔人は返す。

「それは出来ません」


何だって?

「話が違うじゃないか」

俺は魔人につっかかった。

「あんたは、好きな瞬間で俺の人生を止めておけるって言っただろ」

「そのとおりです。ですから」


そこで魔人は真実を告げた。

「もう、あなたは選びました」


うっすらと嫌な予感がして、続きを聞きたくなくなってきたが、耳に勝手に説明が入ってくる。

「貴方が選んだのは、ここです」

「ここ…」

「どこにでも戻れる、いつにだって行ける、何でも選べるこの状態が一番楽しみだと、そう仰いました」


俺ってやつは…

だが後悔してももう遅い。


そうして俺は今日も、行けない時を無限に考え続ける。

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