大物になった息子
至らぬところがあると思いますが、よろしくお願いします。
とある居酒屋にて
「あっ、お久しぶりです。」
「ああ、得意先の……その節はどうも。」
「いえいえ、こちらこそ。ところで聞きましたよ。お宅の息子さんのこと。」
「孝ですか?」
「ええ、うちの息子と友人同士らしくて。この間、久々に話したと言ってたんです。話によれば、ずいぶんと優秀なのだとか。」
「ええ、まあ、できる子と言えばそうですかね。」
「どんな子なんです?」
「えーっと、確か高校じゃ定期試験はいつも上位だったと聞いてます。あとは、大学でも何度か表彰されたことがあるらしくて……。」
「へぇ、すごいですねぇ息子さん。」
「会社も、それなりにいいとこ行ってましたよ。」
「ん?ましたってことは……。」
「今は辞めてますね。」
「ええっ、辞めちゃったんですか!?」
「はい……。」
「それは、また……大変ですねぇ。」
「いえ、そんなでもないですよ。うちにもまだ余裕ありますし、孝も頑張ってるんで。」
「……と言いますと?」
「あいつ、経営学を勉強してるんです。『俺には才能があるんだ。俺は世の中で認められるべきなんだ。』とまで言い出しましてね。」
「自分で会社作るってやつですか?はぁ、やっぱりできる人って違うんですね。」
「『日本一になるくらいデカい会社にして、父さん楽させるからな。』とも言ってましたし。」
「親孝行なんですねぇ。うらやましいなぁ。」
「ホント、泣かせてくれます。少し前まで人見知りしてるような子だったのに、気付いたらあんなに大きい奴になってて……。」
◆
「それっきり、ずーっと家で寝っ転がってますよ。」
「ダメでしょ!?それ。勉強してるんじゃないんですか!?」
「いえ、漫画でしてますよ?」
「いや、漫画じゃできないでしょ!?」
「題材『レストランの料理で儲ける話』なんですけど……。」
「そう言う問題じゃありませんって。会社作るんじゃなかったんですか!?」
「言ってはいますが、やっぱ会社作るのは難しいでしょう。」
「父さん楽させるって話どうなるんです?孝君、大物なんですよね!?」
「もう三〇過ぎですからねぇ……。」
「そう言う意味だったんですか!?大きい奴って。」
「『会社なんてたくさんあるし、俺が会社作るのが遅れても問題ないよな』とも……。」
「家で寝てることが問題でしょ!?才能って親孝行なふりの才能ですか!?」
「でも実際そうですし、余裕もありますし……。」
「ちょっと!!アンタのそれが一番ダメなんじゃありません!?」
◆
数日後
「孝、お前に手紙が来てたぞ。」
「手紙?ん、ありがと父さん。えーっと……ああ、あれね。はいはい、OKと。」
「何だったんだ?」
「大学通ってた時にイラスト描いてたんだけど、そいつをイベントのパンフに載せていいかって。」
「イベント?出るのか?」
「パンフに絵だけ、ね。こう言う使用許可の手紙が結構来てんの。ホームページに飾るだとか、ゲームの素材にしたいってのもあったなぁ……。」
「そ、そうか。」
「そういや、商用に使いたいってのもあった。」
「しょ……商用?」
「おう!あと、自作の小説が刊行されたりもしたから、俺の作品って結構出回ってるんだぜ?」
「そうなのか。ところで、夕飯何がいい?母さんが聞いて来いってさ。」
「なら、たまにはどっか食いに行こうぜ。」
「おいおい、さすがに節制はしてくれよ……。」
「金ならいいよ。俺出すから。」
「何っ!?お前、金稼いでたのか!?」
「……だから、絵が商品になったって言っただろ?あと、原稿料とか印税も入るし。」
「だ、だけど、稼ぎは少ないんだろ?」
「えっ?今、口座に二千万くらいあるけど?」
「何ィっ!?そんな大金どこで手に入れたんだ!?」
「だから、絵の売り上げと印税だって……。」
「な、なら言葉に甘えて……いや、ダメだ。自分の稼ぎなんだから自分のことに使いなさい。」
「だけど、せっかく稼げたんだし、せめて孝行の一つさせてくれよ。」
「そ、そうか。じゃあ、家の傷んだところでも直してもらおうかな。」
「おう、任せとけ。」
「確か、風呂場にひどいところがあったはずだ。それと、コンロと換気扇がおかしい時があるって母さんが言ってたな……。」
「何なら、家ごと新調するか?」
「ぬぁぁぁにィィィーーーっ!!?」