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グリム ローディング マイセルフ

 俺の名前はローリー・グリム。

 正確にいうならば、ローリー・グリムのグリムと言うべきだろうか。

 なんとも意地の悪い名づけ方をされた物で、フルネームを名乗ると二対一体の存在である小娘と合わせてという事になる。

 そもそもグリムと言う名前が安直すぎて気に食わない。

 幼女と魔導書でロリータ&グリモワール……考えた奴は馬鹿か大馬鹿だ。

 

 さて、記憶を振り返る事にしよう。

 俺の役目は半身の記憶を書き留める事、そしてそれを忘れぬように時折思い返す事。

 半身が使った魔法の制御などと言うのは、ついでに与えられた機能に過ぎない。

 外部から記憶を、俺と言う魔導書を開いて読み解くことも可能だが、そんな事をする者ももういない。

 我が最悪の生産者、言い方を変えて生みの親と呼んでやってもいい。

 否、外部から呼称されるのであればよしとするが自ら呼ぶのは業腹だ。

 なにせ奴は俺を殺そうとした、それだけならばまだしも我らの姉に当たる個体を多数殺している。

 極めつけは我が半身を殺そうとしたことだ、俺も半身も……一つ間違えていたら間違いなく死んでいた。

 それがどうしても許せない。

 計画を立てるだけならばまだ許容できる、それが人と言う生物だ。

 阪神は感情に疎いが、反面俺と言う個体は感情を十全に備えている。

 故に、負の感情で殺意を抱くという節理を理解している。

 その感情を整理するために殺人を計画するというのも、わからないでもない。


 だが、それを実行に移した。

 その理由も怒りや恨みではない。

 興味、好奇心、そんなモノの為に俺たちは死にかけた。

 なるほど好奇心、それは我が半身が抱く最も強い感情だ。

 だから突き動かされるというのも、理解できない事ではない。

 理解できるからこそ許容できない。

 許容できないからこそ、奴を殺した。

 我が半身は自ら思うままに暴れて奴を殺したと思っているだろう。

 しかし、奴を殺したのは俺の殺意だ。

 俺の感情だ。

 あの時俺と半神は二対一体ではなく、一体となっていた。

 だから俺の感情と自分の感情の境目を理解できなかったのだろう。


 奴は半身にこういった。

 人を殺すとき、そこには感情がかかわっていると。

 ならば、普段は道具として扱われる俺が。

 感情に任せて道具のように我が半身を使ったのではないか。

 そう思うと存在しないはずの心臓が締め付けられるようだ。

 感情を知らないというのはこういう時には利点になるのだろう、と感情を持つ俺は嘆く。

 怒りや悲しみを知らなければ傷つくことはない。

 恐れが無ければおびえる事もなく。

 喜びを知らなければ落胆も知らない。

 だから赤子は成長できるのだろう。

 知らないからこそ、知りたいと願い、そして己の内に絶望を増やしていく。


 いうなれば俺と半神は赤子だ。

 産れて間もない。

 そこに差があるとするならば姿形ではなく、阪神は無知だったということだろう。

 感情を知らないからこそ絶望することなくあの日まで生きていた。

 感情を知っていた俺は絶望の渦中であがいていた。

 生きるという意思があったのかどうか、それさえも怪しい。

 ただ存在していただけではないのか。

 そんな事さえ思った。


 しかし不思議なことに、ローリーは絶望も苦痛も覚えて、それでもなお生きる意思を見せていた。

 何かと理由を付けて引きこもっていた俺とは違い、あいつは感情に流される事なく自らの意思で感情の波に乗った。

 怒りに任せるのではなく、怒りに乗じて俺を叩き起こした。

 悲しみに任せるのではなく、悲しみを込めて地面を踏みしめた。


 まったくもって、我ながらおかしな存在だと思う。

 こいつに劣っている者は何もないと驕っていた俺は、初めからあいつに勝てる者など持っていなかったと自覚を迫られた。

 しかしその事実に気が付いた時、俺はかけらも負の感情を抱かなかった。

 いや、むしろ喜んだほどだ。

 俺に手があれば拍手をして、顔があれば盛大に笑みを浮かべて祝福しただろう。

 だから、誇らしかったというべきだろうか。


 俺の半身、ローリーは俺の全てを預ける存在として、いや、俺の全てを差し出してもまだ足りないほどの。

 それほどの存在として、俺はあいつのそばにいたいと思った。


 神などいない、あの糞野郎ことドクターカリギュラがローリーに向かって発したその言葉。

 ならば俺は奴の発言に逆らうとしよう。

 俺をローリー・グリムとして誕生させてくれた神の慈悲に感謝を。

 そしてローリーに祝福あれ。

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