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 昔の夢を見た、まだ生まれて間もない僕が手探りで積み木を撫で回している夢だ。

 まるで赤子のようにと言えば語弊がある。

 外観や思考能力を除けば赤子同然だった。

 全てを手とり足とり教えてもらえるわけではない、当然ながら教育は受けることができるが、教育の外側については自分で知るしかないから。


 言葉を覚えて、人の見分け方を覚えて、してはいけない事を覚えてと学習の毎日だった。

 不思議なことに人の見分け方を覚えるまで、誰に話しかけられたのか記憶があいまいだ。

 理解していなかったから記憶にも残っていないという事なのかもしれない。

 だとしても、あまりに不気味な記憶になってしまっている。

 いうなれば人影だろうか。

 それも白い影、輪郭が毛玉のようにふわふわとしてあいまいなそれらが、高音低音入り混じった声で語り掛けてくる光景は、メアリー辺りは顔を引きつらせかねないホラーな光景だ。


「やぁ、お勉強は順調かな? 」


 そんな事を言ってくるのは、研究所の中でも少ない。

 おそらくはあの男、ドクター・カリギュラだろう。

 何度も辛酸を舐める羽目になったのもあの男のせいだ。

 そのためか、なぜかあの男に関する記憶だけは強い。

 

「ん」


 何か返事をしようと思ったわけではない。

 むしろ無視してやろうと思っていたのに、夢の中の僕はいつの間にか返事をしていた。

 そういえば、夢と言うのはいつも不思議な視点だ。

 僕自身の視点ではない、誰かの視点で僕と登場人物を眺めている。

 フラスコの中の小人をフラスコの外側から眺める様に、自分の姿をガラス一枚隔てた向こう側のような距離感で見つめている。

 それはつまり、夢に出てくる僕は僕でないという事だろうか。

 そんなどうでもいい思考が働く。


「しっかり励みたまえよ」


 いつもの飄々とした態度を見せるドクターに、やはり苛立ちを覚える。

 そしてその正体に気が付かない夢の中の自分にも、腹が立つ。

 もしこの時グリムがいたのなら何か違っていたのだろうか。

 いや、何も変わらなかっただろう。

 むしろ僕たちの処分が早まっていたかもしれない。

 研究所との決別は遅かれ早かれ、起こるべくして起こった出来事だ。

 

 そう自分に言い聞かせた瞬間、景色が切り替わった。

 山の頂から、草原と森を見つめる自分の姿。

 あぁ、覚えている。

 グリムに見せてやりたいと思っていた光景。

 研究所を壊して逃走したあの日の光景だ。

 意識はどんどんと切り替わっていき、草原で血を流しながら走る瞬間や森の中で枝葉に頬を切られながら逃げ惑う映像、そして川に投げ出され、岩や流木でしこたま身体を打ち付けた様子を見た。

 もしこれが真実なら、早々に気を失ったのは運がよかったのだろう。

 おそらく死ぬほど痛かったはずだ。

 常人なら死ぬ怪我だろうし。


 それからはメアリーと森を進んで、巨大な蛇と戦って、グリムが目を覚まして、蛇に打ち勝って、けがの治療をして、町へついて、お腹一杯ご飯を食べて、ふかふかのベッドで眠って……そして今日の僕が布団に入るところで全てが暗転した。

 僕の夢はここまで、続きはまたいつかという事だろう。

 もし、記憶の追体験が夢の形ならば次回の為にもっと面白い経験をしておこう。

 そう心に誓った。

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