ローリーの目覚め
本章、次章は現在執筆中の本編から引用、追記したものです。
番外編、後日談のためにキャラクター紹介だけでは不十分な為、掲載させていただきます。
僕の最初の記憶、それは沢山の人間が僕を見ている風景だった。
触覚を刺激しない気体のような液体、時折浮かび上がる気泡、見えない壁、それらを通して僕を見ている人間と僕は同じ形をしている。
そう気が付くまでにしばらくの時間を要した。
人間は互いの肩をたたき合ったり、口の端を上げていたり、目から水を流していたりと様々な様子を見せていた。
後に、それが喜びという感情であると知った。
知ること、それが僕に与えられた使命であり存在理由だと理解したのは自分の形を把握するよりも早かった。
「誕生日おめでとう、R17518」
一人の人間が僕に向かってそういった。
僕は、その言葉の意味が理解できなかった。
言葉を理解しているのに意味が理解できない、何かが体の中でうごめくような錯覚に襲われ身体に触れる。
その時、ようやく自分が目の前の人間と同じ形状をしていると気が付いた。
正確にいえば小柄なことなども含め細部に違いがあったが些細な事だ。
「ふむ、言葉が理解できない……いや、意味を知らないというべきか……ホムンクルスと同時に新たな問題も生まれてしまったというわけか」
その人間は何かを呟きながら他の人間に向けて言葉を発した。
「諸君、我々は今時代を動かした。だがこれは始まりに過ぎない、休む暇などないと思うように! 」
その言葉を聞いた人間たちは慌ただしく動き始め、その言葉を発した人間は僕に向かって再度言葉を発した。
「この世に神はいない……」
酷く歪んだ顔だった。
それから幾日か経過して、僕は言葉を覚え、人の判別方法を覚え、魔法を覚え、そして自分と出会った。
姿形の違うもう一人の自分、グリムと。




