出発準備
「っ……ふぅ……」
大量の荷物を詰め込み、相当な重量を誇る荷物が部屋の中央に鎮座している。
数日後この町を離れてメアリーのホームタウンへと帰等するための物資で、食料をはじめとする道具一式が詰まっている。
主に酒や本なのだが。
「ねぇローリー……本何冊か売ってこない? 」
「メアリー、お酒今のうちに飲むつもりは? 」
互いに必要なものを買うためにさまざまな手法でお金を稼ぎ、それらを全て物資と交換した結果が今の惨状である。
金銭というのは地域が変われば価値も変動するため、貴金属や宝石に変えてしまうのが一番いい。
しかしそういった貴重品は最低限の量にとどめなければ余計な税を取られることになるめ、旅の荷物になるとしても本や酒の方が扱いやすい。
ついでに換金もしやすく、旅でも役に立つという利点がある。
だからとメアリーに任せれば大量の酒を運ぶことになってしまい、僕であれば本を買い込んでしまう。
グリムは一人で出歩けないので論外だ。
結果、互いに所持金を折半して少量の物資にとどめようとしたのだが……僕たちの考えることは同じだった。
それぞれが賭けで所持金を増やし、物資の量を予定よりも多くした。
メアリーは賭場でいかさまをして大儲けしたと豪語していた。
僕は商店を巡って勝ちのある物品を安く買って高値で売りさばいた。
そして本来予定していた5倍の物資を抱え込むことになってしまい、今に至る。
「……話は平行線」
「私達は争う運命にあるのね……ローリー」
「メアリーには恩がある……でも……」
「それ以上は言わないのよ、女というのは常に出会いと別れを繰り返して生きるものなの……」
「貴様ら下らん芝居をしていないで両方売って来い! 」
せっかく盛り上がってきたところで痺れをきらせたグリムがそう叫んだ。
まったくもって僕の阪神だというのに空気が読めないやつだ。
「まったく……金銭の勝ちが不安定とはいえ無一文でどうするつもりだまぬけめ!
メアリー! 貴様酒は血がアルコールに変わるほど飲んだだろう! 断酒だ断酒!
ローリー! 貴様は人が文字に見えるほど本を読んだだろう! 断書だ断書! 」
「「そんな殺生な……」」
「やかましい! 」
手も足も出ないくせにグリムのお説教は耳に痛い。
メアリーの傷が落ち着くまで一月ほどこの町に滞在して、僕はほぼ毎日図書館に通った。
街の本屋も店員とかおなじみになるほど通ったため、手持ちの本も全て一度は目を通したことがあるものとはいえ……。
メアリーにしてもそうだ、彼女にいたっては毎日毎晩毎朝酒場に通って、この街で流通している酒の半分は飲んでいるのではないだろうかというほどだ。
ここにある酒も、おそらく彼女のお気に入りの酒だろう。
「むぅ……」
「ぐぬぬ……」
「さっさと行って来い! 」
こうなってしまえば僕もメアリーも動かざるを得ない。
もし言うことを聞かなければたびの道中グリムのお小言を延々と聞き続ける羽目になる。
それはさすがにごめんこうむりたい。
「……メアリー、着替えの中に仕込んだスキットルの中身も売ってこい。ローリーも紐解いてばらした本をなべに隠しているな」
「ぐっ、なぜばれた」
「偽装は完璧だった……」
「貴様らが裏で結託して俺に隠そうとしていたのはばれているのだ、そもそもローリーの記憶は俺と共有されるのだからばれないほうがおかしいだろう」
しまった、単純なことだったから見落としていた……。
何たる不覚……。
「……グリム、メアリーがまだ酒を隠していると思う」
「奇遇なことに俺もそう思う、だがまずは今邪魔になっているものを現金に換えてくることが先決だ! 」
「それではメアリーの一人勝ち」
「いいや、ローリー、お前の一人負けだ。正直なところメアリーが酒によって狼に食われようと知ったことではない。むしろ食われろ」
「……黙って聞いてればひどいことを言うやつだねぇ、私はローリーに恩人で師匠だってのに」
「ふんっ、ならばせいぜいまともな姿を見せてから文句を言え。昼間から飲んだくれている女を捨てた馬鹿が」
「よし、表に出な」
「でられるのなら酒と本を売って来ているわ、また酔っているのか」
ふむ、二人の言い争いはしばらく終わらないだろう。
今のうちに一冊くらい隠してもばれないはずだ。
「そしてローリー、ばれているからさっさと諦めろ」
「ぐぬぬ……」
それからは、結局余分な荷物を売りさばくのに手間取って出発が送れ、無駄な出費となったのは言うまでもない。