エルフ課長 あるこう、しらないせかい
再びまくい社を訪れた彼女
そこは水没した古代の都と化していた
会社のエントランスに到着した
いつも通り線路伝いに首都圏に来ようとしたが
所々の劣化が酷い
足元が崩れたので水没した元道路を泳ぐこととなってしまった
…この本社ビルも鉄骨も大分劣化している…
『ようこそ、マックイ社へ…!……です……現在、時刻……ュウニジ・三十分です…!…』
『追加メッセージ…記録、ここのライブラリは何時でも開かれています…此方にお越しの方は…これでいいのか?…此方にお越しの方は…地下にお下がりください』
程なく私の声がホールに響き渡る。
懐かしいな、【異変】が始まって、最初にライブラリを造ったのは。
電力を社毎に区切られ、自家発電まで使って、社長の英断だったな
人類と云う種の記憶
今では若者が図書館代わりに使用しているらしいが…
『ニジュウサンガイ… フ アデズ』
「ここのエレベーターももう潮時か」
「身体が軽くて助かった」
職場だった…階は殆ど床が抜けて、海が見える
エレベーターのフチに足を置き、えい!とエレベーターを踏み落とすと気持ちがいいくらいに綺麗に落ちて行った
さて、と意気込みを付けつつ細くなった鉄の足場を飛び渡って
やっと私のデスク前
コツコツと回収してきたが今日で最後の品だ
勿論今は田舎に暮らしているのだが、村民の仲間のたっての希望で一番動きやすい私が選ばれた、という訳だ
長年持っていたデスクの鍵を胸元から取り出すと
鍵のかかっていた引き出しからは一枚の写真
あの頃の、始まった当初の『あの』
緩い雰囲気の開会式の社員総出で私に怒られる直前だな。
回収したし、『迎え』が来る筈なんだけど…
「彼女、来れるのか?」
昨日彼氏とお熱い様子だったし…
っお~い…
お~い!
「おお、見えた!シノブちゃーん!」
「っと」シノブは窓の枠に足を着くと器用に立っている
「シノブちゃん、歳なのに昨日足腰立ってなくって大丈夫かと思ったけど…」
「べっ、別に大丈夫だ」しかし、ここも変わったな…
明らかに話題変換…
「そうだね、草が生える前は、夜でもお昼の今、海みたいに町中がきらめいていた気がするよ」
「では、部長の指定座席に着き給へー!」
シノブちゃんは着用してきたツタ製飛行用の座席紐を広げた
「そうですね、オオシロ家当主 いや、大城忍部長」
「そうだ、ココは…ここは過去の遺物」
「行きましょう」
「ああ、改めて、さよなら」息子か娘が利用するかも、だがなと言い残しワタシ達は飛んでいった
「段々フラついてきてますけど…?」
「昨日、十三人目の娘の懐妊祝いがいけなかったのか…」
「…はぁ、第四世代はお婆さんですし、今の第六世代の子供ですか?」
だって、だって。と身体をくねらせるのは良いのですが…
「何時まで経っても…乙女ですねぇ…それよりも、あそこに漁船がありますから、乗せてもらいましょう、手漕ぎですし。私がやりますから。」たぶん
揺れる、揺れる
「分かった、着陸する!」
「スミマセン、乗せてもらってもいいですか?ツレが限界なんで…!」
「ええよお!ゆ~っくりな!」
いい人だ
ゆっくりと着陸し
「手漕ぎ手伝います。漁の帰りですか?」舵を変わる
「ああ、私も漁の帰りさ~ネリマ水上バスターミナル辺りでお茶してかえろっかと思ってたんだ」
「あ、あの、ネリマまで良いですか?」
シノブ…しぐさが若い…
「うんだ、ええよお、アタシはハクチョウの亜人。オバアチャンだけどねえ~」
「あはは、見えないですね!」
「歳とっても私達亜人は姿は変わらないかあらねえ~」
それから彼女は色々と話してくれた
昔はシブヤのあたりで海女をやっていたことや
祖先はオフィスレディだとか
最近でも嬉しいのは孫の大型帆船でナルミ辺りの外洋に出てお茶を頂くのが一番の親孝行だとか
そんなこんなで大きなビルの上層部の跡こと『ネリマ水上バスターミナル』に着いた
中は整備されていて出店が並んでいる
「わ~!彼氏と来たかった!」シノブ…大騒ぎだね
「温泉饅頭を買っている暇もなければ、靴を買う暇もないからね、お金かかるし」
「は~いっ…」残念そうな顔をするな!今年でちょうど三百六十五年生…
しかしっ、私の長い耳は聞き逃さなかったっ…!
『2372年版!限定組み立て帆船!発売!』
「行く暇はないんでしょ…!」ええい!はなせい!
改め、気を取り直して
昨今の移動手段はたいてい電気動力に頼らないものだ
だが、少ない数だが、年々技術の発展と共に増えて来てはいる。
第一世代が生きている間に新たな社会を見れるかと云えばそれは疑問だ
私達の第三世代から寿命はガクンと落ち
この数十年前には第二世代もほとんどが亡くなった
バトーさんも最近は畑仕事を避けてきているが元気…なのだろう
例外は長寿の象徴であるエルフ種のみが第二世代以降も長い寿命を続けている
「また、ソレ?アンタ、『レコーダー』に吹き込むの好きねえ」
まあ、娘に伝えておくわよ
「それが切れる頃にはアンタをまくい社まで運ぶように、とね」
済まない…
「あ、ユイ。魚、亜人だ」
遠くの岩場で人魚の人が手を振っていた
あははー!と手を振り返すシノブは本当に若々しい
「お姉さんたち、ちょっといい?」同じエルフ種のヒトか
「はい?なんでしょう」シノブ、ビクビクしなくても…人見知りは治らないか…
「ちょっとこのカメラの撮り方を教えて欲しいんだ」
「おお、サキ社製ですか!」
「そうなんだよ!判るヒトは判るんだなあ!」コイツ!第二世代かっ!
「まず、脳波デバイスが…」と
それからその人と会話に熱中してしまった
仲良くなったお礼に家にあるカメラのフィルムまでもらっちゃったよ!
…
『間もなくオクニッコー…』とアナウンスの降り口のナガノケンザカイまで近い
「シノブ…って寝てる…」弁当まで…ちゃっかりしてるなあ
「そろそろ降りるよー!」
「うわっ!アイ?」
「また、娘さんの名前が出てましたよ…」
「…ごめん」
愛、『大城愛』。彼女の【異変】前の娘、ヒューマンの女性だ
最近になって寝ぼけて彼女は【過去】を思い返すことが多い
「山が見えてきましたよー!」
ハコネあたりは見えてくるのだ
乗員がおお、と沸く
「おお、バトーも降り口で待っていることだし、用意をしなきゃ」
「ですね」
湖のほとりのバトーさんの建造したバス停の港で帆船バスは止まった
「はい、3200円お預かり…」
去っていくバスを見送り
降り立つと
「お~い!まくい社はどうだった?」バトーさんが山の坂から降りてきた
「バトーさん、変わらず、アーカイブのアカウントも順調に増えてきていましたよ」
バトーさんは腰に手を当て、全く、無茶な若者が多いようだ。と喜んでいた
「ああ、写真は?」
「持ってます」
なら、と社長は何かを手で合図した
『サクラ!誕生日おめでと~う!』
木陰から社員一同で迎えてくれた…
「ありがとう…!」
「さ、村に帰ろう。今日は鶏料理に牛肉だ、大奮発だぞ~!」
『ハナコおぉ~ぉ!!』タカオさんがと叫んでいるが他のヒトがフォローしているので大丈夫だろう…多分
「おっと、電池が切れそうだ…」
…笑いあう人たち
この笑顔や悲しみの裏があってこそ記録を続ける
これが終わっても、どのような媒体でも私はこれからも綴っていくだろう
人類の記録を
一旦この話は落ち着きます
次の番外編が最終話となる予定です
他の話として違う世界の亜人系の話を載せるかもしれません
閲覧ありがとうございました




