魚介系女子! うみへのみち 前編
困難なのはなにもエルフ課長だけではないのです…
この作品は一応。様々なパートに分かれています
という訳で海洋編始まりました
このご時世…姿が変わる前にバイトをクビになった
家出してきた身の上なので家族には頼れないし…
最近食費がかさむ
と、サイの女性である大家の大野さんが語っていた
このアパートを引き払うつもりなので
お世話になったお礼にキャベツ四玉を送った
とぼとぼと行く当てのない散歩を続けていると河川のあたりで人だかりができていた
何かと見てみると
小さな女の子が子犬を抱えて先日降り経った雨の影響か
ごうごう、と轟鳴り響く濁流の中の中州に取り残されているではないか
此処に居るのは陸上種のヒトたちだけなので消防に連絡していても
このままでは激しい河の流れに飲み込まれてしまう
どうすればいい…
「魚類の…とにかく泳げる人は居ないか!?」
「私が行こう…」
言い出したそいつは…
そいつは顔つきは変わっていたが覚えている
昔中学、高校と競い合ってきた相手だからだ
ライバル…そんな関係だったかもしれない…
アイツは元々スポーツ推薦で入った俺とは違い
一般入試だった
まあ、いろいろあって今は幸せに暮らしているのだろう。そんなアイツが危険に身を乗り出す
誰か止めに入れ…という白々しい空気に耐えきれず…ああ、そんな空気に耐えきれずだ
彼女は川辺のコンクリートで戸惑っている
しかし、偶々ここにイルカの人魚が居るのだ…
シャチの人魚には出せない身軽さで…
海洋哺乳類でも死ぬような石や木片、プラスチックに鉄が含まれる強い流れの中でさえ…
中でさえ
身を投げ出せる…
一番身軽な俺が
飛び出してゆくと周りも自身も『あ』という間もなく茶色の河に飛び込んだ
身が軽い、体は勝手に動いてくれる
尾びれがとても自然になじんで…もともとこうだったんじゃないか、と錯覚する
この通り、流れてきた巨木の下をさらに潜る。あっという間に中州にたどり着いた
「…助けて」
この子自身も犬系の子のようだ、まだ幼い
「うん、助けに来たよ。上半身に確り掴まってね」
「ありがとう…!」
…革ジャンの上着に掴まらせながら上半身を浮かしながら泳いで行く
もうすぐで切り立ったコンクリートの川岸に着く
そこで木の破片が勢いよく腹に切り傷を作った
「ぐッ、頼んだ…っ!」
この子を腕で投げ出し、尻もちをついたようだが大丈夫かと安心したところで
革ジャンが引っかかり河に引き摺られ
下流へと投げ出される
オレは混乱し、視界も狭まり上も下も判らない状況だ
打撲に切り傷が増えて行く。
一般人だったら死んでいただろう
水の中で呟いた…
「不思議と怖くない…」
目を瞑ろうとした
すると、音波を感じた
目の前に私を抱き上げる彼女が居た
「馬鹿っ!」
濁った水の中でも判る。変わらない。
綺麗な蒼い目
ぐん。と加速を感じ
陸上へと
「こっちです!」
俺は彼女に助け出された
「今度は、守って見せる…」
俺は死に態で呟いた
「おまえ、ソッチの趣味でもあるのか…?」
彼女は処置をしながら俯いた
「ばーか」
そのまま、そっぽを向き
「貴重なライバルの復活だぞっ!相棒…!」
そうだ、チーム戦では…こいつとアンカーを組んでいたんだったな…
逆にこっちが恥ずかしくて顔を赤くした
「ありがとよ…相棒…」
場所は変わって
高級そうな真っ赤な絨緞に
センスのいい花柄の大きい陶器の花瓶
黒を基調とした高級感あふれる壁紙
オレが座っているのはトリプルベッドのレースのカーテンのお姫様ベッド
視界からお高そうな印象を与える。
病室だった
「…どうも、お嬢様を助けて頂き、ありがとうございます」
「い、いえ」
「私は秘書官の讃岐と言う者です」
「ああ、この病室の手配は貴女はお気になさるかもしれないですけれど、私と彼女の折半という事に為っております」
「彼女とは…?」
「彼女はご友人のシャチの人魚の彼女です。彼女もご令嬢だったようで」
オレが二の次を言う前に彼女は口を出す
「ご安心を、彼女達は軽傷で済んでいます」
「それよりも、貴女です」
「ええっと…何か?」
彼女はズイと無表情を迫ってくる
「新しく病院が始まって以来の大けがですよ」
「うちの子が夜泣きをし始めて、この様子だと会わせるとさらに落ち込みそうです…」
「あの、先程から…話が見えない…というか」
「ああ、失礼」
「総理大臣の秘書官を務めております『讃岐 樹希』と申します」
流石に目が白黒の状態だがさらに迫ってくる
「今の状況は極秘事項ですが、彼女の精神状態は以前ほど芳しくなく、殆どお世話していますが…要約すると子供っぽく…少年の心を思い出したというか…」
「最近、というか顔を見せなくなったのはそういうことでしたか」
「そう、そして下町で会話して仲良くなったあの子犬を助けようとして…橋から…というなんとも間の抜けた話です…」
「このような状況なので。お手数ですが、手紙を書いていただきたいのです」
「分かりました」
…
「これは…はい、これで大丈夫だと思います…」
手紙の内容に驚いたようだが肯いてくれた
「この度はご迷惑をお掛け致しました!」
彼女は頭を下げると入れ替わりに看護婦が入ってきた
…
一週間で上半身のけがは完治し、退院の日となった
「退院おめでとう!」
「退院というか…あはは」
尾びれやつるつるした部分の皮膚の方は精密検査として海洋大学の方に引き取られる事、となった
「先生も癖治るといいですね!」
「まったく、一言多いよ!」
二人して笑った
「また怪我しないように!とぐろをまいて待ってるよ!」
仲良くなった先生は下半身を蛇の胴となっていた
「イヤ、怪我しないように来るな。が基本じゃないですか?」
「だーいじょうぶ、怪我しない人間なんて居ない…!そして私に処置される人間も!」
「大丈夫かね…うん、それじゃあ」
「おお、ほんとに来た」
彼女の前に屋根付きのプール型の水を張ったトラックが玄関ホールに止まった
「宮之さんですね?」
「はい」
「海洋大学の者です。こちらの階段から乗り込んでもらっても?」
「はい分かりました」
トラックの横からタラップを出すと歩いて
「水着着用ってこれの事だったのか」
「はい、ある程度浅くなっていますので」
「上から顔を出してもらっても構いませんよ屋根が付いているので」
足元から浸かると少し冷たいが、直ぐに慣れるだろう
「温度は此方で調整できます」
「おうっ!私も魚類だったらなあ…!」
「はは、では患者さんを引き取らせていただきます」
「おう、サインは…十分だし…」
先生は良い笑顔で送り出してくれた
「行ってこい!時々連絡送ってねー!」
車が走り出す
「ともだーち!きみしかー!いないんだからさー!」
「ありがとう!せーんせー!」
プールの中から手を振った
高い位置見ている景色は走り出し
時折、水槽から降りてトイレや飲み物の差し入れ等の休憩を挿みつつ
都内から少し遠い県の水族館に到着しようというときには夕暮れだった
「本当に水族館に行くんだ…」
人生で小さい頃に行った以来ではないかと
「裏の搬入口に回ってください」
タラップを降り、搬入口の階段を上がってゆく
それから入り組んだ通路を通り
職員用のエレベーターに乗り
目の前には大きな水槽が見えた
職員さんが言うには
「あれは大分治ってからですね」とのことで
天井につり下がっている通路を歩いてゆくと、様々な水槽が下に見えそこには様々な種類の人魚も居るようで疑似的な岩場で腰かけて手を振ってくれる人も居た
つり天井から降り、再び通路を通っていくと反円状のイルカステージのショースペースに出た
思わず半目になって彼女を見ると
「ああ、大丈夫です。ここはもう営業していません、そのようなことは有り得ないので」
「此方のプールから向こうのプールまで泳いでもらってそこが今夜の睡眠スペースとなります」
「プールの中で…ですか?」
「一応行ってもらえればわかります」
「…分かりました」
尻尾を浸すと傷口が痛むが真水なのだろうか
やさしく尾びれを振るとぐん、と進んで行き
曲がり角のカーブも難なく水面に顔を出す
「ゲートを開きます」
「ゲートの向こうは温水となっています、何か御用がありましたら、明日の9時には迎えに参りますのでご自由に」
それとこれを、と渡されたのはコールスイッチと毛布だった
「それは水にぬれない加工をしてあるので大丈夫です」
「はい、分かりました…ありがとうございました」
では。と彼女は帰って行った
ゲートが開き、中に嘆息しつつ入って行き
目の前に広がるのは円形のプールだった
数人の人魚が入っていたのは驚きだったが私を見ると普段通りの行動に入った
美人だらけで緊張するがゲートは閉じられたのだ…
水族館での夜が始まった…
昔、水族館に行って
膨らませた想像に基づいています
閲覧有難うございました




