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19話

「…君は何を言ってるのかな?」


エリル様が頭を押さえつつ、ティーラを見る。

視線を向けられたティーラはそれは嬉しそうに言い放った。


「だって、この一週間シャルロット様ってば茶会だの訓練だの勉強だの全然婚約者っぽくないんですもん。もっといちゃいちゃするもんじゃないんですか!」

「……おい、こいつは一体何を言ってるんだ?」

「…私にもわかりません」


婚約者っぽくないと言われても、エリーゼのときからそう変わったことはしていない。

…もともと、政略結婚だった私たち。わざわざ愛を育むといったことをするような時間は与えられず、特に次期王として多忙な皇太子様にそんな余裕はなかった。


「とにかく!今からデートに行きましょう!さぁれっつごー!」

「その心は?」

「皇太子様とシャルロット様がデートに行けば当然エリル様も護衛としてついて行かれますし、私もシャルロット様の護衛としてご一緒しなければなりませんから、これはもうダブルデートということでしょう!」

「「………」」


開いた口がふさがらない。

というか、だ。


「あの…エリル様とティーラの関係は…」

「主と騎士だよ」

「未来の夫と妻です!」

「はぁ………」


これは、どう言えばいいのだろうか。

そもそも、以前に皇太子様がエリル様は婚姻されてないとおっしゃっていたし。

…いや、それはともかくとして。


(デート……かぁ)


興味が無いかといえばもちろん嘘だ。

好き合う男女が二人きりで様々な場所に出掛け、お互いに新たな一面を見つけながら仲を深めていく。

皇太子様と二人きりになるのはほとんどなく、夜会やパーティーでの休憩などわずかな時間程度。

まして、二人だけでどこかに出掛けるなど警備の面で到底許されない。

だから……デートなど、できるわけがない。


「…エリーゼ」


ふと見れば、皇太子様がこちらを見ている。

その瞳は、何かを探るようで…


「なんでしょうか…?」

「………行こうか」

「えっ?」

「デートに……行こう」


そう言って、手を差し伸べてくる。

行こう?デートに?

……願ってもない誘い。

応じないという答えはない。

けれど……


「…ですが、皇太子様は執務があります。そのようなこと…」


皇太子として、次期王として、多忙な方だ。

こうしてわざわざ屋敷を訪ねるのでさえ、移動と言う無駄な時間を浪費している。

その貴重な時間を、これ以上浪費させてはいけない。

…いずれ、王妃となるなら、優先すべきは己ではなく、国家。

だから……………断らなければならない。


「行こうか、デート」

「へっ?」


エリル様はそう言うと、ティーラの手を取った。

取られたティーラのほうは、いきなりのエリル様の態度に困惑している。


「さぁ二人とも準備して。あ、ティーラは着替えてきていいよ」

「ほんとですか!?勝負服でおっけーですね!?」

「騎士服がいいのかな?」

「ふっつーのに着替えてきます!」


そう言うとティーラはさっさと部屋を出て行った。


「エリーゼ嬢も着替えておいでよ」

「で、ですが……」


皇太子様はもちろん、エリル様だって多忙のはずだ。

だから、そんなデートなんて……


すると、皇太子様は膝の上に置いた私の手を強引にとり、強引に立ち上がらせられてしまった。


「きゃっ」

「……俺とのデートは、嫌か?」


まっすぐに、こちらの瞳を見据えてくる。

その瞳に、隠していた本音が吐露されてしまう。


「嫌なわけ……ありません。いきたい…です」

「なら、着替えてくるんだ。待ってるからな」

「……はい」




市街地へと足を運べば、変わらず人で溢れていた。

そんな中を、皇太子様と二人、肩を並べて歩く。

その私達の少し後ろをエリル様とティーラがついてきている。


「賑わっているな」

「はい。皆、楽しそうです」


何の当所も無く、二人で歩く。

そんな、なんでもないことなのにとても心が躍る。

すると、手を握られる感触に気付き、視線を落とせば皇太子様の手が私の手を握っていた。


「デート中の恋人はこうするものと聞いた……どうだ?」


窺う視線に、手から伝わる皇太子様の体温。

ダンスのときに手を繋がれるのとは違う、パートナーとしてではなく、恋人としての繋ぎ。


「とても、嬉しいです」


応えるように笑顔を向け、私からも握り返す。

私の答えに皇太子様も笑みを返し、私のペースに合わせて歩いてくれる。


「…見ました、エリル様?あれが愛する恋人同士の姿です。私達もやりましょう!」

「剣が握れなくなるからダーメ」

「そんな~……」



ふと気付けば、あのガーネットのネックレスを売っていた露天商の近くまで来ていた。


(また、何かあるかしら)


首元にぶら下がるガーネットのネックレス。皇太子様の首にもあり、今は太陽の下にあるため分かりづらいが、かすかな光を放っている。


「あの、皇太子様」

「どうした?」

「少し寄りたいお店がありまして…」

「ほう、どの店だ?」

「あちらの店です」


指差した先にある店の存在に、皇太子様の目が丸くなる。


「…意外だな。君はあまり装飾品を好まないと思ったが」


指輪やネックレスなど、確かにあまり私は身に着けていない。

その理由の大半は皇太子様とのダンスにあるわけだけど。

とはいえ、あの露天商なら話は別。


「このネックレスを購入したのが、あの店なんです」

「…白魔術をかけた装飾品を売る店か。面白そうだな」


露天商の前まで来ると、挨拶を交わす。


「こんにちは。お久しぶりです」

「……あの時のか。今日は男連れか……ほう」


店主が皇太子様を見て、その首元に下がったネックレスに気付く。

続いて私の首もとにもネックレスが下がっているのに気付き、その口元を少しだけ嬉しうにゆがめた。


「…まさか、そのネックレスを付けたカップルが現れるとはな」


その言葉に首を傾げてしまう。

対となるように割れたガーネット、想い合うことで発動する白魔術。

むしろカップルのためのネックレスなのではないか。

そんな私の様子に、さらに店主は愉快そうに声を上げた。


「そのネックレスはなぁ…いや、白魔術の方か。想い合えば発動するが、想い合わなければ発動しない。それで付けたカップル共が、どんどん別れていったんだよ。発動できないのは愛してくれてないってな。知ってる連中は、『破局のネックレス』なんて呼んでやがるぜ」

「っ!?」


破局のネックレス。

なんと不穏な呼び名だろう。

しかし……


「面白い呼び名だな。だが、まるで俺達には当てはまらない」


そう言いつつ、皇太子様がネックレスのガーネットをさする。

今も淡く光るそれは、今この瞬間も想い合っている証拠だ。


「…ああ。あんたらのそれは、まさに理想の姿だ。俺は……それが見たかった」


店主が空を仰ぐ。

本当は、想い合う二人が仲睦まじくいる姿を思って作ったのだろう。

だが、現実はそうはならなかった。

ネックレスにより別れ、望まぬ名が付いた。

結びつきの証となるはずが、解けるきっかけとなった。


「……なぁ、今あんたらが付けているネックレス、少し俺に預けてくれないか?」

「何?」

「数分で終る。あんたらのために付けたい白魔術がある」

「……どうしましょう?」


皇太子様に問いかける。

少なくとも、今ネックレスに付いている白魔術は私達にとって良い効果となっている。

それを踏まえれば新たに付けてくれる白魔術も、決して悪くは無いはずだ。


「俺達のために、というお前の言葉を信じよう。いいか?」

「はい、わかりました」


ネックレスを外し、店主へと渡す。


「数分で終る。その間、適当に見ててくれ。気に入ったのがあれば、そのままやる」

「あの、代金は…?」

「今の俺は気分がいい。いらん」


確かに以前よりも口数が多い。

気分がいい、というのも本当なのだろう。

店主はネックレスを手に近くの建物に入っていった。


「店主の厚意だ。受け取っておこう」

「はい」



しばらくして店主が戻ってきた。

その手にはもちろんネックレス。


「できた。受け取りな」

「ああ」

「はい」


店主の手からネックレスを受け取り、付け直す。


「で、今度は何の白魔術なんだ?」

「なに、付ければほんの少し健康でいやすい、というものだ」

「健康で、か」

「いくつになっても、そのネックレスを輝かせてくれる様を見せて欲しいんだよ…」


そう言う店主の目は遠いどこかを見ているようだった。


「それにしてもずいぶんと腕のいい。どうだ、城に仕えないか?」

「…………」


皇太子様の言葉に店主は目を見開き驚いたようだが、すぐに苦笑していた。


「断る。『これ』は気ままにやりたいんでな」

「そうか、残念だ」


その後、並べられた品物を一通り見たが特にこれといったものが無く、何も受け取らなかった。

それでは気がすまなかったらしく、「じゃあカップル用に作って待ってる」と言われてしまった。


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