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15話

※1/31時点で上げたものを削除し、書き直しております

「父様!」


崩れ落ちた父様の元へ、馬車を出て近寄る。


「ぬっ……ぐっ……」

「父様!しっかり!」


かろうじて起き上がったものの、頭を押さえ、足元はふらついている。


「な、なにが…」

「おやおや、出てきてくれたね」

「!!」


知らない男の声。

そちらを見れば複数の男達。松明に照らされ、中央にいる男は服装からして貴族のようだ。


「何者ですか!」

「何者…か。ひどいね、僕は君を忘れたことはなかったのに…」

「何ですって…」


男の顔を見ても記憶にはない。

それよりこの状況だ。

おそらく父様は頭を何かで殴打された。

ちらと後ろを見れば、馬車を牽引していた馬はおらず、御者も倒れ伏していた。


「貴様…ら、何が目的だ…」


父様が、私をかばうように立ち上がる。


「父様!無理をしては…」

「何が目的…?聞かなくてもわかるだろう。後ろの、シャルロット嬢だよ」

「私……?」


襲った理由が私?

思い返してもこんなことをされるほどの恨みを買った覚えはない。


(いや……『エリーゼ』なら私に……)


だけど、それにしては早すぎる。

婚約者として決まったのはつい先ほど。それがロトール家屋敷に伝わって、それで動いたとしてはあまりにも早すぎる。


「まぁいい、後でたっぷりと思い出させてあげる。さ、こっちにきな」

「誰があなたのもとなんかに!」

「こないなら……父君はどうなってもいいのかな?」

「っ!卑怯者!」


武器を構えた男達が私達を囲い込む。

対してこちらは、父様は既に負傷してるし武器なんてない。私も、この場を切り抜ける武力は持ち合わせていない。


「行く必要はない……シャルロット」

「……ですが……」

「ああもう、まだるっこしいな。いいや、父君は始末しろ」

「はっ」


指示を受けた男達が徐々に包囲を狭くしてくる。

どうする?どうすればいい?

逃げる?いや無理だ。既にダンスで疲弊した身体。ましてドレス姿じゃ、まともに走れない。それに、父様を置いてなんかいけない!


「父様……」


身体が震える。知らず、父様のスーツの裾を握っていた。

そんな私の頭をポンと父様は叩いた。


「大丈夫……私が…守るから」


そう言ってくれた父様だが、頭から流れる血が、顔を赤く染めていく。


どうしようもない。


諦めかけたその時、突如として馬の駆ける音、馬車の走る音が聞こえてきた。


瞬く間に音は大きくなり、あっという間にその姿を現した。

警護と思われる馬車を囲む屈強な騎兵たち。その兵たちに守られた馬車は、伯爵家である私達が乗ってきた馬車もはるかに豪華で、それでいて堅牢。

その馬車の様相は見覚えがあるもので……つけられた家紋。

それは、ロトール家のもの。


「貴様ら!これは一体何事だ!」


馬車を降り、姿を現したのは、ロトール家当主……父上。


「チッ!」


男達は不利と判断したのか、松明を投げ捨て闇へと消えた。


「追いますか?」


騎兵の一人が父上に問いかける。

それに父上は首を横に振った。


「無駄だ、この闇では逃げられるだけだ。それより…」


父上がこちらを向く。

同時に、父様の脚が崩れ、倒れそうになる。


「っ!父様!」

「…はぁ、はぁ……」


息が荒い。

べったりと流れ出た血がスーツまで染めている。


(このままじゃ父様が…!)


「トワイライ伯爵だな?」

「……はい」

「…何が起きたかいろいろ聞きたいが今は後だ。おい、二人を馬車に乗せなさい。王城へと戻るぞ。……御者もだな」

「はっ」


父上の指示の下、兵たちが父様を担ぎ上げ、馬車へと運んでいく。


「……怪我はないか?」

「…はい」


父上の問いに答える。

そのまま、言葉無く馬車に乗り込み、馬車は王城へと向かった。

王城に着くまでの間、馬車の中は沈黙が支配していた。




王城に着くと、すぐに父様は医務室へと運ばれた。

頭を強打されたことと、大分血を流したことからしばらく静養が必要という診断だった。


「エリーゼ!無事だったか!?ぶへっ!」


応接室に案内されたところで、カイロス様が部屋に飛び込んできた。

が、すぐさまエリル様がカイロス様の頭を掴んでソファーに飛び込ませた。


「『まだ』それで呼ぶんじゃないよ、バカイロス。まったく」


エリル様が後ろ手にドアを閉める。


「し、心配だったんだからしょうがないだろう!」

「はいはい」


ソファーから起き上がり、改めてこちらを向く。


「大丈夫だったか?」

「はい……父様が、守ってくれましたので」

「そうか…」


カイロス様が優しく抱きしめてくれる。

…今、安全な場所にいる…

それをようやく実感し、気が抜けた。


「どうした?どこか痛むのか?」

「いえ……やっと、安全だと思ったら気が抜けまして…」

「…ああ、俺の腕の中なら、安全だ」


真正面から見つめてくるカイロス様。私も見返し、知らず二人の距離は縮まり…


「ウォッホン!」

「「!!」」


父上の咳払いに二人同時に離れる。


(うう…父上がいたんだった……)


「二人の世界に入るのは後にして…」

「後でも許すつもりはありませんぞ」


エリル様の言葉に父上が答える。

そう、父上は知っている。私が…『エリーゼ』であることを…


「とにかく。二人は襲われた、それは間違いないね?」

「はい…」


エリル様の問いに答える。


「それで、犯人に覚えは?」

「…わかりません。あちらは私を知っていたようなんですが…」

「……ブラスト家だ」


父上が答えた。


「よくわかりましたね」

「あそこの三男坊だ。夜会によく出るやつだから覚えている。……色々と噂が絶えない奴だ」

「ああ~…あいつですか。ええ、女遊びが激しいやつですね」


エリル様も覚えがあるらしい。

私とカイロス様にはピンと来ず、互いに首をかしげた。


「まぁいろいろ面倒なやつってことだよ。…しかしなんでまたシャルロット嬢を…」

「知らん。が……」


父上が、私を見る。


「娘に手を出した。……それだけで充分だ」


父上の手が固く握り締められ、その眼が鋭くなる。

…本気で怒っている。


「ん~……ロトール公爵家に動かれるのはまだまずいんですよね。現状、トワイライ伯爵家とロトール公爵家はつながりが無いんで。だから、シャルロット嬢のことでロトール家が動くと不自然になる」

「む、それは……」

「それに、『エリーゼ』のおかげでロトール家はトワイライ家に対して接触禁止を出しました。それがあったのに今そんな動きをしては、『エリーゼ』にばれます。彼女に知られると計画がパーですんで」

「………」


確かにエリル様の言うとおりだ。

元々友好ではない、まして接触禁止を出していたほど不仲だと思われていたのに、その相手方の令嬢のことで動いては、何かがあると言っているようなものだ。


「とりあえずブラスト家については僕が仕掛けますよ。それでいいですか?」

「…貴方が動くのなら、それでよかろう」


エリル様が動くのなら、一安心だろう。

しかし……


「あ…の………」


父上を見て、そしてエリル様を見る。

エリル様は察してくれたのか、うなずいてくれた。


「ち…父上……」

「…なんだ、エリーゼ」

「……何故、父上は今日、あの場所に…?」


襲われていたところに駆けつけてくれた父上。

だが、ロトール家の領地はこちらの方向ではないし、来る理由は無いはず。

何故あの場に来たのか…


「…エリーゼに会いたかった。まだ、公の場では会えないのでな」

「そうだったんですか…」


その言葉に嬉しくなる。

姿かたちが変わっても、娘として接してくれる父上に。


「本当はもっとゆっくり帰ると思っていたのだがな。聞けばもう王城を出たと言われ、急いで追ったわ」

「…急いで帰るように言ったのは俺だ。俺が…エリーゼを危険な目に…」

「そんなことはありません!私が…昔ほどの体力があれば、あんなに疲れることも…」


今もって、私には『エリーゼ』の頃の体力は無い。

帰りの馬車でうたた寝をしたことなどないのだから。


「とにかく!今日はもう帰るのは危ないし、エリーゼ嬢には王城に泊まってもらおう。それでいいね?」

「はい、父様を置いてもいけませんし」


『父様』の言葉に父上の表情が変わる。


「ロトール公爵、トワイライ伯爵はその身を挺してエリーゼを守ってくれた。本人にとっては罪滅ぼしもあるんだろうが、今はそれに免じて許してやってくれないか?」

「…わかっております。そこで無様に寝姿を晒すようであれば、私は絶対にやつを許しはしないでしょうな」

「父上……」


この事態を招いた娘の父親。

それを私が『父』と呼ぶ。

父上の心境は、かなり複雑なのだろう。


「…まぁそこまでが譲歩かな。エリーゼ嬢はもう休んだほうがいい。ただでさえ疲れてるんだからね。ロトール公爵は?」

「私も休ませて貰おう。警護の兵もな」

「じゃあ今日はこれで解散しよう。じゃあまた明日」


そう言うと早々とエリル様は部屋を出て行った。

次いで父上も立ち上がる。


「では私もこれで失礼する。……ほどほどにな」


そう言って部屋を出て行く。


(ほどほどにって……)


部屋を出て行った父上の背中を見送ると、またカイロス様が抱きしめてくれる。


「……今ほど、君を離したくないと思ったことはない」

「…ダメですよ」


まだ、私は婚約者。

それ以上の、誤解を生むような事態は避けなくてはならない。

視線を落とせば、胸元のガーネットが輝きを帯び始める。


「カイロス様……」


そっと口付けを交わし、抱擁から逃れるように立ち上がる。

カイロス様も立ち上がり、二人でドアへと向かう。

胸元のガーネットを服越しに握り締めながら外へと出る。


「じゃあ、おやすみ、シャルロット」

「はい、おやすみなさいませ、皇太子様」



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