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13話

突然のエリル様の言葉にぽかーんとしてしまう。

謝罪?私が?皇太子様に?何故に?

いや確かに前回の仮面舞踏会でそんな話はした。

けど、それはもう必要ないということになったはず。


「それは、一体どういうことで…」

「お・ま・え・は言葉が足りん!」

「あいたたた!分かってる!分かってるよ!」


エリル様がカイロス様にヘッドロックされてる。

…たまに見ていた光景だ。


「ふー……まず、なんだけど。とりあえずカイロスと偽エリーゼの婚約解消をすることを決めたんだ。これは陛下はもちろん、ロトール公爵も、今のエリーゼが偽者であることを伝えたうえでね」

「父上も……信じたんですね」

「信じた…というよりは、そうであってほしかった、という感じかな。僕らでさえ驚くほどの変化だったわけだし、一番近くで見ていた公爵がそれを疑問に思わないわけがない」

「だが、ロトール公爵ほどでも、黒魔術のことを知っているわけではない。まさか黒魔術によるもの、とは思わなかったそうだな」


(父上ですら知らされていないほど…なんだ)


改めて、先日聞かされた内容がどれだけ機密情報として扱われていたかを思い知る。


「で、婚約破棄発表後、次にカイロスの婚約者探しと銘打ってパーティーを開くことにしたんだ。年頃の令嬢を集めてね」

「えっ?それは……」

「大丈夫だエリーゼ。あくまでも建前上だ」

「建前…ですか?」

「そっ。このパーティーで、まぁ最終的にはエリーゼ嬢を婚約者として認めることにする。そのパーティーが始まる前にカイロスに謝罪をしてほしいんだ」

「それって…」


始めに考えていた私の計画。


「そう、この時点ではまだキミには『シャルロット』でいてもらう。で、シャルロットでは禁止令が出されているわけだから、それを解くことにする。そうしたらその後のパーティーでカイロスを骨抜きにしても何してもいいから婚約者になっちゃって」

「骨抜き……」

「うん、前と比べてずいぶん豊かになったその胸を使ってへぶ!」

「何を言ってるんだお前は!」


結構な勢いでエリル様の顔面をテーブルに叩き付けたカイロス様。

その視線がちらりと私の……胸のあたりを横切った。

知らず胸を腕で覆ってしまう。


「つ~……とにかく。そこでキミを婚約者にするとカイロスが発表する。そこでパーティーは一旦締め括られる。で、ここからが本題だ」

「はい」

「何故そこでキミを皇太子の婚約者にするか。それは、偽エリーゼを動かすためだ。共犯者に接触させるために」

「…?何故それで偽エリーゼが動くと?」


すでに婚約が破棄されたのならエリーゼはもう関係ない。


「ここは僕の推論だけど、おそらく偽エリーゼは共犯者に黒魔術を使うことでカイロスの嫁になれると唆された。結果的にはその一歩手前までいったけど叶わなかった。となれば、もう一度共犯者に接触しようとするはずだ」

「接触……するでしょうか」

「おそらく、する。なんせ嫁になれなかったんだ。黒魔術まで使ったのになれなかった程度で諦めるとは思えない。まだ何かしようとするはずだ」

「けれど、もう黒魔術はもう使えないんですよね?」


一度黒魔術を使った以上、二度目は無い。


「別に自分が使える必要は無いんだ。その辺の一般人でも、使えさせることはできるからね。とはいえ、そこに至ることだけは避けたい。その前に確保するよ。それに…」

「それに……?」

「あの手紙にもあったように、偽エリーゼはシャルロット嬢がエリーゼ嬢であることを知っている。そのシャルロット嬢が再び婚約した、と知ったら?『無様に生きなさい』と言った相手に奪われたんだ。彼女のちっぽけなプライドはズタズタだろうね。だからこそ、彼女は動く」

「俺とエリーゼの婚約の件はロトール公爵から伝えてもらうことにしてある。偽エリーゼは、パーティーに来ないしな」

「それは……そうですね」

「別の手を使う可能性も低くは無いけど、そもそも彼女は元からの引き篭もり。こういうことを相談できる相手なんてほぼいないんだ。そのできる相手では、共犯者にもう一度頼む可能性が一番高いのは間違いない」


流れをまとめれば、こうだ。

①皇太子様と偽エリーゼが婚約解消を行う

②婚約者探しのパーティーを開催し、私と皇太子様が婚約を行う

③婚約の件を偽エリーゼに流し、あえて泳がせて共犯者と接触するのを待ち、捕らえる


「そこまでいけば、あとは正式にキミが『エリーゼ』であることを公表し、本来の婚約者になる」


それが、問題解決のシナリオ。

けれど…


「あの、皇太子様はこの件で何か気にいらないことでも?」


そう、話をする少し前に皇太子様は渋い顔をしていた。

けれど、このシナリオの中に私が何か危険な目に合うようなことは無いと思える。


「もう私に黒魔術は効きませんし、危害を加えられることは無いのでは?」

「あえて挙げるとすると、偽エリーゼが直接危害を加えようとするリスクかな。入れ替わってもカイロスの婚約者になるのなら、直接この世から排除しよう、とかね」

「あ……」

「だから、婚約の件を伝えたと同時にキミも警護を付けることになるよ」

「……わかりました」



「さて、こんなところかな。何か質問はあるかい?」

「いえ、特には」

「そっか。じゃあ次に会えるのは次の仮面舞踏会かな。その前に婚約破棄してるかもしれないけどね」

「とっとと婚約破棄したいもんだ。まったく…婚前に黒魔術を使われるなんてな」

「こればっかりはねぇ……婚姻後だったら問題なかったのに」

「婚姻後なら問題ない、とは?」

「ああ、それはね。本当は婚姻後には君に黒魔術を受けてもらう予定だったんだ」

「えっ?」


黒魔術を受けてもらう予定だった?

何故?何のために?


「黒魔術はね、昔には国家転覆、王家崩壊に使われることもあるほどに危険な代物なんだ。そんなのがあるのに、今の王族が何の対策もしてないわけないでしょ」

「そうなんですか…」


確かに考えればそう。だけど…


「王族の場合はね、幼少期に黒魔術を掛けてもらうことで二度目を防ぐんだ。もちろんこのとき掛けて貰う黒魔術は、風邪を引く程度だけどね」

「えっ!そんなこともできるんですか?」


私が体験した黒魔術は、魂の入れ替え。一方で、風邪を引くだけとか。

そのあまりの違いに驚いてしまう。


「黒魔術はその起こせる現象は様々で、とんでもないことから些細なことまで幅広いんだ。ただし、どんな現象でも黒魔術は黒魔術。王族にはもう二度と黒魔術は効かないんだ」

「俺ももちろん受けている。もっとも、あまりに小さいころの話だから自覚は無いんだけどな」


王族はあらかじめ黒魔術を受けることで効かないようにしている。

それもまた驚きだけど…


「…何故、王族は受ける側なんですか?使っても効かなくなるなら、使う側になるのでは…」

「それも理由があって、なるべく早い段階で耐性をつけてもらいたいんだ。だから幼少期の頃にはかけておきたいんだけど、黒魔術は掛ける側の能力が重要なんだ。子供が黒魔術をかけるのは受ける側にリスクが高すぎる」

「なるほど。………ちょっと待ってください。王家に、誰が黒魔術をかけているんですか?」


さらっと言われたけど、黒魔術をかけている側が存在するということ。

それも王家が認めている人物が。


「ああ。王家には黒魔術を専門に担う一族がいる。もちろん表には一切公表してないがな。その一族を管理しているのもエリルだ」

「えっ?!」

「なんで僕がそこまで黒魔術に詳しいと思ったことはない?そういうことなんだよ。とはいえ、本当は婚姻後にはキミにもここまでのことは全て話す予定だったよ。ずいぶんと前倒ししちゃったけどね」

「そう、なんですか……」


そこまで聞き、まさかという考えが思い浮かぶ。

窺うようにエリル様を見れば、項垂れるように息を吐いた。


「はい、エリーゼ嬢の思うとおり。今回の一件、その管理されてる一族の誰かが関与してるんじゃないかってことでしょ?」

「………はい」


公爵家の当主ですら知らない黒魔術の中身。

それを公然と知っている一族がいるなら疑わざるを得ない。


「……数年前にね、逃亡者が一人いるんだ。彼はね、黒魔術に無限の可能性を信じて、もっと実験を行うべきだ主張と。でも、黒魔術は一人一回、一対一。そもそもその一族も、王族に掛けるためにその一回をとっておく必要があるから、無駄は出来ない。かといって、一般市民を実験に使えばどこでどう広がるか分からないし、起こす現象によっては掛けられた側はどうなるかわからない。だから彼の考えは却下された」


確かにそうだ。

今回の私のように、身体を入れ替えられ、挙句戻せない。

こんなことを平然と行われたのではたまったもんじゃない。


「そうしたら逃げられてね。今もって捜索を続けてるんだけど、なかなか尻尾を現さない。彼なら、自身の主張を却下されたことから、王族に恨みを持っていてもおかしくないし」

「…………」




エリル様が退席し、室内に残ったのは私とカイロス様だけ。

その場に残る空気は重い。

もしかしたら、今回の一件は王族に原因があるのかもしれない。

それが、この場の空気を重くし、既に始まっているダンスタイムへの脚を動かなくさせていた。


「エリーゼ……」


カイロス様が口を開く。

だけど、その語りは鈍い。


「…全て終われば、話すつもりでいた。もしかしたら、今回の一件の共犯者とは全く別の人物が関わっているのかもしれない。そう願ってもいた」

「…………」

「それは、まだわからない。けれど、そうだったとしても、そうでなかったとしても、君が狙われたという事実は変わらない。それは……これからも、あるかもしれない…それを君に話さなければ、このまま君と愛したままでいられる、と。卑怯なんだ、俺は」


カイロス様の両手が合わさり、強く握り締められる。

顔はうつむき、表情は見えない。


「ただの外部犯。誰も、関係ない……それで終わらせたかった。けど、君は気付いた。王族と関わったことで……この事件は起こった。黒魔術の被害を受けた。これからも……それは、あるかもしれない」

「そんな…ことは…」

「…先日の仮面舞踏会での話。あの後、思い返したんだ。何故、エリーゼがこれほどまでに大変な思いをしなければならないのだと。誰のせいなんだと………俺の、せいだ」

「!」

「……エリーゼ。君の自由にしてもらって構わない。君が望むなら俺との婚約は」


既に振り上げていた私の右手が、カイロス様の左頬を打ち払う。

弾ける音とともに、右手に痛みが残る。


(ちょっと強く叩きすぎたかもしれない…)


けれど、その先だけは絶対に言わせたくなかった。絶対に。


「ふざけないでください!私が……私が何のために今までがんばってきたと思ってるんですか!」


かつてエリーゼであったころ。皇太子の婚約者という肩書きに恥じぬよう、様々な教育を受けてきた。カイロス様が大好きなダンスで満足できるよう、パートナーとして必死にがんばってきた。

確かに一度は折れた。もう戻れない絶望に挫けた。

けれど、立ち直った。もう会うことはないと思っていたカイロス様にもう一度会えて、希望の火を灯した。

それを……また消されたくなんかない!


「エリーゼ……」


赤くなった頬を隠さずに唖然とこちらを見上げるカイロス様。

知らず毀れた涙が頬を伝う。


「あなたとともに並ぶために……あなたとともに生きたいから!」


カイロス様の胸倉を掴み、顔を寄せる。

令嬢としてありえない行為だけど、このわからず屋の皇太子様相手にはむしろ丁度いい!


「この程度がなんですか!危険がなんですか!もう決めたんです!諦めないって!」


この想いの灯火は、潰えることは無い。

私が私である限り。


「エリーゼ」


私の名を呼ぶと同時に腕が背に回され、抱きしめられる。


「ダメだな……俺は」

「ええ……ダメな人です、あなたは」

「ダメだから……ともにいてくれないか?」

「当たり前です。誰が、あなたの相手が務まると?」

「…君しかいないな、エリーゼ」


胸倉を掴んでいた手を離し、私もカイロス様の背に腕を回す。

強く抱きしめあうと、胸に硬い感触を感じる。


「…私達は、二人とで一つ、なんですよ」


それはあの割れたガーネットのネックレス。

ほのかに赤い輝きを発するそれは、二人が互いを想い合う証拠。



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