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最終話

 雪だるまは、溶けていく体の水をふいて、はりきって言います。

「それなら、春の女王様を探しにいこう。きっと見つかるよ。冬を終わらせるんだ」

 春のお姫様は、雪だるまのことを不思議そうに見ました。

「あなたは、春になってもいいの?」

 雪だるまは答えます。

「ボクは冬が一番好き」

「なら、なぜ春の女王様のことを探しにいくのかしら。このままでいいじゃない」

 雪だるまは、青ざめているトナカイを見ました。

「春になると、みんながうれしいんだ」

 春のお姫様は、まだ不思議そうでした。

「あなたは?」

 雪だるまはまるいあたまをかしげました。

「ボクは、みんなと楽しく遊びたい」

 雪だるまは、これまで遊んでくれたみんなとの思い出を語りだしました。

 幼い男の子が、まだ小さな手で雪だるまの体を作ってくれました。ころころ転がし段々と大きくなります。手がとても寒そうなのに、よく頑張ってくれました。

 女の子が、あたまを作ってくれました。とても形のいい、じまんのあたまです。

 その子らのお母さんが、雪だるまにバケツのぼうしをプレゼントしてくれました。雪だるまは、そのバケツを取ると、春のお姫様にみせて「たからものだよ」と笑いました。

 お父さんが、雪だるまにニンジンのはなをつけてくれました。こんなに高く、りっぱなおはなは、ほかにはないと思っています。

 おじいさんが、枝のうでをこしらえてくれました。自由に動かせる、よろこびはいまでも忘れることができません。

 おばあさんが寒い夜、雪だるまに手袋をつけてくれました。「温かいでしょう?」と。そんなやさしさが、雪だるまにはとてもうれしかったのでした。


 春のお姫様はそっぽを向いたまましずかに聞いていました。

 やがて告げます。

「楽しい思い出も、春になったら、あなたのからだと一緒にすっかり溶けてしまうでしょう」

 雪だるまは、すでにかなり溶けていましたので、春になって温度があがると消えてしまいそうです。

 雪だるまは答えました。



 ――しっているよ。



「ボクはみんなから、とても楽しい思い出をもらった。今度はみんなに返してあげたいんだ」

 そんな雪だるまを、春のお姫様ははじめてまっすぐと見ました。

 しばらくだまっていましたが、雪だるまからしずくがぽたりと落ちると、やがて言いました。

「あなたがそう願うのであれば、わたしは塔へといきましょう」


 春のお姫様が空とぶソリに乗って塔へくるのを、たくさんの人々がむかえました。 

 それから、すぐに暖かい春がおとずれました。

 みんなは大喜びしたそうです。

 雪だるまは、王様に春のお姫様のびょうきを治してほしいとだけお願いしました。

 やがて、すぐに溶けてしまったそうです。

 しかし思い出の中の雪だるまは、いつまでも溶けることはありません。

 この国では、今でも多くの人々の心の中に、楽しそうな雪だるまがいます。


 END

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