3話
桜の木は答えました。
「春の女王様は遠いところへ出かけたまま、ずっと帰ってこないわ。ざんねんですが、呼び戻すことはむずかしいでしょう」
雪だるまとトナカイは、こまってしまいました。
桜の木は、雪だるまを不思議そうに見ています。
「あなたは、春になってもいいの?」
雪だるまは答えました。
「ボクは冬が一番好き」
「なら、なぜ春の女王様のことを探しているのかしら?」
雪だるまは、青ざめているトナカイを見ました。
「春になると、みんながうれしいんだ」
桜の木は、雪だるまがしだいに溶けていくのを見ていましたが、やがて言いました。
「ほかにも方法はあるわ。春の女王様はいなくなってしまったけれど、春のお姫様がいるのよ。彼女なら、塔で春を司ることができる。けれど、やりたくない、と言っていてね。彼女は春がきらいよ」
「春のお姫様はどこにいるの?」
「あなたには少し、暖かすぎるかもしれないわ」
「かまわないよ。春のお姫様にたのんでみるよ」
「ここよりももっと南の方、春のお姫様は大きなお城に住んでいらっしゃいます」
*****
春のお姫様が住んでいるお城にいってみると、たくさんの人たちが詰めかけていました。みんな「はやく塔にいってくれ」と言っています。どうやら王様のお触れを目にした人たちが褒美がほしくて探しにきたようです。
これでは城に近づけません。
トナカイと雪だるまは、空とぶソリに乗って、城の上にのぼりました。
城の中に入ると、春のお姫様はため息をついていました。
「まったく、どの人も自分かってなことばかり」
「春のお姫様」
雪だるまが声をかけると、春のお姫様ははっとして振り向きました。
「まあ、なんてこと。どうやってお城の中へ」
トナカイが誇らしげに答えます。
「空とぶソリに乗ってきました」
雪だるまがつづけます。
「春のお姫様にお願いごとがあってきました」
春のお姫様は、まるで知っているかのように答えます。
「塔のことなら、おことわりだわ」
「まだ頼んでもいないことを、なぜことわるの?」
春のお姫様はなやましげに言います。
「みんな同じことを言うわ。『春のお姫様、春のお姫様。どうか塔へいって、冬を終わらせて。春を司ってください』と。ある者は寒いのがいやだからよ。ある者は食べ物が恋しいからだわ。ある者は王様のほうびがほしかったのでしょう。みんな自分のことだからよ。でもわたしのことはどうお考えになって? わたしは春になると、くしゃみが止まらないのよ。涙がでてきて、あたまもぼーっとしてしまう、びょうきなの。塔の中へなんて、いけるわけないわ」
雪だるまは、そんな春のお姫様のことをかわいそうに思いました。
「つらそうだね。ほかに冬を終わらせる方法はないの?」
春のお姫様はそっぽを向いたまま、答えました。
「ないわ」
トナカイは、いよいよ青ざめてしまいました。
「そんな、これでは冬が終わらなくなってしまうよ」