6、初陣
お待たせしました。戦闘回?です。
「奴らって、あれ?」
「はい、姉さん!」
「ただの盗賊じゃない。あれ位で呼ぶんじゃないわよ。これだからヤシャは...」
「えぇー。人間だよー。ヒゲもじゃだよー。怖いでしょ、ねえねえ。」
ようやく、付いたのか。後ろ向きでの高速移動で、僕はすでにグロッキー。兵器なだけあって身体能力は半端じゃ無いな。一方頭は、うん、残念みたいだ。敵を目の前にしているのに、緊張感が全く無いってどうなんだよ。
「まあ、丁度いいわね。邪神、戦って見なさい。」
「そうだな、ジャンの体ならあれ位、余裕で倒せるだろう。」
「えっ、僕が、あれを、一人で?」
「大丈夫、オーク兵を二人つけるから。ほら。」
「そんなわけ...」
僕は言葉に詰まる。チビに指差され、前に出て来たオークは金属の鎧に身を包み、正に歴戦の戦士といった様子だったからだ。これなら、そこらの盗賊位、余裕で倒してくれそうだ。
「あんた達、一応言っとくけど、こいつに戦わせるんだからね。つまらないでしょうけど、瞬殺するんじゃ無いわよ。」
「「押忍、姫さん。」」
全く余計なことを、まあ一人よりかはマシか。流石に死ぬまで放置はされないだろうし。ここは積極的な姿勢を示して評価を上げとくか。反論が無駄なのは、既に学んだ。
「分かった、戦ってみよう。だが、戦うと言っても、剣も魔法も使ったことが無いぞ。」
「剣は、無理だろうけど、魔法は使えると思うわよ。起こしたいものを考えながら、魔力を流せばいいだけ。手をグッってするあれよ。」
「そうか、魔法ってのは随分簡単なんだな。」
「まあ、神様からの贈り物らしいしね。」
「なるほどねー。」
なんだろう。右腕さんの表情が陰った気がした。
「余裕そうね。じゃあ初めての戦闘、いってらしゃい。」
「ちょまっ」
文字通り、物陰から突き飛ばされた。痛い。まあ、やるしか無いか。
50mほど先に五人の盗賊見える。おそらくリーダーは、中央のヒゲ男だ。直ぐさま大剣を構えた辺り、相当の手練れなのだろう。残り四人は精々中高生といったところか。明らかにビビっている。
相手も同じ人間なんだと思ったら、何故か落ち着いてきた。ここのオーク一匹と戦うより、幾分マシだろう。いつの間にか、オークは前衛に入っている。覚悟決めて、一発やってやりますか。
「ファイヤボール。」
先手必勝。そんなことを思いながら僕は呟く。突き出した右手からは光が溢れ、ゲームの様なエフェクトの中で火球が構成されていく。理屈なんて気にしないない。僕が今、生きる為にできるのは、想像力を信じるだけ。
眩しい光は収まった。右手の先に、バランスボールほどの火球が浮いている。身体に負担がかかるのか、頭痛がする。視界が揺れる。吐き気もある。しかし打ち出すまでは止められない。結果を出さなくては。
「焼き尽くせ!」
唯々感情を乗せただけの絶叫。それでも、まるで僕の意思を汲み取ったかの様に、火球は一直線に飛んで行く。オークの左手を焼き、ヒゲ男へと、
「ギャアァァァ。」
叫んでいるのは僕?痛むのは心臓?集中が切れて火球が逸れる。向かう先には顔を強張らせた少女が...
世界が傾き遠のく。僕の意識は闇の中へズブズブと。こんな時でもあの子可愛いな、とか思う自分が、少し恥ずかしかった。
難しい!魔法一発でこれではまともな戦闘なんてとてもとても。