不良神、開き直る
誤字、脱字に注意してください
急いで打ったので、表現がおかしいところもあると思います
この気配は、アガサの━━━
(⋯⋯油断した)
チッ、とトーヤが悔しげに顔を歪める。ほんの一瞬、ヴィヴィアンを追いかけていたときに漏れ出た神気をハルセが鋭く読み取ったのだ。
明らかに悩んでいますといった顔をするトーヤを、ヴィヴィアンは心配そうに見つめた。声をかけようとしたが、ヴィヴィアン君、トーヤ君!とふたりを呼ぶミリアの声に遮られた。
ふたりが振り返ると、息があがったミリアが酸素不足で顔を赤くしながら追いついてきた。
「ミリアさん、どうしたの?」
「シリル従兄さまが、ヴィヴィアン君たちについていっていいって⋯⋯ヴァシュル殿下たちと大事な話、あるみたいで、暫く人を近づけないよう、屋敷の人たちに言うよう、頼まれたの。だから、ヴァシュル殿下、来るのが遅れると、思う」
「ありがとう、教えてくれて。おれたちはもう甘いもの食べたんだけど⋯⋯また、行こうか」
ミリアに礼を述べ、ヴィヴィアンは手を差し出す。ミリアは顔を赤くしながら頷き、その手をとる。俺がいない間に何があったんだとトーヤは思ったが、口には出さなかった。しかし、後で必ず聞いてやろうと決めたのだった。
そうして歩いているうちに大福屋についた。長椅子に座ってヴァシュルを待っていると、慌てた様子で駆けつけてきた。
「ヴァシュル殿下。そんな格好で、走りづらくないですか?」
そんなに急いで来る必要は無かったのだと言うつもりが、つい可笑しな格好の方に意識が向いてしまった。しかし、ヴァシュルには珍しくそんなヴィヴィアンの言葉に曖昧に返すと、ヴィヴィアンに向かってこういった。
「いや、えと、その、トーヤに話があるんだが、少し借りてもいいか?」
ヴァシュルにしては歯切れが悪くそう言った。ヴィヴィアンは怪訝そうな顔をしたが、構いませんけど、と言ってトーヤを持ち上げてヴァシュルに渡した。
「⋯⋯おい、俺は物じゃあねえぞ」
覇気なくそう言うも、ヴァシュルは気にかけることなく⋯⋯否、気にかける余裕がなく、トーヤを物陰に連れていった。
その場所に多重の防音結界を張られ、いよいよ言われるのかと覚悟をしたトーヤにヴァシュルが言ったのは、トーヤにとって予想外の言葉だった。
「その、お前は精霊だから、人間より聴覚が鋭いよな。だから、ハルセが言った言葉、聞こえてたな?」
「⋯⋯ああ」
「それで、だな。折り入って頼みがあるんだが⋯⋯」
「⋯⋯なんだ」
「その、何も聞いていなかったことにしてくれねえか?」
「⋯⋯はぁ?」
何言ってんだこいつ、といった顔をしたトーヤに、ヴァシュルは慌てながらこう言った。
「その⋯⋯実はハルセが、神界からアガサの気配が無くなってる!なんて言い出して、アガサが人界に降りてる!て話になってだな⋯⋯」
つっかえながらもしどろもどろに事情をすべてを話したヴァシュルは、頭の上で両手を重ねて懇願した。
「だから、頼む!この事は誰にも言わないでくれ、この通りだ」
懸命に頼み込むヴァシュルに、トーヤは微かな息苦しさを感じた。嘘をつかずにすべてを話してくれたヴァシュルに偽るべきではないと思った。だから
「言わねえよ⋯⋯つーか、アガサは俺だ」
「⋯⋯は?」
トーヤの言葉に、ヴァシュルは呆気にとられた顔をした。そんなヴァシュルに、もう一度、今度はゆっくりと言った。
「だ、か、ら、⋯⋯俺が、アガサだって言ってんだよ」
「⋯⋯ああそうか、言わないでくれるか。ありがとう。そうだ、次の休みの日、うちの国に招待しよう。ヴィヴィアンとふたりで来い。精一杯、もてなすぞ!」
そういう強いものに憧れる年頃か、俺にもあったなぁと呟いた。どうやらヴァシュルはトーヤの告白をその場を取り成す冗談、もしくは自分実は凄いんだぜ、ドヤァと周りにもてはやされたいという願望で言った子供らしい嘘だと捉えたらしい。
さすがにカチンときたトーヤは、心の中で幾度も弁明した。
(⋯⋯俺はちゃんと言った。同じことは何回も言うなんて不毛なことは嫌いだ。正直にヴァシュルに言ったんだから、訂正する必要もシリルたちに言う必要もねえな。うん)
こめかみに青筋をたてながら、もう二度と言うものかと心に誓った。そんなトーヤにヴァシュルは申し訳なさそうに大金を渡して言った。
「俺は用があって帰らなきゃいけねんだ。この金やるから、たらふくいちご大福喰って帰れよ?」
そう言うと、ヴァシュルはじゃあなと手を振りながら風のように去っていった。
トーヤが戻ってくると、ヴィヴィアンが心配そうな顔でどうしたのか、と聞いてきた。仮面をしていても不機嫌さマックスなのがわかるトーヤは、大金を机に置いてなげやりに言った。
「用があって帰らなきゃいけねえんだと。この金で、好きなだけ大福喰って帰れだとさ。おばちゃん!この金で買えるだけいちご大福をくれ!」
触らぬ神に祟りなし。ヴィヴィアンとミリアは、山盛りに積まれたいちご大福を無言でヤケ喰いしていたトーヤに決して近づこうとはしなかったという。
━━━その後、オウラン宮にて
「おっ、もうみんな集まってたのか」
部屋に入るなり集まった面々を確認したヴァシュルが言った。そんなヴァシュルに、シリルは不安そうな顔をして言った。
「おかえり、ヴァシュル。トーヤ君の方は?」
「ああ、大丈夫だ。きっちり頼んできたし、約百個分のいちご大福の金を渡してきた。ああそれと、今度の休みにレラーキュリ王国にヴィヴィアンとふたりで来いって招待した」
「⋯⋯その、トーヤという子の記憶を私が消してくるというのはどうかな?」
「いや、やめておけ。あまりいい気はせぬ」
からりと笑ってシリルの言葉に応じたヴァシュルに、アリスが意見をだした。その意見を、眉間にシワを寄せたハルセが苦々しく切り捨てる。
四人の話を静かに聞いていたセリアスが、意地の悪そうな笑みを浮かべて口を挟んできた。
「え~、そもそもハルセが失態を犯したんじゃん?ちょこぉっと強引な手段を使うことになっても文句言えないぜ~」
「セリアス、それくらいにしてあげて。誰だって失敗くらいするよ。たとえハルセでもね」
ハルセを軽い口調で責めるセリアスに、サナフィアスが穏やかに制した。セリアスは渋々と引き下がる。
濃い碧色の長い髪をさらりと揺らし、女神のような美貌を誇るサナフィアスがヴァシュルの方を見る。
「その、トーヤって子。僕も会ってみたいなぁ。なんせ、ヴァシュルが気に入るほどの精霊なんでしょう?それに、その子の主があのミリアちゃんの初恋の君らしいからね」
「シリル、そんなことまで言ったのかよ。俺はともかく、あのミリアって子が可哀想だ」
大して話したこともないミリアに思わず同情したヴァシュルだったが、サナフィアスがふわりと笑って言った。
「僕はヴァシュルと違ってミリアちゃんと知り合いだからね。何というか、僕にとっても妹みたいな存在なんだ。ミリアちゃんも、僕のことを本当の兄みたいに慕ってくれてたから、知ってても別に問題はないよ」
「女顔のお前を、本当に兄みたいに思ってたのかねえ?姉貴みたいに思ってたんじゃないのか?」
「もう、ヴァシュル!」
拗ねたような顔をするサナフィアスだったが、ヴァシュルの言う通り、どこからどう見ても女性にしか見えなかった。これで男だとか、詐欺だ。
幼稚なケンカを始める2人に、それまでずっと黙っていたアミィが口を挟んできた。
「おふたりとも、そこまでになさったらどうですの?いまはそんなことを言い合っている時ではありませんでしょう?」
「「面目無い」」
一番年下のアミィにたしなめられ、ヴァシュルとサナフィアスは悄然と肩を落とした。そんなふたりを見て、シリルが苦笑する。
「反省したならそれでいい。それで、ヴァシュルはどうする?ヴィヴィアン君とトーヤ君を国に招待したのなら、君は国に戻るべきだと思うのだが」
「いや、俺は戻る気はない。ここに残って、アガサを探すことにする。ヴィヴィアンたちには悪いが、親父と弟妹たちに相手を頼む」
「だが、彼らは君の友達なのだろう?それでいいのか」
「⋯⋯ああ」
「⋯⋯わかった。ヴァシュルがそれでいいなら、別にいい」
しょげながらも残ることを決めたヴァシュルの気持ちをシリルは尊重することにした。
各国の王子たちと、覇神たち。アガサを探すため、動き始める。すぐ身近にいるとも知らぬままに。