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不良神、遭遇する

あまり詰めすぎないよう心がけています



ヴィヴィアンとミリアが走り去るのを見送ったあと、トーヤとヴァシュルは町の方へ行った。ヴァシュルは変装しているつもりなのか、前に町で会ったときの格好プラス付け髭をしていた。



「ヴァシュル、付き合ってやったんだからなんか奢れ」


「ははっ、トーヤは相変わらずだな。よし。仕方ないから買ってやる。なんでもいいぞ」


「⋯⋯言ったな。言質はとったぞ?」



トーヤの言葉にからりと笑って答えるヴァシュル。そのヴァシュルに、トーヤは仄昏い笑みを向けた。


あれ、嫌な予感がする⋯⋯とヴァシュルの背に悪寒がしたが的中。その後すぐ、ヴァシュルは安易なことを言うものではないと後悔することになった。



「あ、そこの鎖鎌と珍しい形のチャクラム⋯⋯あと、トンファーと鎖の先にやじりがついたやつをくれ。ん、あの鉄扇も欲しいな⋯⋯あ、そこの目許を隠すフクロウの仮面マスクも頼む」


「お前、可愛いなりしてなんてものを買ってんだ!!」



トーヤにしか聞こえないような小さな声でヴァシュルは抗議した。見た目愛らしい子供が武器屋で物騒な武器を楽しそうな顔をして買う⋯⋯一種のホラーだ。


トーヤが頼んだのは全部で六つ。ふたつの鎌が鎖で繋がっている鎖鎌、銀輪からやっつの刃が突き出ている珍しい形のチャクラム、鉄製のトンファーと鉄扇に、銀色のバングルから伸びた鎖の先にやじりがついたやつ。そしてフクロウの仮面マスクだ。確かに(見た目)子供が買うような物ではない。


しかし、トーヤは見た目こそ子供のなりをしてはいるが、れっきとした覇神であり、前世では健全(?)な不良だったのだ。男らしく、武器が結構好きだったりもする。


しかし、そんな事情を知らない周りからすれば異様な光景だった。しかも、ぼろぼろの服を着た怪しげな格好の老人がすべて払っている。トーヤの世界で、ひとつ、約数百万はする代物だ。普通、ぼろい身なりの老人がそう易々と買えるようなものではない。


周りの人たちは、老人を祖父、子供を孫として見ていたが、家族にしては服装が違いすぎる。


訝しげな顔をする周りに気づいたヴァシュルは、トーヤを連れてそそくさと店を出た。そして、今度は俺に付き合えよ、と不貞腐れたように言った。


ヴァシュルに連れてこられたのは、立派な造りの屋敷だった。怪訝そうな顔をするトーヤの腕を引き、ヴァシュルは中に入る。なんとなく嫌な予感がしたトーヤは先ほどヴァシュルに買ってもらったフクロウの仮面マスクを素早く顔につけた。


⋯⋯嫌な予感というのは悉く的中するものだ。ヴァシュルと共に部屋に入ると、そこでは金髪の美青年が優雅に椅子に座っていた。


ヴァシュルの来訪に気づくと、青年はキョロキョロと辺りを見回して怪訝そうな顔で言う。



「お前の友達とやらはどうした。連れてくるのではなかったのか?」


「それが、運悪く逢い引きするところでよ。連れてこれなかったんだ。ま、あいつにその気はないようだったが、相手の女の子⋯⋯確かお前の従妹じゃなかったか?黒髪の十六くらいの美少女だったんだが、その子の方がヴィヴィアンに惚れ込んでいるようだったぞ?」


「へえ、ミリアが?そうか、とうとうあの引っ込み思案のミリアにも春が来たのか。これは母上に報告だな。ミリアのことを可愛がっていた母上のことだ、きっとお喜びになるだろう」


「!」



ヴァシュルと青年の会話に、トーヤは軽く驚いた。この青年はミリアの従兄だという。


トーヤは青年の顔を食い入るように見つめる。金髪と黒髪。髪の色こそ異なるが、確かに顔付きはミリアによく似ていた。


しかし、ミリアの従兄とヴィヴィアンを会わせようとしたヴァシュルの意図はどこにあるのか。


トーヤは眉を寄せながらヴァシュルを見上げる。それに気づいたヴァシュルが、トーヤに青年のことを紹介し始めた。



「ああ、紹介する。こいつは俺の幼馴染みで親友のシリル。このマルセラージュ王国の第一王子だ。シリル、こいつはトーヤ。昨日俺と友達になったヴィヴィアンの相棒で、精霊の突然変異なんだとさ」


「初めまして、シリル=ヴァン=マルセラージュと言います。ヴァシュルから話は先日の話は聞いています。彼がご迷惑をかけたようで、非常に申し訳ない」


「いや。俺の名前はトーヤ。ヴィヴィアンのパートナーで、ベスティアリーゼ学院に所属⋯⋯て、手前がこの国の王子だっていうら庶民(ヴィー)の学院での待遇をなんとかしろよ!」



丁寧な挨拶と詫びに少し気後れをしていたトーヤは、自らが言った学院の名前に我に返り、噛み付くようにシリルに言った。それに対し、シリルは申し訳なさそうな顔をして言う。



「ああ、なんとかしてやりたいのだが⋯⋯対策案が無くてね。これでも前よりはよくなった方ではあるんだが完璧に改善することが難しい。ヴァシュルから君の主の話を聞いて、益々なんとかしなくてはと思ったんだが、時間を要する。詫びと共にその旨を伝えようとヴァシュルに連れてきてくれるよう頼んだんだが」


「詫びだァ?そんなもの、自ら出向いてするものだろ。しかも親友を顎で使うなど、手前は一体何様だ」


「いや、王子様だろ。それに俺は別に気にしてねえからそんな怒るな」



トーヤの言葉に、ヴァシュルが苦笑しながら頭を撫でた。トーヤが子供扱いするなと仮面マスクのくり抜かれた目の部分から、じとっと見る。


トーヤの言葉に、シリルは眉をハの字にしながら言った。



「すまない。だが、ほかにも急を要する仕事がある。一応王子だから簡単に出歩くこともできなくてね」


「はっ、ヴァシュルだったらいいって言うのか。こいつも一応王子だろうが。仕事も、ただ行って謝るだけの時間くらい問題ないだろう。それとも詫びだの悪いだのと言ってはいるが、所詮は口先ばかりの言葉か。そうだったな。偽り多く、偽善の多い人間の言葉など元々信用するに値しな⋯⋯」



言葉途中でトーヤは危険を察知して素早く後退した。すると、先ほどまでトーヤが突っ立っていた場所には大きな鉤爪で抉ったようなあとができた。



(この気配⋯⋯なぜ気づかなかった!これは、あいつの⋯⋯)



トーヤがシリルから見て左側を睨むようにして見る。すると、その視線に応えるように攻撃を仕掛けてきた主が姿を現した。


紺色の髪をひとつに束ねた、青い瞳の男。その氷のような冷たい美貌と無表情の顔が、蒼い髪と青緑の瞳をした同胞と重なる。


マルセラージュ王国に降りた、古風な口調の同胞。ハルセだった。


ハルセは顔こそ無表情ではあるが、瞳には睥睨するような色が見てとれた。トーヤはその瞳を、侮蔑の表情で受け取る。


ハルセが口を開いた。



「先ほどから聞いていれば、なんと無礼な。たかだか矮小な精霊の分際で、覇神たる我の主たる一国の王子に対してなんたる物言いか。しかも、仮面マスクを着けたまま話すなど、躾のなっておらぬと見える。シリルの優しさに、少々⋯⋯いや、かなり付け上がっているようだな」


「躾のなっていない、だと?それはどちらだ。一国の王子とはいえ、国民と同じ人間。そこの王子には、王子としての教育よりもひととしての常識を身に付けさせるべきじゃあねえのか?幾ら優しかろうとなんだろうと、ひととして最低限の常識のないものに払う敬意は、生憎と持ち合わせてねえんだよ」


「⋯⋯言わせておけば」



ハルセが怒りに顔を歪ませると、トーヤに攻撃しようと手を振り上げた。しかし、シリルがその手を掴んで阻む。



「シリル、何をする!」


「ハルセ、その子の言う通りだ。私が間違っていた」


「違う!この精霊の子供は、シリルがこの国のためにどれほど苦労しているのか知らぬからあのようなことを⋯⋯」


「ハルセ」



激昂するハルセをシリルが制する。反論は赦さないといった顔で、ハルセは納得のいかない顔をしながらも押し黙った。シリルがトーヤの方を向き、屈んで目線を合わせてくる。



「トーヤ、といったか?すまなかった。ハルセには後でしっかりと言っておく。今回のことは、ハルセが悪い。そして、私も悪かった。精霊である君が明らかな格上である覇神であるハルセに立ち向かっていくくらいだ。君にとって、ヴィヴィアンは大切な存在パートナーなのだな」



シリルの言葉にハルセははっとし、トーヤはその場を収めるためにも仕方なくこくりと頷いておいた。ハルセと同じく覇神であるトーヤにとってハルセは格上でも気を遣う相手でもなかったが、ここは話を合わせておいた方が無難だと判断したのだ。


それに、口では何と言おうと、バカがつくくらいお人好しな相棒パートナーのことがそれなりに大事で、彼のことになると相手に突っかかりやすくなると貴族階級の生徒に虐められて帰ってきたヴィヴィアンを見たときに気づいたのだ。


シリルに対して自分も少し言い過ぎたと少し反省していると、シリルが頭を優しく撫でてきた。子供扱いさせてるようで普段なら拒むのだが、この時ばかりはしょうがなく黙ってされるがままにしていた。



(俺、子供のなりになってから行動や考え方が我が儘になっちゃあいねえか?情けねえな⋯⋯)



前世まえは、もう少し節操があった気がすると、そんなどうでもいいことを考えていないと頭のなかがぐしゃぐしゃになりそうだった。躾がなっていないと嘲笑されても文句は言えない。


これが覇神たちに情が深いと称される所以であったが、本人は気づいていなかった。



「⋯⋯俺も、言い過ぎた。悪かっ⋯⋯申し訳ない」



シリルと、そしてその後ろにいるハルセに向かって謝った。シリルはいいよ、と苦笑しながらひたすら頭を撫でる。ハルセは無表情だった顔を頼りなさげに歪めて。



「⋯⋯我も、大人げなかった。すまぬ」



と謝ってきた。子供扱いされてるとわかったが、指摘する気にはなれなかった。


暫くシリルに撫でられていたトーヤは、その手が離れた瞬間、よしと言ったヴァシュルに頭をぐしゃぐしゃにされた。



「辛気くせえ顔すんなよ。お子さまにはまだ早いっての。この太っ腹なヴァシュル様が何か奢ってやるから元気だせ。な?」


「⋯⋯じゃあ、ショックガンと電動ミサイルと手榴弾と電動ノコギリと小刀と三叉の槍と毒草と兜と鎧と矛と弓矢と⋯⋯⋯⋯⋯」


「なんで欲しがるのが武器ばっかなんだよ!?さっきも買っただろうが!まだあるのかよっっ」



一応は戦神に分類される覇神なもので。ちなみに、自前の武器は紅の刃の大太刀だ。



絶叫するヴァシュルに、シリルが驚いた様子でトーヤの手にある袋を覗き見た。そして、はみ出ていた鎖鎌を見た瞬間、それ以上見るのをやめた。実に懸命な判断である 。


弓矢と⋯⋯で口ごもったトーヤがヴァシュルを見上げた。そして、固い表情をして。



「⋯⋯いちご、大福」


「⋯⋯は?」



思いもよらぬ告白に、ヴァシュルは唖然とした。鎖鎌やら鉄扇やらと武器ばかり欲しがったトーヤが、上目遣いで見たかと思うと(子供姿のトーヤがヴァシュルの顔を見ようとすると自然とそうなる)実に子供らしい可愛いものを欲しがったのだから。


口を開けてポカンとした表情をするヴァシュルに、トーヤが心のなかで必死に弁解する。



(し、しょうがねえだろ。俺の好物なんだから!)



顔を真っ赤にして俯かせたトーヤを見たシリルが、固まっているヴァシュルの代わりに返事をした。



「じゃあ、ヴァシュルは放っておいて行こうか」


「ああ」


「ちょっ、待てって!」



置いてかれそうになって漸く我に返ったヴァシュルが慌ててシリルとハルセとトーヤを追う。シリルが笑いながら扉を開けると、そこには



「⋯⋯ミリア?と、あと誰かな?」



居心地悪そうな顔をするミリアと、ヴィヴィアンの姿があった。


トーヤはすぐさまヴィヴィアンの足下に行き、子供特有の甲高い声を低くして問うた。



「おい、手前⋯⋯いつから、いやがった?」


「え、ええと⋯⋯ミリアさんに連れられて来たのがついさっき⋯⋯」


「そんなことを聞いてんじゃねぇ。話、どこから聞いてたのかって言ってんだよ」


「⋯⋯トーヤが、シリル様に突っかかっていたところから。止めようとしたんだけど、ミリアさんに阻まれたというか⋯⋯」



しどろもどろになって言うヴィヴィアンに、仮面(マスク)に隠されたトーヤの顔は⋯⋯悪鬼とたとえるのが妥当だろう。



「あ、決して盗み聞きしようとしてたんじゃなくて!?でも、トーヤがおれのことを想ってくれてたことを知れたのは嬉しかっ⋯⋯トーヤ!?その鎖鎌、袋から取り出してどうするつも⋯⋯」


「うる⋯⋯せぇぇぇぇぇ!」


「うわぁぁぁ!やっぱり!?」



顔を真っ赤にしてヴィヴィアンを追いかけるトーヤをシリルたちが生暖かい目で見つめていた。



「お人好しなヴィヴィアンと苛烈なトーヤ。なかなかおもしろ⋯⋯いや、いい組み合わせじゃねえか?」



暢気にそんなことを言うヴァシュルにシリルは呆れたような顔をして、ミリアの方を向いた。



「ミリア、あの子が君の初恋の君?随分と優しそうで、いいひとそうだな。で、なんで彼をここに連れてきたんだ」


「だ、だって、ここはわたしの屋敷の離れでもあるから⋯⋯それに、ヴィヴィアン君に見せたいものもあったから、それで⋯⋯」


「だが、盗み聞きはよくない。たとえそのつもりがなくても、勘違いされるような行動を取るべきではないよ」


「⋯⋯はい」



静かにお説教されているミリアを何気なく見つめていたハルセは、ふと空気の流れに違和感を感じて感覚を研ぎ澄ました。そして、びくりと身体を揺らした。



「っ⋯⋯この気配は、アガサの」



その言葉にトーヤは思わずハルセを見る。シリルやヴァシュルも聞こえていたようで、ハルセの方を見たかと思うとふたりして慌ててハルセの口を塞いだ。聞こえていなかったらしいヴィヴィアンとミリアは、不思議そうな顔をする。



「?どうされたんですか、殿下━━━」


「な、なんでもない!なんでもないから、気にするな。な、なあヴィヴィアン。後で追いかけるから、トーヤと共にすぐ近くの大福屋に行っててくれ、な!」


「?いいですけど⋯⋯トーヤ、行こう?」


「⋯⋯」


「トーヤ?」


「⋯⋯あぁ、悪ぃ。いま行く」



ぎこちない様子で袋に鎖鎌をなおしたトーヤが、ハルセの方をちらりと一瞥するも、ヴィヴィアンと共に部屋を出ていった。



「ミリアも一緒にいってきていい。あと、暫くここには誰にも近づかないように言ってくれるか?」


「え?あ、うん、わかった」



シリルの真剣な顔に不安そうな顔をしながらも、ヴィヴィアンの後を追ってでた。シリルとヴァシュルが深く息をつく。



「ハルセ、どうしたんだ。らしくもない」


「そうそう、ビビったぜ。聞こえてたらどうしようってな。まぁ、トーヤには聞こえてたみたいだけど」



驚いた顔でハルセを見ていたトーヤの顔を思い出す。後で言っておかなければいけないなとヴァシュルは頭を抱えた。


ハルセは無表情な顔を、僅かに申し訳なさそうにして言った。



「⋯⋯一瞬、アガサの気配を感じた」



その言葉に、シリルとヴァシュルの顔が引き締まる。シリルが、緊張した様子で問いかけた。



「それはどこかわかるかい?」


「⋯⋯わからぬ。ほんの微量、しかも一瞬のことだったゆえ、ここから近いのかも遠いのかもわからなかった。だが、この国に居ることは確かだ」


「なっ」



この国に、マルセラージュ王国にいる。覇神、アガサが



「⋯⋯シリル、ハルセと共に城に戻れ。そして、伝えろ。俺はトーヤに黙っているよう頼んでから行く」


「わかった」



三人は頷くと、ハルセはシリルと共に城へと瞬間移動で行き、ヴァシュルはヴィヴィアンたちを追って屋敷を出た。

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