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不良神、捜索される




ハルセがシリルに招集を頼んでから三日後の朝。マルセラージュ王国のオウラン宮(客人をもてなす宮殿)では、広い円状の机を囲むように、客人たちは座っていた。シリルは全員集まったことを確認して、静かに席を立つ。



「このような朝方、それも忙しいなか急に集まってもらい、大変申し訳ない」


「いや、それはいいから本題に入ろうぜ。俺たち全員を呼び出すってことは、火急の用件ってことなんだろ?」



シリルが招集時の礼儀として口上を述べ、頭を下げようとしたときに待ったをかけたのは、大陸の東にあるレラーキュリ王国の第一王子ヴァシュルだった。


このヴィルヴァジェンド大陸の各国の王族はみな、幼なじみである。覇神と共に闘う定めの彼らは幼い頃から共に修行や勉学に励んでおり、歳が近いこともあってとても仲が良い。



マルセラージュ王国、第一王子シリルは十九歳

レラーキュリ王国、第一王子ヴァシュルは十九歳

ヴェローネ王国、第一王子サナフィアスは十八歳

セレスティアンス王国、第一王女アミィは十六歳



上から、ハルセ、アリス、セリアス、レオーナがついている。


そのアリスの主であるヴァシュルの放った言葉にシリルが重々しく頷き、ハルセの方を見た。ハルセがその視線を受け、静かに切り出す。



「アリスやセリアス、レオーナならばわかっているだろうが。先日、我らがいた神界からアガサの気配が消失した」


『なっ⋯⋯!』



ハルセの言葉に覇神たちは頷き、王子たちは驚愕した様子で声をあげた。王子たちの反応を取り敢えずは置いておき、ハルセは話を進める。



「考えられることはふたつ。ひとつはアガサ自身が己れの意思で降りたということ。ふたつ目は⋯考えにくいが、アガサが何者かによって召喚されたということだ」



神妙な顔をして話すハルセに、セリアスが頭の後ろに両手をまわしながら言った。



「まさかあのアガサが自分の意思で人界に降りるなんて、今更そんなことがあるもんかねえ~。でもまぁ、召喚される事の方があり得ないか」



召喚は、対象が高位であればあるほど難しくなる。ましてや覇神の召喚など、現在各国でも最上位に位置する実力者全員の力を持ってしても不可能な事であった。それを知っているからこそハルセもセリアスもその可能性を切り捨てた。



「我もその事について考えたのだが、やはり、アガサが己れの意思で降りるなど考えられぬ。しかし、召喚されるなど、もっとあり得ぬこと。ゆえに、考えられる可能性としては、アガサ自身が己れの意思で降りたと考える方が現実的だと判断した」



誰もが納得する理由。しかし、その行動に関してはとても納得ができないものであった。



「ですが、それならばなぜ、今頃になってアガサは降りてきたのでしょうか。アガサは人間に対して、その、あまり良い感情を持っていないように感じましたが⋯⋯」



セリアスとハルセの意見を聞き、レオーナが顔を曇らせながら己れの考えを言った。それに関しては皆、同意見だと頷く。



「私からしてみれば、あの子は人間が嫌いというわけではないと思いたいのだけれど⋯⋯まぁそれはともかく、もし仮定するなら、神魔王という存在が現れたことで、少しアガサの気持ちが変わったのかもしれないということかな。これは私の憶測でしかないけれどね」



アリスが穏やかに言う。覇神たちは考えるような仕草をするが、アガサのことを全く知らない王子たちは迂闊に口を挟むことができず、神妙な顔で話を聞くしかなかった。やがて



「⋯⋯なぁ、もし本当にアガサが人界にいると仮定しよう。そうしたら、ここで憶測を言い合うよりも、実際に探して聞いた方がいいと思わないか?」



それまで黙って聞いていたヴァシュルが唐突に口を開いたかと思うと、わりかしまともなことを言った。それを聞いて、セリアスがおおっ、と声をあげてわざとらしく拍手をした。



「あのヴァシュルが珍しくまともなことを言ったー。そうだな、確かにここで言い合っていても何も解決しねえよなー。うん、ヴァシュル偉い偉い」


「あのって言うなセリアス。俺はもう十九歳だ!」


「へいへい」



ムッと眉を寄せてセリアスに訴えると、セリアスはそれを軽くいなす。ヴァシュルは明らかに納得がいっていないような顔をしていたが、取り敢えず押し黙った。


ヴァシュルが落ち着いたのを見て、アリスが話し始める。



「それなら、まずはアガサについて話しておかなければね。アガサの外見年齢は十九歳くらいで、髪の色は変わっているだろうから無し。髪型は、横髪が胸くらいまであって後ろ髪は頭の上でひとつに纏め上げている。繊細な造りの風貌に、鋭さを帯びた美貌を持っているけれど、口調は少し荒いかな」



これくらいかな、とハルセの方を見ると頷き返された。よし、とアリスが捜索の準備に取り掛かるため皆を見ると、レオーナがおずおずと手をあげた。



「あの、アガサを捜索するのであれば、わたくしたちだけで行うべきだと考えます」


「ああ、そうだね。面倒なことになるかもしれないからね」



レオーナの言葉に一瞬怪訝そうな顔をしたが、アリスはすぐにその意図を理解し、同意した。ほかの覇神たちも頷く。理解できなかったのは王子たちの方だ。



「どういうことだ?」



シリルが代表してハルセに聞く、すると、ハルセは事も無げにこう話した。



「もし国民やそのほかに、アガサが人界に降りておりその捜索をしていると言って大がかりな捜索をすればどうなると思う。アガサの性格上かなり嫌がるだろうし、そうでなくてもただでさえアガサを崇める邪教宗団の活動が活発化しているのにそれを増長させる可能性がでてくるだろう」



ハルセの指摘に王子たちがはっとする。捜索の対象が覇神であり、邪教宗団が崇めるアガサである以上、慎重に行動する必要があるのだ。もしかしたら、アガサが己れを崇める邪教宗団につくこととて考えられる。


その事に誰も気づけなかったことに、王子たちは己れの不甲斐なさに悄然とした。そしてもしアリスたちが気づいていなければ、大変なことになっていたかもしれないと肝を冷やした。


うなだれる王子たちを見て、覇神たちが心の中で『まあ、あのアガサが邪教宗団なんかに取り込まれるわけないけど』と密かに思っていたのは秘密だ。



「じゃあ、どうする?各国を手分けして探すの?」


「⋯⋯地道だが、そうするか」



ヴェローネ王国の第一王子サナフィアスが穏やかな口調で言うと、ヴァシュルが同意した。その他も異論はないようである。



「それでは今回はお開きとしよう。くれぐれも他言無用であると心に刻んでもらいたい」


「心得ておりますわ。それではわたしたちは、部屋に戻らせていただきますわね」



シリルの言葉にセレスティアンス王国の第一王女のアミィが頷く。この言葉を最後に、ヴァシュル以外は用意されていた部屋へと戻った。せっかく集まったのだから、暫くの間ここに滞在していくといいと、マルセラージュ王国の国王が滞在の許可を出したのだ。各国の王子たちは、それぞれの王の許しを得て三週間の間だけで滞在する事となったのであった。


ちなみにヴァシュルは、町を出歩きたいと言って、変装をしてひとりお忍びで出掛けていったのだった。
















━━その頃、シェルヴェーデ地方、ベスティアリーゼ学院(付近)では。



「お前はバカか?」


「うっ、バカっていうな⋯⋯」



アガサ、もといトーヤの呆れたような物言いにヴィヴィアンは力なく答えた。その両手には、たくさんの荷物がある。


先日、授業で術式の練習をしていたときのこと。


意地の悪いクラスメイトの罠にはまって、教室の用具や道具をまるで使い物にならない状態にさせて、多くの先生たちに叱られたのだ。しかも



「えーっと⋯⋯ごめんなさい。おれのせいです」



と、クラスメイトにハメられたことも虐めにあっていることも何も言わず、自分のせいだと謝っていた。


その様子を影から盗み見ていたクラスメイトはヴィヴィアンのことを嘲笑い、トーヤは、少しどころかかなり腹立たしい気分にさせられた。しかもあろうことか、先生までもが『これだから庶民は』と眉を寄せながら言った上に、少しはクラスメイトを見習えとまでほざいた。


なぜ被害者であるヴィヴィアンが罰を受け、加害者である意地の悪いクラスメイトは持ちあげられるのか。


釈然としない。いや、最も釈然としないのは何も言わずに大人しく罰を受けているヴィヴィアンだ。


ヴィヴィアンは前日の罰として、使い物にならなくなった用具、道具を全て買い替えるようにと命じられたのだ。ふざけてる。


トーヤは苛々しながらヴィヴィアンに突っかかっていた。正直、怒りのあまり何をしでかすか自分でもわからないくらいには正気を失いかけていた。



「あのクソガキども、いつか必ず〆る⋯⋯」


「そんなこと言わない。もう、トーヤはどうしてそう怒りっぽいんだよ」


「お前こそ、なぜ何も言わない。放っといたらあいつら、益々増長していくだけだぞ」


「はいはい。あと二年ちょいの辛抱」


「我慢するなーーー!」



こんな調子で言い合っているふたりは、周りに対する注意が疎かになっていた。つまり



ガツッッッッッッッ



「痛ッてえッ」


「あいたっ」



ヴィヴィアンが謎の男とぶつかる。思わず声を上げたが、ヴィヴィアンのあげた声を聞いた途端、絶対に受け身をとれないだろうと瞬時に考えたトーヤは即座にヴィヴィアンの後ろに周り込み、倒れないように最小限の力で受け止めた。


その動きを見ていたらしい謎の男は、僅かに目を見開いてトーヤを見た。それに気づいたトーヤは謎の男に怒鳴る。



「手前、こっち見てる暇があるなら謝れよ」


「と、トーヤ!?あっ、すみません。おれ、ちゃんと前を見てなく、て⋯⋯!?」



ヴィヴィアンが怒鳴り散らすトーヤをたしなめながら相手の男を見ると、驚愕のあまり言葉を呑み込んでしまった。フードを深く被り、古臭くぼろぼろの服を着ているが間違いない。



「え、まさか、ヴ、ヴァシュル殿下⋯⋯ふがっ」


「しーーーっ!静かにしろっ、バレるだろうが」


「いや、もうすでに俺たちにバレてるじゃあねえか」



慌ててヴィヴィアンの口を塞ぐヴァシュルに不機嫌さマックスで突っ込んだトーヤは、ヴィヴィアン共々挙動不審に周りをきょろきょろ見渡すヴァシュルによって近くの廃屋に連れ込まれてしまった。
















「はああああああああああ⋯⋯なんでだ?なんでバレたんだ!?」


「いやだって、服は古臭くてぼろぼろですけど、隠す要素がフードを深く被っているだけなので⋯⋯」


「お粗末な変装だな。手前、莫迦だろう」


「こらっ、トーヤ」



嘆くヴァシュルにヴィヴィアンがおろおろと慰め?トーヤが思い切りバカにしてヴィヴィアンに窘められていた。



「というより、殿下がなぜこのようなところに?」


「何だ、俺がいちゃ悪いのかよ」


「あ、いえ、そうじゃなくて⋯⋯他国の王子であるヴァシュル殿下が、なぜこの国の町におひとりで歩かれているのかと」


「⋯⋯別にいいだろ、そんなの俺の勝手だ」


「あ、えっと、申し訳ありません」


「手前、殿下だかなんだか知らねえが、いい加減にしろよ」



ヴァシュルとヴィヴィアンの会話に、このところ怒りの沸点が低くなってきたトーヤが割って入ってくる。ヴァシュルが訝しげな顔をトーヤに向けてきた。



「お前、ひとの形をしてはいるが、人間じゃないな。何者だ?」


「あ、これはおれの相棒パートナーでトーヤと言います。精霊の突然変異らしくて、人間みたいな姿をしているんですっ。態度がでかくてすみません」


「精霊の突然変異⋯⋯?」



ヴァシュルがトーヤの全身を興味深そうにまじまじと見つめる。


翡翠色の少々つりあがった大きな瞳。白い、卵のような肌は漆黒の髪に縁取られており、短く切り揃えてある。顔立ちは幼いながらも整っており、繊細な造りとは裏腹に鋭い目元からは意思の強さが滲み出ていた。


見た感じ、精一杯威嚇している小動物のようで、とても可愛らしいと思った。



「トーヤ、か。変わった響きの名だな。精霊の突然変異とは、成るほど。珍しいこともあるもんだ。戻ったらアリスに話してみるか」


「⋯⋯アリス?」


「ああ、俺のことは知らなくともアリスの名前くらいは知ってるだろ?俺の相棒パートナーで、覇神の位にある者だ」



微かに自慢げに話すヴァシュルは完全に無視し、トーヤは一瞬遠い目をした。



(知ってるも何も、俺の同胞だ。というかアリスのやつ、こんな人間と一緒にいるのか。あいつの気が知れねえ)



トーヤが別の意味で驚いているのを、勘違いしたヴァシュルが気をよさげに言った。



「いま、ちょっとした事情があって一緒にこの国に来てるんだが⋯⋯会ってみるか?」


「ええっ!」


「要らん世話だ」


「「はぁっ!?」」



ヴァシュルの申し出に驚愕したヴィヴィアンであったが、即座に拒否したトーヤにはヴァシュル共々盛大に驚いた。



「⋯⋯要らん世話、だと?仮にも王族である俺に対して、そんな尊大な口を利くとはな。たとえ突然変異の精霊であろうが、無礼じゃないのか?」



ちょっぴり不機嫌そうに言うヴァシュルに対し、トーヤは臆することなく堂々と言った。



「たったいま事情があってこの国に来たと言ったばかりじゃあねえか。大事な用事ほったらかしてまで覇神を見せびらかすことの方が大事なことか?無礼はどっちだ。手前の態度が、何よりも覇神に対して無礼だと思わねえのかよ。恥知らずな人間」



怯むことなく言い返してきたトーヤに、ヴァシュルは暫くの間、唖然とした。しかし、すぐに唇を歪め、高らかに笑い始めた。



「ふ、ははははは!お前、いいな。気に入った!お前の言う通りだ。確かにいまのは俺が悪かった。すまない。俺の悪いクセだ。直ったとばかり思っていたが、直っていなかったか。取り敢えず、すまなかった」



ヴィヴィアンだけでなく、さしものトーヤも唖然とした。なんとも軽い性格だ。少しだけ、セリアスに似ていると思った。



「くくく、本当にすまなかった。精霊、トーヤと言ったか?今度、お前の主と共に俺の国に招待しよう。今日の詫びだ」


「無用だ。ヴィー、ひとりで行ってこい」


「ええっ、いまの流れでおれ全く何もしてないだろ。おれが行くのはおかしいじゃないか」


「そういえば、お前はどこの学生だ?あまり他国の学校には詳しくないんだが、覚えとく」



ふと思い出したかのようにヴィヴィアンに話を振るヴァシュルは、とても楽しげな顔をしていた。ヴィヴィアンはしどろもどろになりながら答える。



「えっ、と。ベスティアリーゼ学院四年生のヴィヴィアンです。歳は十六です」


「ちなみに庶民の出で、バカが付くほどお人好しで、意地の悪いクラスメイトに虐められても告げ口しないどころか庇うレベルの超級の愚か者だ」


「ちょっ、トーヤ!」



学校名どこか自己紹介までしてしまったヴィヴィアンの言葉に続いて、トーヤが不満ありありな顔で付け足した。慌ててヴィヴィアンがトーヤの口を塞ごうとするも、時すでに遅し。



「虐め、だと?」



ヴァシュルの顔が険しくなる。ヴィヴィアンは慌てて弁解しようと話した。



「いや、おれは庶民の出だからよくあることでっ⋯⋯そ、それに、もう慣れたというか気にしなくなったというか⋯⋯と、取り敢えず大丈夫で⋯⋯」


「大丈夫なわけあるか。虐めだと?ふざけてる!」



この時、初めてトーヤはヴァシュルに対して少し好感を持った。きちんと善悪を認識できる人間はいい。


当のヴァシュルは、憤懣やる方ないといった様子で激しく激昂し、終いには『シリルに一言、文句を言ってやる!』と言い出してヴィヴィアンを蒼白にさせた。ちなみに、トーヤのヴァシュルに対する好感度は上昇中だった。


暫くして、漸くヴァシュルを引き留めることに成功したヴィヴィアンは、ほう、とひと息ついた。そんなヴィヴィアンを、ヴァシュルは不機嫌そうな顔で見ながら言った。



「お前、なんで止めるんだよ」


「いや、目の前で物騒なことに発展しそうなことがあったら止めるでしょう!」


「トーヤの言う通りだな。お前、極度のお人好しだ」



苦笑するヴァシュルに対して、そうだろうかと首を傾げる。自覚していないのは本人だけだ。


怪訝そうに首を傾げるヴィヴィアンをじっと見つめていたヴァシュルは、よし、と言って爆弾発言を落とした。



「ここで会ったのも何かの縁だ。トーヤ、ヴィヴィアン。是非とも俺と友達になってくれ!」


「「⋯⋯はぁ!?」」


「いやさ、俺には一般人の友達がいないんだよ。各国の王子や王女ばっかりでさ、普通の友達が欲しいなぁ~と思って。別にシリルたちといてつまらない訳じゃないんだが、なんかこう⋯⋯外交に関係ない友達というか⋯⋯」



わくわくとした雰囲気で話すヴァシュルに対してヴィヴィアンとトーヤの顔は真っ青になっていた。お互い理由は違うが。



「む、無理です!」


「断る」


「なんっでだよ」



トーヤとヴィヴィアンと返答にヴァシュルが拗ねた顔をする。ヴィヴィアンは懸命にこう話した。



「あのですね、おれなんかに殿下の友達なんて務まるわけないじゃないですか!庶民の出のおれなんかが⋯⋯」


「身分に関係なく友達が欲しいっつったんだよ。務まるだのなんだのと、俺は友達になるという仕事をしてくれなんて言ってねえぞ。というわけで却下、拒否権はなしってことで」


「うわぁー⋯⋯」



お人好しなヴィヴィアンはあっさりと負けた。しかしトーヤは負けるわけにはいかなかった。なぜなら



(こいつと友達になんてなってみろ。アリスたちに俺のことがバレるし、ヴィーを危険な目に遭わせることになるかも知れないだろうが。絶対、断ってやる!)



大昔にあれだけ頑なになって人界には降りないと言い張ったのだ。たとえ召喚が理由だとしても、こんなところにいることがバレたらいい笑いものだ。特にセリアスあたりにはにやにやしながらいつまでもその話を掘り返されそうだ。そんな屈辱は断じて認められない。



「俺は精霊だ。人間なんぞと友達になどなれるか」


「ええっ、トーヤ、おれとお前は相棒パートナーであり友達じゃなかったのか!?」



トーヤの言葉を間に受けたヴィヴィアンがヴァシュルよりも早くにその言葉に反応し、ショックと言いたげな顔をする。嫌な予感がしつつ予想外の方からの反応に思わず何も考えずに返答する。



「いや、そういうわけじゃあねえが⋯⋯」


「意義あり!人間なんぞと友達にはなれねえとか言ったくせに、ヴィヴィアンとはなるのかよっ!」



すかさずヴァシュルが隙をつく。しかし、負けてなるものか。



「くっ、ヴィー、話しに入ってくるな」


「うっ、友達だと思ってたのに⋯⋯」


「くうぅぅっ⋯⋯おいヴィー!俺とお前の仲がどういうものか、よく考えろ!そして察せ!」



俺とお前は相棒(パートナー)なんだろうが!と言外に告げるが鈍いヴィヴィアンには全く通じない。



「ううう⋯⋯トーヤは、おれのことなんか」



負の連鎖に入り込んだヴィヴィアンには、やはりトーヤの言葉が届いていなかった。ああもう!と自棄になったトーヤが叫ぶ。



「お前は俺の友達だ、これでいいか!?」


「意義あり!それなら、俺との仲も認めろ」


「黙秘で!」


「認めるかっ!」



そんなくだらない言い合いが、小三時間ほど続いた。結果



「ああもうっ!それなら知人以上友達未満で我慢してやる!それが嫌なら諦めて友達になると認めろっ!」



と悔しげに言うヴァシュルに、トーヤはそれならばとやっと頷いた。トーヤの粘り勝ちだった。



「チッ、もうこんな時間だ。ヴィー、先公に押し付けられた仕事、まだ終わってねえだろ。さっさと帰んぞ」


「え、うん。えと、それでは殿下、失礼します」


「次に会ったときは名前で呼べよ。そんで、堅苦しいのも無しだからな!あ、あと今日のことは他言無用で。それじゃ、またなヴィヴィアン」



頭をふらつかせながら、ヴィヴィアンはトーヤと共に家路についた。


学院の寮に着くと、寮長や先生にしこたま怒られて、遅くまで雑用をさせられたトーヤとヴィヴィアンだった。


一方のヴァシュルは、初めて普通の友達ができたことに浮かれていた。それゆえに、城に帰ると、遅い帰りだったことをシリルに責められ、アリスにくどくどと説教をされることになるとは夢にも思っていなかった。

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