市松小澄、いざ決着の時。
決闘のあと。
小澄は何度も何度も大丈夫だからと言ったのだけど、結局葛生は家まで送ってくれた。
そして父と対面した。普段は門下生に鉄面皮と恐れられるあの父が、今は困惑した表情で佇んでいる。葛生は玄関のタイルに膝をついて土下座をしていた。
「申し訳ございませんでした」
小澄に手をあげてしまったことを彼は伏して詫びていた。
やめてくれと慌てて彼の肩を掴む。そんなつもりで自分を家まで送り届けたのだとは思いもしなかった。あれは試合だったんだ。互いに命をかけて腕を見せあっただけだというのに、なのにどうしてこんな真似をするんだ。
「なにに対して謝っているのだね?」と父が問うた。
「それは……」
「君はずいぶんな顔をしているが、うちの娘は綺麗なもんだ。額にたんこぶができているくらいかな。ああ、そうか。君は娘と試合をして、手を抜いたことを謝っているのかね」
「は……?」
葛生は顔をあげ、手をついたままの体勢で目をぱちくりとさせた。
「しかし――おい、小澄。おまえも手を抜いたな。顔を殴っておきながら、どうして指を使わなかった。目の一つ、耳の一つも壊さずに、よくもまぁおめおめと負けて帰ってこれたな」
「え……」
さらに葛生が振り返る。小澄はかぁぁと頬が熱くなるのを感じる。
「未熟者が二人、未熟な立ちあいをしよって」
と、そこで唐突に父の表情が緩んだ。
「それともなんだ。お互い、手加減をしたい相手だったという話かな」
「父上っ」
こらえきれず叫んでしまった。
つづけて弁明しようと息を吸いこんだところ、今度は葛生に手をかざされ、とめられてしまう。
「そうです。こんな未熟な身ですが、おれ……私は小澄さんと真剣におつきあいをしたいと考えています」
「なにを言ってるんだね、君は」
そんな真似許すわけがない、という答えを予想したのだろう。葛生が身を固くするのがわかった。
小澄だって、てっきりそう告げられるものだと身構えていたのだ。
「君たちはとうの昔からつきあってるとばかり思っていたが」
「……ええ?」
父上、余計なことを……。
本当に余計なことを……。
観念して、小澄は葛生にむきなおった。膝を立て、彼と同じ目線まで顔を近づける。その表情を見て、ああ、自分も真っ赤なんだろうなと思いながら。
「すみません、先輩」
ゆっくりと時間をかけて、頭につけたウィッグを外していった。
彼の目が大きく見開かれていくのが見えた。
「〝オレ〟は、実は女の子でして……」