砂の惑星
砂、砂、ただ砂だけがそこにはあった。そこでは、人の一生とは果てしのない砂との戦いを意味した。無論、砂に勝つことなど出来るはずもなかったから、必然的に人々の生活は過酷をきわめることになった。絶えざる戦いの中で人々の頬には消えない皺が刻まれ、目には峻烈な火が宿った。
だが誰もそれを苦しみとは呼ばなかった。疑問を抱く暇すらなく、一瞬ごとに生まれては死に、また生まれては死に、無限の繰り返しの中で人はすこしずつ老いてゆく。老いの果てに死ねばまた新たな人が産声をあげ、最期の一瞬に向かう新たな周期が始まる。どこにいようが人はそうやって生きてきたし、これからもそうやって生きていくのだろう。無限の虚無の中で、無限の繰り返しの果てに最後の一人が死に絶えるまで。
休眠から目覚めて間もない頃、彼はもう九十近い老婆の長老に会ったことがある。
崩れかけの砂岩の穴蔵の中で、彼女はただ黙って、ただ家々の向こうに広がる砂を見つめていた。思わずため息が出るほどに膨大な虚無がそこにはあった。
どこまでも広がる砂の海を目にして、初めてこの惑星の土を踏んだ人間が何を思ったかは分からない。だがそれが何であったにせよ、次の瞬間には、彼は全てを忘れて砂漠の風景に見入ったに違いない。
砂漠は、それほどまでに美しかった。
故郷とは比べものにならない大きさの砂丘。青い青い空。見慣れない星座。月のない夜。だがその美しい虚無は、程なくして彼女の集落を飲み込んだ。結局、誰も砂に勝つことはできなかった。
集落の近く、点在する涸れ井戸に近い原野には、いきだおれた旅人の干からびた死体がいくつも転がっていた。故郷から遠く離れ、どこかにあるはずの水場を求めて力つきた人々は、しかしただ不運だったに過ぎない。かつてはそこにも井戸があったのだ。
終わりのない戦いが始まってから、数百年の時が経とうとしていた。