個展と私。2
個展当日。
この日は雨だった。私は個展会場の中で次第に酷くなる雨を眺めていた。現在時刻は午前七時。個展は午前十時からだ。それまでには雨は止むだろうかなどと考えていた。私の絵に惚れ込んでしまったショースケさんがテナントを無料で二日間貸して下さったので昨日中に会場設営は終わらせていた。最初二日間貸していただけると聞いたとき、では個展は二日間開催するんですか。と私はショースケさんに質問した。しかしショースケさんは個展の主役であるアナタが疲れてはいけないから丸々一日会場設営に使って、次の日に個展を開催してください。と優しく言ってくれた。
つまるところ、私は十時まで暇なのだ。ではなぜこんな早くから会場にいるのか。それは長年の夢であった絵描きとして有名になることに少しでも近づけるための最初のチャンスだから、居ても立っても居られなくなってしまった、ということだ。昨晩は旅行に行く前日の子どものように寝付けなかった。こんなことは二十三年の人生の中でも数えるほどしかない。
午前九時。二時間も立つと次第に興奮も覚めてくる。私はとんでもなく暇さを感じていた。そこで私はこの日のために描き上げた絵たちを眺めて歩くことにした。入り口から一番近くに飾ってある絵を見る。この位置の絵は会場に来たお客さんが一番最初に見るであろう絵なので特に力を入れている。私はこの絵を見ながらあることを思い出していた。それは昔々小学生のとき、最初に絵描きになろうと思った頃の絵だ。あの絵は、実家が私が飛び出してきた当時のままならば、私の部屋に飾ってある。家を出るときに持って行こうとしたのだが、大きすぎて持ち運べないためやめたのだった。
小学生の私。夢を見始めた頃の私。あの頃はどこまでも際限のない夢を見ていた。簡単に絵描きになれて、簡単に絵で有名になれて、簡単に絵でお金が稼げて。そういった現実にはありえないような妄想ばかりしていた。あれから十五年も経つとそれが簡単ではないことがよくわかってきた。
現代の絵描き人口は、コンピュータの性能が低かった以前と比べて簡単に絵が描けるようになってきたため、以前と比べて多くなってきている。しかしその中でも絵で生計を立てられている人はとても少ない。絵で生活をするということは非常に厳しいことなのだ。それを私は十五年も目指してきた。今さら他には変えられない。私には絵しかないのだ。
午前九時半。
窓の外を見ると彼がやってきていた。彼は私の個展のために店を休んでお手伝いをしにきた。彼はとても優しい。この前も、私が絵の具が切れたというとこれで買っておいで、とばかりに千円札を私の手のひらの上に載せていた。ジョーさんの紹介で常連客が増えたことである程度経営は順調に行っていたとはいえ、まだまだ赤字だ。それなのに私にここまでしてくれるなんて。私はこのまま彼に甘えていて良いのだろうか。分からない。
そうこうしているうちに彼は会場についた。
さぁ、個展だ。がんばらないと。
<第三話終了>




