彼と私。
私の夢は絵描きとして有名になることだ。これは遡ると、小学生三年生の頃に描いた絵を両親に褒められたことから始まったと思う。そのころから夢を追いかけて早十五年。今ではもう二十三だ。中学校、高校では美術部に入った。その流れで当然大学も美大へ行こうと考えていたのだが、どうやら私の絵の才能は思ったよりもなかったらしく、不合格になってしまった。
家には浪人させる余裕はなかったらしく、両親は私に絵の道を諦めるように迫ったが、私はどうしても諦めきれず、両親に黙って、なけなしの貯金を握り一人上京した。なぜ上京したのかと言われると、単純に人がたくさんいれば自分の絵も評価してくれる人がいるだろう。という考えからだった。
住むところを探すのにはほとんど苦労しなかった。私はお金さえあればすぐにどこかに住めるだろうと考えていた。しかし、その考えは甘かったことをすぐに理解する。どこかに住むためにはいろいろな書類が必要なのだ。しかもその書類の大半は両親を通さないと手に入れられなかったりするものであった。両親に連絡をとるのは非常に嫌だった。そのため私は居候させてくれる人を探した。
居候させてくれる人は思いのほか早く見つかった。これには私も驚いた。彼の名前は山城といった。なんでも、彼が店を始めるにあたってインテリアとして絵を飾ろうとしていたのだが、そこでたまたま私の絵が目に止まったらしい。
そうして彼は私の身の上を聞き、従業員第一号兼専属画家として私に住まいを提供してくれることになった。私は安堵した。一人暮らしをするということはそのうち働く場所も探さなければならなかったのだが、それが目下の問題であった住む場所と一緒に解決したからだ。
彼は私の絵をとても評価してくれた。なんでも彼の両親は古美術商を営んでおり、その関係で絵を見る目を養ってきたらしい。その話を聞いたとき私はやはり都会には見る目がある人がいるのだな、と思った。そうして私は彼についていき居候することになった。
彼は二十三区から外れた郊外にある寂れたテナントでバーをやるらしい。本当は二十三区内で店を開きたかったのだが、さすがに土地代が高かったとのこと。私の出身地にはバーなどなかった。そのため私は都会らしい華やかな店で働けることに興奮した。彼はとてもはりきっていた。すでにテナントは借りきっていてあとは準備をして店を開くのみだった。
彼は試しに私の絵を店に飾ってみて、やはりこの店によくあっている。といって笑った。
そうしていろいろ準備をしているうちに開店前日になった。その日は彼と彼の友達、親も呼んで宴会をした。最初みんなは私のことを彼女だと思ったらしい。彼は私のことで散々からかわれていた。彼の友達にはいつ結婚するんだなどと言われる始末だった。正直言って彼と私は出会ったばかりで全くそういうことは考えていなかった。そもそも、付き合ってすらいないのだ。みんなは私と彼が開店のために朝早く起きなければならないことに配慮してくれた。その日は日付が変わる前にお開きになった。
<1話終了>




